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花と逆さま虹の森


 初の短編小説です。誤字脱字が多分ありますがよろしければ最後までお読みください。

「これだから駄目なのよ!!」

「だからどうして駄目なんだ!!お前が悪いんだろ!!」

 

ーあぁまた始まった。


 幼い少女は部屋の隅にうずくまり目を閉じ、耳をふさいだ。


ーもうイヤだよ…何も聞きたくない。


 小さなマンションの一室をドロドロとした負の感情が満たしていく。その淀んでいく空気の中、少女はただひたすらに逃れられる場所を望んでいた。

 

 少女は喧嘩の原因が自分であることを幼いながらも理解していた。だから二人が争う姿を見るのが同仕様もなく嫌だった。

 

「だいたいあなたがしっかりしていないからでしょっ!!」

 その子の母親は叫んだ。


ーやめてよ!ママっ


「それはお前のほうがだろ!!」

 その子の父親は睨みながら言い返す。


ー違うよ!パパっ

 


 …お願いだから…けんか…しないで…


 至るところでその部屋の中を見ている者がいる。

 ある者はジトーとした目で観察し、ある者は無関心な表情をしている……そう全ては少女にしか見えない世界。

 

 少女は怖かった。


 父と母が鬼のような形相でいがみ合い、人影はその周りで何をするわけでもなく蠢いているこの状況が。

 周りのじっとりとした纏わりつくような視線が。


 聞こえてくるのは感情のこもらない聞き覚えのない言語と耳が痛くなるような金切り声。


 そのすべてが怖かった。


 少女はひたすら目をつぶった。耳をふさいだ。

 

 そんな中、一人の影が壁をすり抜けこの一室へと現れた。

 その影は明確は意思を持って歩んでいく。その場所だけがスポットライトが当たったようにひときわはっきりと見えた。

 

 コツン、と足音は少女の前で止まった。

 

「お迎えに上がりましたよ?女王様」

 

 優しそうな男の声が少女の頭の中に響いた。

 

 顔を上げる。

 その顔は目が真っ赤に腫れ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。だから、少女は目の前にいる者の姿がぼやけてよく見えなかった。


「お可哀そうに…」

 

 そう言うとその者はポケットから白いものを取り出して、少女の顔を丁寧に拭った。

 そこにはタキシードと赤の蝶ネクタイをした、紳士伯爵と呼ぶにふさわしい格好をする、顔のない真っ黒な影がいた。

 そばにはステッキが置いてある。


「行きましょう。」

 ぐちゃぐちゃになったハンカチをきれいにたたみポッケットに入れると、影は手を差し伸べた。手にはシワ一つない白手袋がはめられている。


 少女はその手をおずおずと掴んだ。

 

ーぱぁぁっ


 あたりが眩しい光に包まれ目をつぶる。

 心地良い風が吹き付けて少女の髪が舞い上がり、次第にもとに戻っていった。

 

「ようこそ。私達の世界ヘ。」

 

 声をかけられ、おのずと目が開く。


「わぁぁぁあっ」

 そこに広がっていたのは、木が生い茂る森だった。根っこがあらわになり、ビルの高さぐらいある立派な木が奥がわからないほど続いている。鳥の心地良い鳴き声がして、明るい木漏れ日がさしている。


 さっきとは打って変わりとても心地のいい場所だった。

 

 少女はその見慣れない光景に目を丸くする。

 少女が今まで見てきたものと言えば、せわしなく蠢く民衆や、無機質に並ぶビルの数々、騒がしく聞こえてくる音ばかりだったからだ。


「ご案内します。」


 影はステッキを持ち立ち上がると少女に会釈をして、エスコートするようにもう一度手を差し伸べた。

 少女はその手を握り締め一緒に歩き出した。


ーーー


 少女と影は手をつなぎ歩いていく。


「カルラ様!!花っ!!おはようっ!!」


 後ろからかけられた大きな声に、少女はビクッとして影の後ろへと隠れた。影は少女の頭を「大丈夫ですよ」と言って優しくなでる。

 後ろには紺色の毛並みを持つ人懐っこそうな狐がいた。


「コーストっ!女王様に向かって失礼ですよ?」

 影は狐の頭をステッキでぽんっと優しく叩いた。狐は「ごめんごめん」と叩かれた頭をかいた。それに対して「今度から気をつけてくださいよ」と困った人ですねと言う感じで影は狐に言葉を返す。 

 その関係はとても仲つつまじく感じる。

 

 この影の名前をカルラ、狐はコーストと言うらしい。


「何で私の名前を…?」

 少女…花は顔をおずおずと覗かせる。

 その顔はとても神妙そうだ。

「こりゃたまげたっ!僕達友達だろ!!」

 狐は「なぁなぁっ、そうだよなぁ?」と、花の足元を心配そうにスリスリとまとわりついた。

「私、知らない…」

 花はムスッとした表情で言った。狐はガーンと言う表情を浮かべた。すごく落ち込んでいるようだ。


「なぁっ、花どうしたの?」

 コーストは助けを求めるようにカルラの方を見上げた。

「女王様でしょっ!」

 今度は少し強めに叩かれる。コーストは涙目になりながらうずくまるまった。

 しばらくたち痛みが収まったのかもう一度花の方を見つめる。

「覚えてないの?」

 悲しそうな顔でそう言うコーストに

「知らない」

 と言って再びカルラの後ろに隠れる花は警戒した表情でコーストを睨んでいた。

 これがコーストに相当こたえたようで、蒼白な顔をして魂が抜けたように立ち尽くした。


「なぁなぁ」

 落ち込んでブルブル震えながらカルラを見つめるコーストに、カルラは首を振った。「諦めなさい」と。

「うっ!!」

 コーストはよろめきかけ、姿勢を立ち直す。

 

「よぉーしっ!!」

 そして一言気合を入れた。

「俺もついていくっ!!」

 こうして、仲間が一人増えてた。


 コーストは二人の前へと駆け出していき、

「絶対にっ!思い出させるからなっ!!」

 と花に宣誓し、プイといじけて前を向いた。


 花はその光景にクスリと笑い、ついていった。


 こうして、一匹と二人は森の中を進んでいった。


ーーー


「さぁっ!!ようこそっ!ここがコマドリの場所だよっ!」


 コーストは自慢げそうに話す。

 木々にはたくさんの色鮮やかな鳥が止まっていた。

 とっても賑やかだ。


「何であんたが自慢げそうなのよっ!」

 その中の一匹の鳥がコーストの頭をくちばしで突っついた。

 鳥たちの中でもひときわ綺麗で高い声を持っている。

「こほんっ! ようこそ♪ 王女様!カルラ様!」

 その鳥は翼を広げ深々と一礼する。

「こんにちは。リーナ。」

 そう言って丁寧にカルラもお辞儀を返した。

 やはり、カルラのお辞儀はとてもサマになっていた。


ーみんな私のことを知っているみたい…

 花はリーナを不思議そうに見つめた。


「どうかなされましたか?」

 リーナはキョトンとして花を見つめた。

「ううん!何でもない!」

 花はにっこりと笑った。


「何か俺の対応と違くない?!」

 その様子を見ていじける狐が一匹いた。


「リーナ、いつもの『あれ』!頼めるかい?」

 カルラはリーナに『あれ』耳打ちして命じる。

「はいっ!いつものですね?」

 にこやかに答えるリーナは、鳥たちがたくさん止まる木々に向かって『ピー』と一鳴きした。その声は木々を抜けて青空まで聞こえそうな澄んだ声だ。

 その声を合図に先程のざわめきが嘘のように鳴り止んだ。シーンとあたりが静まり変えるり、鳥たちが一斉にリーナの方向へ向く。


 その光景に花は不安そうな顔をしてカルラを見上げると、カルラの顔の影が微笑むようにざわりと動いた。


 「ピぃーーー」


 もう一度リーナは大きな声で鳴いた。


 それを合図にして、鳥たちが一斉に様々な音を奏で始める。どれも違った音、だけど一体感のある一つの曲だった。

 

 鳥の声を聞いて、コーストもカルラも体を揺らす。

 木々が嬉しそうにざわめく。

 森全体が生きているように感じる。


ー聞いたことがあるっ!

 

 花は心地よくリズムを取りながらも、そんな違和感がどこかにひっかかっていた。

 安心して、優しくて…とても温かい。心の中からどこからともなく聞こえてくるこの落ち着くような歌声は一体誰だろう。と。


 曲が止まった。


 とても長い時間聞いていたように感じる。

 

 コーストが満面の笑みで拍手をしている。それに続き、カルラも満足そうに優雅に拍手をした。花も慌てて拍手する。


「どうでしたか?お気に召されたでしょうか?」

 と花に問いかけるリーナに対し、頭をブンブンふって頷く。


 それに満足そうしたリーナは嬉しそうに笑った。


ーーー


「なぁなぁ!!」

 コマドリたちの場所を堪能した後、コーストは再び花の足元へ擦り寄ってきた。

「思い出した?」

 その問いに花は首を振った。

「駄目かぁ…」

 再び、落ち込む。


 大丈夫だよ、という感じで花の顔を覗き込むカルラの顔がまたざわざわと動いた。

 一体どうなっているのだろう?

 

 花は気になり、カルラの顔へと手を伸ばした。

 

ーざわりっ!


 影はいっそうざわめき出した。

 その光景は映画でまっくろく○すけが出てくるシーンに似ている。

 

「何してるの?」

 カルラ様の顔なんかペタペタ触ってさ。とコーストは続ける。

「ペタペタ?」

 花の手にはざわりと影が揺れ動く感触しかない。


「女王様は私のことが見えてないみたいなんだ。」

 カルラは悲しそうにして、顔を触る花の手を両手で握りしめた。

「うそっ!?あんなにお気に入りだったのに?」

 花にはなんの話をしているのかが分からない。

「コーストは見えるの?」

 名前を呼ばれ、コーストは嬉しそうにしっぽを振った。

 どんな顔なの?と、花が聞くと、

「まっ見れないくらい醜いものかな♪」

 と、明るめでそう言ったコーストに、「嘘をつかないでください」とすぐさまステッキがとんでくる。

 その後「怖がられてしまうでしょ」と少し強めのお叱りをうけている様だった。


「えーと…どんな顔って言われても…カルラは『大切なものを映し出す者』だから人によって違うんだよ。」

 コーストは改まってカルラの説明をしだす。

 

「…大切な…もの?」


 花は考えた。自分の大切なものは何だろう?と。


「そう言えば、頭がどんぐりに見えるって言ってたやつもいたなぁ」

 コーストは可笑しそうに笑いながら言う。

 すると、


ーコツンっ


 とすごい勢いでどんぐりがコーストの顔面を直撃をした。

「いったっ!!」

 顔を抑えてうずくまる。

「噂をすれば…」

 カルラは上を見上げた。そこには一匹のリスが愉快そうに「キャハハハっ!」と高く可愛らしい笑い声を上げていた。

 お腹を抑え、涙目になりながらの大爆笑だ。

 

「こっのっ!」

 コーストが上を睨むと、リスはあっかんべーと舌を出して愉快そうに笑うと、すごい勢いで何処かへかけていった。


 コーストはまだ顔が痛むようで、擦っている。

 

「彼女は神出鬼没なんです。よく、からかったりいたずらもしますが、悪いものじゃないんですよ。」

 リスがかけていった方向を見ながらカルラが言う。

「どこがっ!!」

 涙目でコーストが叫んだ。


 花は楽しそうに笑った。


 それを見て、カルラとコーストも二人で顔を見合わせ、「ふふっ」と、一緒に微笑んだ。


 そのカルラの顔は一瞬誰かの顔に見えた気がした。


ーーーー


 橋の前を、一匹の巨体が遮っている。

「またどうして、外なんて出ようとしんだ?」

 コーストは駆け寄って心配そうに質問した。


 そこには立派な熊がいた。

「いつもは洞窟の外には一切でないのに」

 その言葉がグサッと刺さったのか熊は図星を突かれ「ううっ」と涙目で唸った。唸り声は低くてとても勇敢そうに聞こえる。


 花たちは森の奥へと進んでいた。

 コーストが案内したい場所があるらしい。

 

「どんぐり池はこの先ですよ?」

 困ったようにカルラが言う。


「また、どうしてこんな遠くに来たのですか?」

 熊に優しく問いかけると、また涙目になった。

「この間、食べ物を探しに森に入ったんだ」

 熊はなぜこのような行動に至ったのか説明し始める。


「いつもの場所で、たくさん食べ物を集めて洞窟に戻ろうとしたんだ。けど…その時、急に物音がしてびっくりして後ずさったんだけど…そのときに枝につまづいて転んでしまってさ…。」

 そう言いながら、罰の悪そうな顔で熊は頭をすくめ、

「その…スベルが狙ってた卵を踏み潰しちゃったんだよね…」

 と気まずそうに言った。


「あぁ…」とコーストもカルラも納得する。


「えぇっと?」

 戸惑う花にカルラが丁寧に説明する。

 どうやら『スペル』とは、食いしん坊な蛇のことらしい。


「あいつの食べ物の恨みは怖いぞ?」

 コーストの言葉はとどめを刺すようなものだった。

 熊は鳴き出した。


「わぁぁっんっ!!どうしよっ!!何か美味しいものを代わりに取ってこいって言われたけど、僕には無理だよっ!!」

 熊の足元にはたくさんの木のみや魚が置いてある。

 だけど、どれも蛇が好みそうなものとは思えない。 

「大丈夫だって!俺がついてるからっ!」

 任せろっとコーストが胸を張った。


 ーこれと似たような状況を私は知っている。

 確かあの時は…。花は思い出そうとしていた。


 記憶の中には友達のものを壊して泣いている花がいる。

 その時は、友達に嫌われてしまうのではないかと心の中で不安が渦巻いていた。

 どんなにくっつけようとしても、それは治ることがなかくて、その同仕様もできない状態にただただ泣き叫んでいた。

 

 その時、

「大丈夫だ!その友だちに謝りにいこう!きっと許してくれるさ。」

 と…その人は花の背中を優しくさすった。

「ずっとそばにいるから」という言葉が花の頭の中でずっと響いていた。

 

ーその人は誰だったんだろ?


「大丈夫だよ。きっと許してもらえる。」

 花は自分がかけられて嬉しかった言葉を自然とその熊にかけていた。

 熊の頭を優しく撫る。「私もいるからねっ!」と。

 熊の顔がぱぁっと明るくなった。


ーー


「で…どうしましょうか?」

 先程から熊の足は一歩も動いていない。

 目の前にはオンボロの吊橋があった。

 今にも壊れそうで、ところどころ板が外れロープは切れそうだ。

「こう見えて、この橋はここ何百年もこの状態ですが壊れたことがないくらい丈夫なんですよ?」

 カルラは説明する。

 この橋が壊れないと言われても、信じることができないくらいボロボロの橋は風に揺られギィィーと音を立てた。

 渡る者をおどろおどろと待ち構えている。

 熊はそれを見て一歩下がった。

 先程から一歩下がっては踏み出してを繰り返している。


「わぁぁぁぁあっっ!!」


 コーストが突然、大きな声で叫んだ。

 カルラも花もその声にビクッと体を震わせ、熊は猛ダッシュで橋を渡っていった。

 そう、『渡っていった』のた。

 

「できたじゃんっ!」

 コーストは川の向こうにいる熊に向ってニカッと笑い片足を上げた。

「出来たね…」

 向こう岸にいる熊も嬉しそうに片足を上げる。


 コーストはこうなることを予想して叫んだのだ。


「さぁ、私達も行きましょう。」

 カルラは置きっぱなしになった木のみと魚を片手で抱え、もう片方の手で花の手を握りしめた。

 

 その手はとても温かかった。


ーーーー

 

 蛇はぺろりと魚と木のみを平らげた。

 この蛇は雑食である。

「どこにそれだけ入るんだ…?」

 コーストは不思議そうに蛇の腹をみた。


 この蛇がスベルらしい。


 先程、木のみの中にあった硬い殻を持つクリでさえ、殻ごとバリバリと食べていった。


「5点」

 蛇が顔をしかめていった。

 「あれだけ食べといてよく言う」と一同全員が苦笑いを浮かべる。

「食べ物が前にあったら食べるのは当然だろ?」

 そんな一同にとスベルは平然と言い切る。


「じゃぁ…僕は?」

 熊は許してもらえるかどうかおそるおそるたずねた。

「だめ」

 バサッと言い切るスベルに熊はうなだれる。


 そんな熊の様子を見て、カルラは

「クルトも頑張ってたんですよ?」

 とスベルに訴えかけた。熊はクルトと言うらしい。

「そうだそうだっ!!」

 コーストも賛同する。


 その二人の訴えに目を細め、

「文句を言わずに食べきった僕をもっと賞賛してほしいね。」

 スベルはふんっと鼻を鳴らした。


「許してあげてっ!」

 花はスベルを見つめて「お願い」と訴えかける。

 その様子にスベルはうろたえた後、面倒くさそうに三人を見て、はぁ…とため息をついた。

「そこまで言うなら……許してやらない事もないよ…」

 スベルは三人の熱意に負けてそういった。

 

 「「「やったっ!」」」

 花、コースト、クルトが一斉にガッツポーズをする。

 カルラも良かったですねとクルトの頭を撫でた。


「僕の卵が…。」

 納得くがいかなさそうに小声で文句を言ったスベルの言葉は聞かなかったことにしよう。


「にしても女王様がいるなんて珍しいね。」

 スベルは花を見つめながらそういった。


「もう来ないかと思ってた」

 その一言でスベルはみんなから一斉に睨まれる。

「だっ…だってそうだろ?」

 みんなの視線に怖気づきながらもスベルは続ける。

「王女様だって大きくなるんだ。周りの環境だって変わる。」

 さも、当然のように言ったスベルはいった。


「そんなことないよっ!!」

 コーストは納得いかないと叫んだ。

 もっと反論すべく口を開きかけたコーストをカルラが制した、

「やめなさい。彼の言っていることも正しい」と。


 コーストは居心地の悪そうな表情を浮かべて押し黙った。


ーーー


 さっきからコーストの様子がおかしい。

 キョロキョロと落ち着きがなさそうに前を歩いている。

 カルラもどこか不安そうだで、足取りがとても重たい。


 きっと、さっきの言葉が関係してるんだ。花はスベルの言葉を思い返した。

 それはみんなが花のことを知っていて、花自身が覚えていないことと関係しているのかもしれない。


 どんよりとした状況の中ポツンと何かが当たった。

 雨だ。

 それは次第に強まっていく。


「こっちで休みましょう。」

 カルラはひときわ大きな木に案内した。

 コーストも後を追って走ってくる。

 木陰に入るとブルブルと体を震わせ水を弾いた。


 クルトとはさっき別れてしまったけど大丈夫だろうか?


 あの後、皆は何事もなくクルトと別れてたが、帰りもあの橋を渡わなければ行けないことを誰一人として気にとめていなかった。


ーーーー


 雨宿りをしていると、

 木の反対側から目つきの悪いアライグマが出てきた。

 「あっち行けっ!!」

 コーストを見てそうそうに睨んでそう言った。


 アライグマは花とカルラに気がつくとハッと驚き、無愛想に会釈をする。


「何で俺だけなんだよっ!」

 その様子に苛立ちを感じたのか、ムスッとしてコーストはアライグマを睨んだ。

「だってオイラはお前のこと嫌いだもん」

 うぅっと唸り、アライグマもコーストを睨み返す。


 二匹は仲が悪いようだ。


「また始まりましたね。」

 カルラはそんな様子を他人事のように眺めて言った。

「あぁ見えて、二匹はとても仲がよかったんですよ。」

 懐かしむようにカルラは言う。

「だけど、コーストがたまに相手を無意識にイラつかせることを言ったり、セイムが素直になれず暴れだしたりして、今ではあんな関係になってしまったんです。」

 そう言うカルラは喧嘩する2匹を温かく見守っているような気がした。

「あの2匹が?」

 「信じられないっ!」と言う顔で花は見上げる。

「えぇ。」

 そう言ってカルラは微笑んだ。


 そこにはカルラの顔があった。

 その顔は優しくて温かくて…花が一番大好きな絵本の登場人物。

 

 確かその絵本名前は…

 「逆さま虹の森」

 花がそう言うと、カルラは驚いた顔をしてにっこりと微笑んだ。


 ぱぁぁっと雨が上がる。


 晴れた空には大きな大きな虹がかかっていた。

 とってもきれいな逆さまの虹…。


 そうだ…なんで忘れていたのだろう。

 花はきれいな虹を見ながらそう思った。


ーリーナと鳥たちが歌った歌。

 そこで聞こえたのは温かくて優しいママの歌声。

 落ち着いて心安らぐ子守唄。


ーコーストがクルトにかけたあの言葉。

 それはパパの言葉。

 優しくて頼もしい大きな手で私をなでていてくれた。

 友達の家までずっと離さず握っていてくれた温かい手。


ーそう…あの二人は元々とても仲が良かった。


 温かなベットの中。

 絵本を読むママが横にいる。

 真ん中で花は絵を指差した。

 もう片方の横にいるパパは「そうだな」と花の頭を撫でた。 



 いつしか2匹は喧嘩をやめて虹を見ていた。

 とても嬉しそうな顔で見ている。

 セイムは照れくさそうに笑って、ごめんと謝った。

 コーストはそれに驚き目を丸くすると、俺の方こそごめんと言って笑った。


「私、帰らなくちゃ。」

 そう言うとカルラは微笑んだ。

「いってらしゃい」

 コーストとセイムが手を振ってる。

 花は手を振り返した。


ーーーー


 花は目を開けた。

 そこはいつもの寝室じゃない。

 知らない人の声がざわざわと聞こえ、かすかに消毒の匂いや機械音がする。

 

 花は上半身を起こすとその真っ白な部屋を見渡した。

 花の視線がそこで止まる。

 そこには、見慣れた顔が2つあった。

 パパとママだ。

 二人の顔は泣き疲れていて、くまだらけになっていた。


 二人は白衣を着てメガネをかけた人とお話をしていた。

 花がその人と目が合うと、その人はニッコリと微笑んで「娘さん、目が覚めましたよ。」と二人に言った。

 

 バッと二人が振り返った。

「「花っ!!」」

 顔がパァァっと晴れて、二人がすごい勢いでかけてくる。

 二人が抱きつくぬくもりを感じる。

 二人共泣いていた。

 温かい涙だった。


 花は抱きつかれてキョトンとした表情を浮かべた。

 そして、幸せそうに二人に抱きついた。

 


ーーー


「おしまい」

 そう言って私は本を閉じた。


「ママっもう一回読んでっ!!」

 息子が「もう一回もう一回っ!!」と催促してくる。

 小さい頃の私と一緒でこの本が大好きだ。

「花、読んでやれ」

 息子の隣で寝ている旦那が優しくそう言って微笑んだ。


「仕方がないわね。」

 そう言いながら本のページをめくる。

 絵本は昔と比べだいぶくたびれてしまった。

 私はあの日のみんなのことを忘れない。

 この本を読むたびに思い返す。

 不思議で心温まるこの出来事を。

 

 丁寧に私は表紙をめくった。


「それじゃあ、読むわね。『逆さま虹の森』」

 

 作品提出はしていませんが、評価してくださるとうれしいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 此方も読ませていただきました。 読んでいると冒険の無くなったかわりに、文章難易度が上がった「不思議な国のア〇ス」みたいかなと思いました。
[良い点] 童話はあまり読まないのですが、親子関係や昔読んだ本を思い出させてくれて、面白かったです。 [気になる点] ちょっと誤字が見受けられるので4ptにしました。すいません。
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