首切島
ある国、ある地方の水の上に浮かぶ島。
瓢箪のような形をしたその島にはいくつかの寺院や神殿があった。鳥居や銅像などもある。
観光地のようだが人の気配はない。寺院や神殿の他に土産屋などがあるが民家は見当たらなかった。
参拝のために一日何回かの船の往来があるだけで人が住まない無人島のようだ。
不思議なことにその島を取り囲む水上、水面には波がなかった。いや、正確にいうと波はあるのだが、その波は動いていなかった。そう、まるで時間が止まってしまったかのように。
しかしながら、その島の陸地、正確にはその島の陸から空の上の範囲には木々が風に揺れ生き物の気配があった。
というのも、そのいくつかある寺院や神殿の周りには草が伸び放題で長い間手入れがされていないようなのだ。
島の周りの水上には波が無く時間が止まったようであり、島の中は時間が長く経過していて植物が伸びほうだい。そんなアンバランスで奇妙な風景に見えた。
その島の寺院や神殿や鳥居がある山の中腹から森になっている山の頂上付近に不思議なものがあった。
それは高さ、横幅が5メートルほどある石だった。ガラスやダイヤのような透明な石だ。
その大きな透明な石には人が入っている。いや、石に埋まっているのだろうか。まるで北極の大きな氷の中に昔の動物がそのまま氷漬けにされているように。
その透明な石の中には女の子が埋まっていた。年齢はわかりにくい。20歳よりも若く見える。その程度しか判別できなかった。なぜなら彼女の首が胴体から離れていたからだ。いや、二分割された頭側の首と胴体側の首の端がわずかだが繋がっている。しかし、首のほとんどは裂かれて間に透明な石が入り込んでいた。当然生きてはいないだろう。顔にも生気がなく目は大きく見開いているが焦点が合うはずもなく上空を指していた。
その大きな石がある地面には草が生え放題で石の下側は蔦がからみ透明な石の周りを取り囲んでいた。
その石の側面にまた奇妙なものがあった。白い紙が張り付いているように見える。いや、紙のように薄い物ではない。その紙は人の形をしていた。人の形の立体物。人が大きな透明の石の側面にもたれて座っているような形だ。しかし、その人型は白い紙で首まで覆われている。左手はなかったが、その人型の隣に左手と思わしき腕が落ちていた。やはりその腕も白い紙で覆われていた。まるで包帯のようだ。
首から上は白紙に覆われていない。しかしながら、頭の額に大きな御札が貼られていた。その御札には朱色で何やら文字が書かれている。神社でもらえるお守りのよう、または御朱印のようだ。
その白い紙で覆われた人にも蔦がからみつき、周りに草が生えていた。まるで時が止まっているかのようだ。
その白い紙で覆われた人物はキルという名の高校生くらいの少年だった。
そして、大きく透明な石の中に浮かぶように埋まっている少女はリズという名の少女であった。
波の立たない水上の島で二人は静かな時を過ごしていた。蔦は絡まり、実は朽ち果て、その島の植物だけが悠久の時を刻んでいるかのようであった。