第1話:ハジマリ
小鳥の囀る声が、机に寝ころんだ耳に残って心地よい。
想いは遥か遠くの水平線に陰を映し、紅に染まった葉は微睡む。
「童なれば、宿直人などもことに見入れ追従せず、心やすし。」
教科書に羅列されている文章を口にする。
古典は苦手だ。
物語は好きなのだが、古典は生理的に受け付けない。
「じゃあ次は…美宮 雅子さん。東の妻戸にから読んで」
「東の妻戸に、立てたてまつりて、我は南の隅の間より……」
今の私はメランコリアな気分と言ったとこか。
窓を全開にする。
時折、金木犀の薫りと秋桜が風に乗って飛ぶ。
冷気が肌を刺す。
冬将軍の到来も間近…か。
何とも言えぬ感傷に浸っていると、隣から手紙が回ってきた。
『何考えてんだ?』
チラリと横を見る。
何事も無かったかのように、教科書を見続けている。
返事を書こうかどうか迷ったが、書くことにした。
手紙を送ってきた主の名前は『工藤 栞』だ。
家が隣同士な訳もあってか、生まれ落ちる前から家族ぐるみの付き合いをしている。
『寒くなったなーって』
他愛もない手紙のやり取りが、授業の終わりを告げるチャイムが鳴るまで続いた。
頑張って思い出して書きます!