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有能なメイドは安らかに死にたい  作者: 鳥柄ささみ
2章【告白編】

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46 真実

「でも、一体どうすれば」

「近々、私が隣国境の内紛を鎮めに行く予定だ。そのときに謀反を起こすしかない。時間はどうにか遅らせよう。そうだ、君は念のため里帰りするのがいい。もし私が失敗してしまったら、このままでは、きっと真っ先にマーシャルの命が狙われる」


頬を撫でられ、額を合わせられる。彼が私を想う感情をヒシヒシと感じ、涙が溢れてくる。


「ですが、私は貴方のお側にずっといたいです」

「ダメだよ、お願いだ。これだけはどうか聞いて欲しい。私は君には生きてもらいたいのだから」


そう言って優しく抱き締められ、ほろほろと涙を溢す私の頬を優しく拭うと、そのまま口付けられる。そして、バラムスカは戦地へ赴き、私は国へと帰った。








「……あとは、知っての通り、バラムスカはバレス皇帝に返り討ちにされ還らぬ人に。私は本当はバレス皇帝の妻として所望されたけど、断ったことで殺された。……いいえ、本当は自害したの」

「自害……?姉様は殺されたって」

「えぇ、表向きはね。バレス皇帝は私を無理矢理にでも連れて行こうと思ったけど、私がそれを拒んで自分で自分に刃を刺したの。母もその後に狙われたけど、母はもう子供が産めない身体だったから、殺したみたい。でも、貴女は違う」

「え……?」

「彼の計画は、呪術使いの中でも本家筋でないといけないそうなの。あのとき、ペンテレアの国の女性は何人も連れて行かれて子を産まそうとしたそうだけど、結局子は誰1人授からなかった。そこで、我が家の蔵書を隈なく探したところ、呪いを超えるほどの力を持った血筋でないと子ができないということがわかったの。つまり、呪術使いの中でも本家の血筋、私達の母の血筋のみが彼の子を孕み、産むことができるということ」

「ということは、それじゃあ……」


(あぁ、なんということだ。だから、バレス皇帝は血眼になって探していたのだ、私を。死んでるか生きてるかもわからぬ娘を、『生け捕り』という命を出してまで)


「えぇ、ステラ。貴女だけが『転生計画』でバレス皇帝の転生先を産むことができる相手なのよ」


ショックで思わず声を失う。命を狙われていることはわかってはいたが、まさかそんな理由だったなんて。


「でも、それならやはり私が原因で戦争を……?」

「それは違うわ、ステラは確かに本命ではあるけど、もう彼も高齢。少しでも別の手立てを得なければならなくて、マルダスと手を組んで科学技術で延命しようとしてる。そのために物資豊かなコルジールを狙ってるのよ、マルダスの荒地とは違って、実験に必要な素材が豊富だから」


そうか、そうだったのか、と納得する自分がいながらも、どこかやはり引っかかりはある。それはずっと燻り続けていた私の本心だった。


「ねぇ、姉様」

「……ステラ」


もう読心術を会得してる彼女なら私が抱いている訴えはわかっているはずだ。だが、口にせざるを得ないほど、私はとても苦しかった。


「……どうして、どうして!一緒に私も殺してくれなかったの?!」


それはずっと国を出た頃より抱いていた想いだった。私も一緒に家族と死んでいたら、こんなにつらくて悲しい想いをしなくて済んだのじゃないか、と。すると、そっと姉に優しく抱き締められる。


心音は聞こえない。だけど、感じる温もりは、生前のようにとても温かいものだった。


「私がステラに希望を見出したから」

「……え?」

「全部私のワガママ。私が戦争を引き起こしてペンテレアを亡国にして、私が全ての元凶だと言っても過言ではないわ。怨まれるべきは全て私。……でも、でもね、1つだけ千里眼で見た未来に、ステラが笑っている姿が見えたの。遠い遠い未来、もっと大人になって素敵な貴女が」


肩が濡れている気がして顔を上げると、姉も目にいっぱい涙を溢れさせていた。いつも笑っている姉が泣いているのを見るのは初めてだった。あの最期の夜ですら、気丈に涙も見せずに振る舞っていたというのに。


「だから生きて幸せになってもらいたい、と。私のぶんしっかり生きてもらいたいと、そう思ったの。これも私のワガママで、押し付けだけど、だから貴女には生きて幸せになってもらいたい。貴女には知識も才能もあるし、頼れる愛しい人もいるのでしょう?だからお願い、私のワガママに付き合ってちょうだい?お願いだから……」


初めての、姉のワガママ。常にニコニコと何でも言うことを聞いて受け入れてくれる彼女がするワガママはとてもいじらしい。


「……聞けないわけないじゃない」


そんな姉の最期の願いを聞けないわけがない。


「姉様って本当に狡いわ!」

「えぇ、知らなかった?私って性格が悪くて、悪どいのよ?」


2人で笑い合う。姉とこんな話し込んだのは初めてかもしれない。生前にこんなやり取りができたらよかったのに、とちょっとだけ寂しく感じた。

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