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鬼色奇譚(未編集版)  作者: わっせ
2/9

御門 晴

キルとクロムが振り向くとそこには20歳くらいの青年が立っていた。

「君は?」

「俺は御門 晴って言うんやけど、天狗を倒してくれてありがとな」

キルとクロムは顔を見合わせた。

「どういうこと?」

「あの御札は君がやったの?」

2人は順番に訊ねた。

「そやで。……まぁ言うてもええか。君らは人間じゃないみたいやし――」

御門 晴と名のった青年は能天気な表情で言ったが、一瞬鋭い目をした。

「俺の敵でもなさそうやしな」

「その前に君はどこの出身なんだい?微妙に言葉が分かりづらいのだが」

クロムはハルの関西弁が気になるようだ。

「ん、ああ。俺は滋賀県出身や」

「滋賀県……?滋賀……。どこ?」

「琵琶湖があるとこや。日本一の湖」

ハルは少しむっとして言った。

「俺は大学生で去年こっちの大学に進学してきたんや。よろしく」

「はぁ……」

キルとクロムはポカンとしている。

「ああ、御札やったな。あれは確かに御札で天狗――さっきみたいな人外の者を捕獲する時に使う」

「さっきの奴ってやっぱり人じゃなかったんだね」

キルが言った。

「天狗の一族って言ってたな」

クロムが言った。

「そう。まさか天狗を捕まえられるとは思わんかったわ。思わぬ収穫や」

「収穫?」

「いや、天狗なんて能力の高いやつ捕獲なんか普通できんのや。あの御札は確かに人外の者を封印・捕獲する道具なんやけど相手の能力を下げてからでないと効力が発揮できんのや」

「つまり、戦ってある程度弱らせないと捕獲できないってこと」

「そうそう、そういうこと」

「ポ○モンみたいだな。ところで君は『思わぬ収穫』と言っていたけどあの天狗を煮たり食ったりするのかい?」

クロムはクールな表情で言った。

「君、意外とボケたこというな。天狗というのはある種神様みたいなもんや。食べるか」

「ってことは……転売?」

「俺は人身売買のブローカーか、人じゃないけど。違うわ。一度捕獲・封印した者は式神って言うて仲間になってくれる可能性があるんや」

「ポケ○ンみたいだな」

「ま、まあな。一度御札で捕獲すると次からは弱ってなくても封じ込められるしな。まぁあんまり強過ぎる奴は動き止めたりできるだけやけど。君みたいな奴はな」

ハルはキルを指さして言った。

「お、俺?」

キルはびっくりして言った。

「君、鬼の一族って天狗が言ってたな。確かに頭の上に薄っすら角が見えるな」

「えっ!」

「君は一体何者なんだ?只者ではないな。この鏡の世界にだってどうやって入ってきた?」

クロムは驚いて言った。

「何を隠そう、俺は『陰陽師』や」

ハルは親指を立て自分を指さして言った。ドーンという効果音でもあるかのように自信満々だ。

「お、おんみょうじ?」

「え、知らんかな?簡単に言うと妖怪とかさっきみたいな人外の者を倒したり封印したり、その昔は帝に雇われて人や都を魔から守っていた職業や」

「ふ、ふーん」

キルはよくわからないような顔をしている。

「まぁ、簡単に言うと神社の神主やな。現代の職業的には」

「ああ、そういうこと」

「まだ、修行中の身やけどな。大学の神学科で勉強中や」

「大学ってそんなことも教えてるんだ?」

「いや、大学は歴史とか文献の研究が中心やけど」

「ただの大学生が使える能力ではないと思うが」

クロムは鋭い質問をした。

「それは、ただの血筋やな。さっきの天狗が悔しそうに『セイメイ』って言ってたやろ。あれは俺のご先祖様や。安倍晴明。聞いたことあるやろ?」

「いや、全然」

キルは即答する

「僕は知っているぞ。そういう漫画や小説を読んだことがある。ゲームも色々」

「君の方は中々見どころがあるな。鬼の一族の君はもうちょっと勉強した方がええぞ。っていうか君ら名前教えてくれへん?話しづらいわ」

「ボクはクロム。で、こっちはキル。ボクが抱えている女の子はリズって名前だ」

「あ、忘れてた。女の子な」

ハルはクロムに抱えられているリズの顔を見た。気を失っているというよりスヤスヤと眠っている。

「か、可愛いな……」

そう言うとハルは少し顔を赤らめた。それを見たキルはクロムの腕からリズを素早く受け取り腕に抱えた。

「俺の彼女なんで」

キルは少しムスッとした表情でハルに向かってベーっと舌をだした。

「そ、そうなん?」

ハルは少し残念な顔をした。

「むにゃ……」

リズは自分が話のネタになっているからなのか意識が戻りそうだ。

「この女の子普通の子と違うな」

リズをジーっと見つめていたハルは呟いた。

「わかるのか?」

クロムがハルに問う。

「そりゃそうやな。あの天狗に狙われたわけやから。何か特別な力を持ってるみたいやな」

「リズをさらったあの、天狗だったか?彼は追われていると言っていたがやはり君のことかい?」

「ん、そうや。街中で偶然人外の者を見つけたから追ってきたんや。まさか天狗とは思ってなかったけどな。そしたら、歩いている女の子をさらって逃げよったから人質をとられたと思たんやけど……どうやら違ったようやな。この女の子、リズちゃんか、この子の力を取り込むつもりやったんかもしれん」

「ああ、そんな風なことを言ってた」

キルは天狗の言葉を思い出していた。

「やっぱりそうか。それにしても君らが天狗を追って鏡の中に入ったのには驚いたで」

「それは、ボクがいるからね。鏡の中へなどおちゃのこさいさいだ。それよりも君が鏡の中に入った方法を教えてもらおうか。陰陽師とはいえそこまでの力を人間が持てるとは思えないんだけど」

ハルはクロムの言葉に少し考えて言った

「それは式神の力や。陰陽師としての能力はあっても人外の者と張り合うような力は持ち合わせてない。式神という仲間の力が必要不可欠なんや」

そう言うとハルは白い折り紙のようなものを取り出し手の平の上においた。するとハルの隣の空間がゆらゆらと蜃気楼のように歪みはじめ透明な景色の中に徐々に色がついてゆく。色が濃くなってきたかと思うとそこには着物を着た女性が立っていた。

「この女は空蝉。うちの家に代々使える式神や。鏡の中へは彼女の能力で入ってきた」

ハルがクロムとキルに紹介すると空蝉と呼ばれた女は頭を下げた。

「うつせみ・・・さんね」

キルは手品を見たような表情をして驚いていた。

「んん、あれキルではないか。どうしたのである?」

リズが目を覚ました。瞼をこすっている。

「気がついた?リズ」

キルの表情が安心とともに緩んだ。

「ん?あれ音楽教室に行く途中であったのに」

リズは周りを見渡してキルに抱えられているのに気づき顔を赤くした。キルはその反応を見てリズを足から地面へ下ろした。

「ちょっとトラブルに巻き込まれていたのさ」

クロムがリズに言った。

「う、う~む」

リズは不思議そうにハルや空蝉を見た。


これまでの状況をキルやクロム、ハルから説明されたリズはおとなしく聞いていた。これまでの自分のことがあるのでもう慣れているのかそれほど驚いてはいなかった。

その説明が終わるとハルはもう帰るとのことでキルやリズ、クロムに連絡先の交換をした。

「なんか不思議なことが起こったら読んでくれよな。協力できることなら何でもするで。じゃあ」

そう言うとハルは空蝉と一緒に歩いて帰っていった。

「浅井大学の学生か~。人間でも不思議な力を持った人がいるもんだね」

キルがハルの後姿を見ながらつぶやいた。

「そ、そうであるな」

「さ、ボクらもここを出て帰ろうか。遅くなっちゃったし。リズのお母さんは心配しているぞ」

クロムが二人に言った。

「あっそうだな。俺がついていながらリズを危険なめに合わせちゃったな。送ってくよ」

「う、うむ。ありがとうである」

そんな会話をしながら三人は鏡の中から現実の世界にもどっていった。


「ハル様、これで良かったのですか?」

鏡から出てきた御門 晴と空蝉の二人は繁華街を歩いていた。すれ違う人々は空蝉の姿は見えていないようだ。

「今日のところはこれでええやろ。偶然天狗まで手に入ったし。しかし、なんやな。あんなバケモン退治できるわけないわ。わかってたけど会ったらなおさら実感したわ。本山のお偉いさんは俺なら出来るかと思ったんかもしれんが……まぁ封印するくらいでやっとやな」

ハルは軽い調子で話している

「やはりあの鬼は手ごわいのですね」

二人はキルのことを話しているようだった。

「うーん、でも悪い奴じゃないやん。普通の子や。人に害を与えるようなことはないやろ……今は」

「そうですね。普通の子ですね。一緒にいた女の子に好意を持っている、どちらかというと正義感もある」

「ただ……天狗と戦ってる時は覚醒しそうな雰囲気やったな。あれは時間の問題や。これ以上力が大きくなってしまうと自我を失って暴走するのは確実や。あ~あ、損な役が回ってきたわ」

街でハルとすれ違う人々はハルの大きめの声での独り言を聞いて変な目を向けているがハル自身は気にする様子は微塵もない。

「なんとか力の覚醒を抑えることはできないのでしょうか」

普通の人には見えないがハルの横を歩く空蝉がハルに話しかけている。

「その方向でいきたかったんやけどな。まぁ、無理やろ。あの女の子がいたら」

「女の子を守るため……ですか?」

「そう。あの女の子は色んなものから狙われる。それを守るために力を使わざるをえんやろ。そうすると無意識的に力が解放・覚醒に向かってしまう」

「記憶を操作するのはどうですか?女の子や周りの大切なものから離れさせて感情の起伏を抑えるなど」

「使えん手ではないけど……リスキーや。記憶を奪ったとしても何らかの原因で記憶を取り戻したら感情の振り幅は半端ないし。記憶を消したところで生きる上で新しく人間関係を築いていけば大切な人ができたりすることは自然なことやから結局解決にはならん。問題の先送りにすぎん」

「そうですね……」

「それに向こうに神様みたいな者が憑いてるのも厄介やな。クロムって言うてたか」

「なんでも出来るようですね」

「いつも一緒にいる訳ではないみたいやけどな。逆に彼なら鬼の暴走を止められることはできるかもしれんけど、クロムさん自身がキルやリズ側の仲間意識っていうの?を持っていると止めることはせえへんかもしれん。う~ん、微妙やな」

「ハル様が彼らと敵対したところでやられるのがオチって可能性が高いですね」

空蝉は口元に笑みを浮かべながらハルに言った。

「言い方悪いな。まぁ、でもその通りやな」

「では、味方側につくしかないですね?」

「……そうやな。味方側から彼らをサポートする方向になるな」

「では、そのように」

空蝉はそう言うと姿を消した。

「今日の占い大当たりやったな……」

そうつぶやくとハルは夜の街に消えていった。

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