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温暖な冷戦

『時代は冷戦期に突入した。』


 ベルマギーア講和条約の締め文句であった。

 日本国の全国民は地球での米ソ冷戦を連想し、互いに宇宙開発競争・軍拡競争を活発させ、互いのイデオロギーで双方の思想主義を『悪』と呼称し、宗主国同士の関係はいつ戦争が起きてもおかしくない状態に陥る。

 誰もがそう思った。


 日本国 兵庫県 『甲子園球場』・・・。

「ストライクッ!バッターアウトッ!!」


 だがその実態は日本国民の予想に反し大きく違っていた。


 甲子園球場にて日本国の旧WBC出場選手、愛称『サムライジャパン』と、大日本帝国の硬式野球最精鋭集団との熱い試合が繰り広げられていた。


 そして実況者が試合の状況を説明する。


「さぁ~。10回裏、サムライジャパン3点リードの状況で帝国の攻撃。

 1アウトでランナーは1塁2塁。バッテリーには2番木村が入ります。」


 日本国では高校生ですら球速150km/hを叩き出すだけに、実力差は歴然かに思われたが、大日本帝国の選手団はそれに喰らいつき一時7点差まで開いていた点差を8回裏で2点差まで詰めよった。

 しかし負けじと9回表にサムライジャパンは1点を追加した。


「タイムリーでは足りません。同点までにはホームランが必要です。」


 ピッチャーマウンドに立つ荒木投手は、切れのあるスライダーを軸にストライクを連発。木村打者を空振り3審で打ち取った。

 だが続く3番にスライダーを見切られフォアボールで満塁のピンチを招いてしまった。


「これが最後になるかぁ~?バッテリーには4番、須藤が入ります。」


 ヒット、ツーベースまでは許容範囲だが、ホームランを打たれればサヨナラゲームを貰ってしまう。それだけは何としても避けたい。

 このまま須藤打者を打ち取り逃げ切る。荒木は決意をボールの込め大きく振りかぶった。


 翌日・・・。

「いやぁ~。惜しかったな。」


「2ストライクまで良かったんだけど、ストレートを打たれえ場外とはなぁ~。天晴れだな。」


 試合結果は大日本帝国選手団の逆転サヨナラ勝ちであった。


 世界は日本国の東側諸国と大日本帝国の西側諸国の冷戦期と言われているが、実際のところ両国関係は表面上は対立関係にあるが、民間交流は盛んに行われており、どちらかの思想を絶対悪と呼称しておらず、ぬるま湯に薄い氷が張っている『温暖な冷戦』と揶揄されるほどであった。

 スポーツで言えば野球のほかに柔道・剣道・空手・相撲に加え、囲碁将棋の対局においても両国の大接戦が繰り広げられており見るものを釘付けにした。


 防衛省・・・。

 そんな中でも防衛体制には万全を期さなければならない。

 防衛省は情報収集に余念が無かった。


「大日本帝国からもたらされたヨル聖皇国の兵器の情報です。ご丁寧に挿絵つきで特徴もつぶさに記載されています。」


 無造作に散らばした挿絵を、資料を片手に並べていく。


「5万t級戦艦は『ビスマルク級』、3万t級巡洋戦艦は『シャルンホルスト級』、重巡洋艦は『アドミナル・ヒッパー級』、軽巡洋艦は『ライプツィヒ級』、駆逐艦は『Z1レーベレヒト・マース級』にそれぞれ酷似しております。

 ですが、外見上は主砲口径と門数が一致しており対空砲は無く、軽巡・駆逐にいたっては魚雷も搭載しておりません。数では前世界のドイツ国防海軍を大きく上回っていますが、質では劣るのものと予想できます。


 装甲車にハーフトラック、戦車も完全に国防陸軍のそれです。

 ティーガーとパンターが主力と言うことは技術水準は前世界の1943年と大差ないでしょ。


 主力戦闘機もこれまた『メッサーシュミットBf-109』に酷似しています。機銃2丁と機関砲2門と言うことからE型でしょう。

 爆撃機も『ユンカースJu-87シュツーカ』ですね。悪魔のサイレンも健在だとか。


 次に、問題はこれです。ヨル空軍は『メッサーシュミットMe-262』に酷似したジェット戦闘機を運用しています。

 前世界での当機の運用開始が1944年6月であることから、前言撤回でヨル聖皇国軍は海軍が大幅強化された2次大戦末期のドイツ軍と思ってもらって構わないでしょう。」


 これらは全て、この世界に来たとされるヒトラーが遺して逝ったものとされているが、大きな疑問が浮かび上がった。

 ヨル=ウノアージン聖皇国を建国したのはヒトラーで間違いないであろうが、ヒトラー自身の軍事知識は第1次世界大戦の伍長としての経験しか無かったのだ。なので、たった一人でここまで大きな軍隊を作り上げられるのか。ヒトラーの他にナチスの技術者や科学者がこの世界に来ているのではないのかと。


 ヨル=ウノアージン聖皇国 首都ベルマギーア某所・・・。

 とある建物の地下にこの世の地獄と称される施設がある。

 その施設の内部は非常に薄暗く、所かしこから雨漏りしており、人の血肉が散乱し何匹もの鼠が徘徊しそれらを喰らう。

 そんな施設内部の奥から鞭打ちの破裂音と共に男の苦痛に歪む悲鳴が木霊していた。


「いい加減吐いたらドウですか?でないと本当に死んでしまいますよ?」


「誰が手前なんかに・・・。」


 そこは拷問室であり、アルゲマイネの制服を身に纏った細身の男から、まるで囚人服のようなボロボロの薄着を着せられたややがたいの良い筋肉質の男が鞭打ちの刑を受けていた。その背中には何度も打ち付けられた鞭の痕が何本もついていた。


「それにしても、いけませんねぇ。民主化革命なんて。」


 筋肉質の男はヨル聖皇国内でここ最近活発化している民主主義を掲げる反乱勢力の一派のメンバーであった。


「何度も言う通り、活動拠点の場所さえ教えていただければ貴方を自由にさせて上げますのに。」


 それでも一向に口を割らない筋肉質の男に細身の男が顔を斜めに振る。


 バチンッ


 細身の男の部下と思われる人物は筋肉質の男の背後に回りこみ右手に持った鞭を振り下ろした。

 それだけでは飽き足らず、拷問椅子に座られせたのち手の指の爪を一枚一枚剥ぎ取っては。指先を一本ずつ確実に潰していき、遂に・・・。


「拠点は『タブカノーン山』の山中に在る廃墟だ・・・。2千人ぐらい居る。」


 拷問に耐えかね情報を明け渡した。


「なぁるほど、分かりました。約束通り自由にして差し上げましょう。」


 俯いていた筋肉質の男は渾身の力を込めて顔を上げたが、目線の先にあったのは拳銃『ワルーザ』の銃口であった。


「貴方にとっての『残虐な世界』からの解放です。」


 ニヤリと口端を引き立て、喜々とした表情で細身の男はワルーザの引き金を引いた。


 バンッ


 発射された銃弾は右膝に命中。50cmも離れていない距離。細身の男はわざと外したのだ。


 バンッ


 苦痛の表情と息が詰まる声を発する筋肉質の男に、細身の男は喜々とした表情を一切代えることなく銃弾を発射した。

 今度は左膝。


 バンッバンッ


 そして両肩。


「いいですねぇ。堪りません。名残惜しいですが、次で最後です。」


 これには男の部下も気味を悪くする。サッサと眉間を打ち抜けば良いものを、あえて苦痛を与えて嬲殺しにしているのだから。

 最後と言うことはようやく止めを刺すという事だが・・・。


「おや?弾切れのようですねぇ~。」


 持っていたワザールは、排莢口が開いた状態でレシーバーにロックが掛かっていた。一発だけでも込めればいつでも撃てるが、細身の男は予備の弾丸などもっていなかった。


「まっ。じきに死ぬでしょう。後片付けしておいて下さい。」


 部下にそう言い残し細身の男は拷問室を後にした。


 拷問室を出た先は細身の男の書斎であった。

 席に座るや否や受話器を取り内線を使用する。


「交換手。コマンド隊指揮官を呼んで下さい。」


 程なくして呼び付けたたコマンド隊指揮官が書斎に入って来た。


「反乱分子の潜伏位置が分かりました。直ちに部隊を派遣し殲滅させなさい。

 総統閣下無き今、この国を維持できるのは我等しか居ないのです。抜かるでありませんよ『オットー・スコルツェニー』大佐。」


「承知している。『ハインリヒ・ヒムラー』長官。」


 後日、タブカノーン山にスコルツェニー大佐率いるコマンド部隊が展開。2千人居るとされるゲリラを全員射殺した。

 大日本帝国との戦争以降、ヨル聖皇国内では民主化を掲げゲリラ化した武装市民と、ヒムラーが長官を務める『SS武装親衛隊』や『ゲシュタポ』との半ば内戦状態が今後数年間にわたって繰り広げられることになる。

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