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ベルマギーア講和条約

注)いきなり始まります。

  『無印』と『立ち昇る太陽』を未読の方は、まずそちらを拝読されることをオススメします。

 ヨル暦1936年 10月・・・。

 ルテレベーラに大日本帝国の交渉団を乗せた船団が入港した。やはり一際目を引くのは戦艦『大和』であろう。聖皇国海軍でも排水量5万tのビルピッツワーグ級よりも巨大であり、こんな戦艦を持つ国と戦っていたと思えば、軍事に疎い市民は肝をひらすであろう。

 だが今回の戦争に参加していなかった『フリードグローセ』級戦艦は大和より10m以上大きかったが一般に知られてはいなかった。


「交渉の会場までは列車で御送りいたします。」


 休戦の後に講和が執り行われるのはヨル聖皇国の首都『ベルマギーア』である。ひし形状のデスペルタル大陸のほぼ真ん中である為、列車で一泊しないと辿り着けない距離にあった。

 

 そして、順次入港した他の列強国の交渉団がベルマギーアに到着したことで大日本帝国とヨル=ウノアージン聖皇国が率いる連合軍との講和が行われることになった。

 参加国はヨル聖皇国陣営に参戦した、ゼル=ドスツバイ法国・テル=フィーアキャトル連邦・メル=セーイエクス合衆国・キル=ズーベンオクト共和国と、それらと交戦した大日本帝国。

 そして・・・。


「「「日本が二つっ!?!?」」」


 ヨル聖皇国に仲介役を頼みこまれた日本国の7カ国。


 こんなことがありえるかとばかりに各国代表団は驚愕する。それもそうであろう、何と言ったって日本を名乗る国が二つもこの場に揃ったのであるから。


 皆一様に「どう言うことだ!?」「どう言うことだ!?」と言う声が上がったが、声が出せず鳩が豆鉄砲を受けた顔をするしかなかった者達が居た。


「なっ・・・。」「あっ・・・。」


 日本国外務大臣の牧原と、大日本帝国外務大臣の徳田であった。

 双方に他の列強国の代表が理由を尋ね詰め寄ったが、二人からすればこっちが聞きたいとばかりに事如く全てを退けた。


 だが今は日本が二つある理由を聞く場ではなく、講和条約の場であった。

 混乱が落ち着いたところで、ようやく会議が軌道に乗った。


「まずは双方の要求です。」


 大日本帝国が提示したのは・・・。

1、連合軍に参加した国は1国当たり3億円(約15億マルソ)の賠償金を課す。

2、ゼル法国とキル共和国は併合。

3、ヨル聖皇国の新鋭戦艦及び戦闘機は没収。


 ルリエナ洋、ゼファージン洋、マーマガルハ洋の制海権を掌握し、さらにはゼル法国とキル共和国は首都は新設された戦車師団と機械化歩兵師団の混成軍団で電撃占領されている。

 さらにルリエナ洋での大海戦でヨル聖皇国海軍の6割を撃滅しているので圧倒的に有利にある状況。ここまで一方的な要求も納得がいく。


 対するヨル=ウノアージン聖皇国の要求は・・・。

1、ゼル法国及びキル共和国からの撤退。

2、賠償金の上限は3000万マルソ(約600万円)。

3、武装解除の却下。


 強気の姿勢を見せるものであった。海軍こそ大きな痛手を被ったが、空軍は健在。陸軍にいたってはほぼ無傷で、さらに日本軍の上陸部隊を殲滅している。

 ゼルとキルからの撤退は両国を庇ったものではなく、3方向から同時に攻められることを恐れた為であり、賠償金に関しては、理由はどうであれ戦端を切り開いたことを認めたということだ。


 テル連邦とメル合衆国に課せられたのは賠償金だけであったが、それでも国家予算の約5年分に相当し、受け入れられるものではなかったが、参戦したルリエナ洋の海戦で惨敗している為発言権など無かった。


 大日本帝国もヨル聖皇国も一歩も譲らない押し問答が続き、時間だけが空しく流れ、この日の会議が終わっていった。


「牧原殿、少しばかりお時間をいただけぬか?」


 帰り支度をする牧原を呼び止めたのは、大日本帝国の徳田外務大臣であった。


「いかがされた?徳田殿。」


「貴国に折り入って頼みが有りまして・・・。」


 牧原と徳田は一体何を話したのか・・・。


 二日、三日と会議が続くが、どれだけ時間を費やそうが大日本帝国とヨル聖皇国の押し問答だけで終わる。いつまで経っても終わりそうに無かった。


 そして、早1週間が経過したとき、日本国からヨル聖皇国以外の代表団にある提案を示した。


 その内容は、ヨル聖皇国を緩衝地帯に、青道から西を大日本帝国、東を日本国が統治するっと言う『世界二分割案』であった。そして、ヨル聖皇国はこの案を呑めば賠償金は払う必要は無いといわれたが、これではヨル聖皇国に一切の利益が無い上、自分達が仲介役として招いた日本国が一切の代償を払っていない、所謂一人勝ちになる。こんなの許せるはず無かった。


「何を言っている!?認められるわけ無いだろ!」


 ヨル聖皇国外相シガラーは当然の如く拒否した。


「牧原殿!どういうつもりだ!?」


 講和が始まってから1週間、全く微動だにせず目と瞑ってじっと待っていただけだった牧原がようやく動いた。


「・・・我が国がヨル聖皇国に頼まれたのは「戦争を止めてくれ」ということだけ。

 よって我が国としては終結に向け全力を尽くすつもりであり、国家間の損得は二の次である。」


 いかなる形であれ戦争を終わらせる。その思いだけでこの講和に臨んでいるの出れば、仲介役としては満点であろう。


 だがシガラーは何を思ったか、とんでもないことを言い始める。


「フッフフ。そうか!貴様ら、大日本帝国と繋がっていたのだな!」


「何を言って-」


「所詮は名前に帝国とつくかつかないかだ!根底にある思考は全く同じなのであろう?世界のどこかに隠れ潜み、力をつけて我が聖皇国にとって代わり世界を支配する!

 私としたことが、とんだ失態だ。だがこれだけは覚えていろ、貴様らにこの世界はやらん!!」


 シガラーの言い分はある意味で当たっている。数日前、牧原は大日本帝国の外相・徳田からこの妥協案を提示された。


 大日本帝国としては、工業資源が手付かずの西方世界を支配でき、日本国としても戦争を終結させるという目的を達成させられることで利害が一致した。


 当然牧原も帝国の野心を見抜いていたが、どのように力を付けたところで世界一の防衛力を持つ日本国に攻め込むことはできないうえ、そもそも互いに宣戦する理由がなかった為、多少不服なれど承諾した。


「このまま踊るだけで進まない会議を続けても仕方あるまい。

 他に意見もないことですし、この場で決めましょう。賛成か反対かで挙手し、多数決で決めましょう。」


 投票権は仲介役の日本国を除いた6ヵ国が有した。


 そして、徳田は誰にも気づかれないように俯きながら、微笑んだ。


 世界分割案

・賛成 3 ・反対 1 ・棄権 2


 たった一国、ヨル=ウノアージン聖皇国が反対票を挙げた。

 日本国の国交を樹立したテル連邦とメル合衆国と、西方世界の支配を保証してくれることで喜んで賛成票を挙げた。

 ゼル法国とキル共和国が棄権したのは、両国は大日本帝国にそれぞれ単独で講和したため、反対したことろで大日本帝国の圧力によって無効とされるのがおちであるとし、反対はともかく賛成にはしなかった。


 ここまでさんざん長期化していたベルマギーア講和条約は、こうして終結した。


「いやぁ。感謝しますぞ牧原殿。」


「いえいえ。我が国といたしましてもこの案は非常に魅力的でありましたし、何より聖皇国・・・、ナチスに協力しようなどとは端から思っていなかったので。」


「ナチス?」


 徳田は牧原から事の真相を伝えられた。

 大日本帝国は転移前の世界では、ドイツ・イタリアと共に防共協定を結んでいた。そして、そのドイツの指導者がアドルフ・ヒトラーであることは知っていた。

 だが、ヒトラーその人がこの世界に来ており、ヨル=ウノアージン聖皇国を建国し、この世界全域に大きな影響力を持つまでの超国家に成長させた。彼の突出した人身掌握術と大衆扇動術を改めて思い知った。

 徳田はヨル聖皇国の内政の概要を教えてくれた返礼にヨル聖皇国の軍事力に付いての資料の写しを牧原に渡した。


 講和が終わると各国の交渉団はベルマギーアを去り、講和の会場には呆然と立ち尽くすシガラーだけが残された。


 そして、時代は日本国と大日本帝国の二極冷戦時代に突入する。

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