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第六幕 毛利元就はやはり只者ではなかった

※ 更新速度を上げて欲しいと要望がありましたのでなるべく早めに投稿します(出来る範囲で)

 安芸国  日野山城 



「遂に着いたな」


「ええ、後は相手の出方次第ですね」


 毛利領内に入った俺たちは先ず最初の繋ぎ(ファーストコンタクト)の相手に選んだ人物の居城に出向いた。


 その武将の名は吉川元春。毛利元就の次男で尼子の元の領地である出雲・伯耆の纏め役をしている。


 さて、もとはるはどう出てくるか?



「鹿介、一瞥以来であるな」


「駿河守様も御健勝そうで何より」


 吉川元春との対面はまずは無難なやり取りから始まった。そこからは腹の探りあいだ。


「かねてからの誘いを受け毛利に仕えてくれるか?」


「それにつきましては以前お答えした通り我らは尼子家に長年の恩義がありお応え出来かねます、が我らの願いを御聞き届けていただければ……」


「ふむ、その願う事は想像が着くが、その件は俺には決めかねる、ならば行くか」


「では?」


「そうだ、吉田郡山城、毛利の本城よ」


「判りました、お供いたします」


 こうして、俺たちは吉川元春と共に毛利元就の待つ吉田郡山城に向かうのであった。



「山中鹿介幸盛です、月山富田城以来でございますな」


「湯新十郎、改めまして亀井幸綱と申します」


 同行して来た新十郎は出発前に元服し同時に時と結婚し亀井の名跡を継いだ。


「よく来たな、態々元春を訪ねて来たと言うことは、何かあったのか? 仕官を求めに来たのではあるまい」


 ご賢察である。以前月山富田城で会って以来その時よりも痩せてはいたが眼光は鋭く変わっていない。


 戦国時代を体現したと言っても良い武将、後の世では謀神とも呼ばれた人物だ。彼の上座の席の横に居る若者は当主である毛利輝元だ、前にあったときはまだ少年と呼べる年であったが成長したようだ。


「流石でございますな、陸奥守様には隠し事は出来ないようで、ここに参りました訳もご存知なのでは?」


「ふん、尼子家当主達の赦免であろう、そなたが望むのはそれしかあるまい」


「左様でございます、某が望むのはその一点のみ」


「だが、それは出来ぬと判っておろう」


 毛利の隠居、陸奥守元就と当主輝元の座る上座をこちらから見て左側、吉川元春の隣に座る男が口を挟んできた。元就の亡き正室の三人の男子の中三番目で吉川元春の弟に当たる小早川隆景が畳み掛ける。


「その上で今日此処に来たのは何故だ」


「今日は月山富田城が開城して三年になります、その為そろそろ尼子家の方々を御寛恕いただきたいとお願いに上がった所存です」


「だがまだそれは出来ん、今尼子の者を野放しにすれば出雲の地にて彼らを迎えて蜂起する者が現れるであろう」


「では、せめて虜囚ではなく、客人として遇していただきたい、そうでなければ元家臣たちが伺う事も出来ませんからな」


「客将として遇せと言うのか! だが彼らを出雲に行かせるわけには……」


「某は別に出雲へと言う事は言って居りません。むしろ長門や周防にしていただきたい」


「な! どういうことだ」


「確かに出雲へ帰っていただきたい思いはあります、ですがそれではいらぬ争いの元となりましょう。地縁の無い長門や周防の方が良いのです、そう武田家のようにね」


「安芸武田家の事をどこで知った? いや、尼子には鉢屋がいたか……」


 小早川隆景は勝手に想像してくれるが実は俺の前世知識なのであった。元就と度々戦った安芸の元守護家である武田家は元就に滅ぼされたが当主の遺児を元就が保護して周防に住まわせている。嘗て敵対した家の者を保護しているので今回の事も前例が無い事ではない。


「ふふふ……隆景、お前の負けじゃな、山中鹿介は戦場だけでなく頭を使う場面でも強いのだな」


 なんか褒められてるのか微妙な表現だな。


「そなたの考えは判った。尼子の兄弟は赦免し我家の客分とする。」


「な!」


 元就の宣言に隆景が絶句し。


「御爺様!」


 隣に座っていた輝元が声を上げる。というか公の場ではその呼び名不味いんじゃないかと内心思ったがスルーする事にした。


「有り難き幸せ、感謝いたします」


「だが、義久達がそれを良しとするか、その説得はそなたがやるのじゃぞ」


「勿論です」


 こうして尼子家の再興はその一歩を踏み出したのだった。



 吉田郡山城 元就の私室


「御爺様宜しかったのですか?」


「輝元よ、公の場で御爺様は止めろと言ったであろう、大将たるもの感情を相手に読ませてはならん、それでなくても……」


 元就に説教をされる輝元、元春と隆景はいつもの光景なので平然としていた。この部屋は人払いがしてあり彼ら四人しか居ない。


「さて、本題に入るか、そなたたちの懸念は分かっておる、幽閉を解かれた尼子家の者たちが旧領を窺う危険があると思って居るのじゃろう」


「そうです、旗頭となる尼子本家の者たちがいてあの山中鹿介たちが加わればようやく落ち着いた出雲の国人達がどう動くか」


 隆景がそう自分の懸念を述べると輝元も頷く。


「儂はそうは思わんな」


 元春はそう口にした。


「兄上のその根拠は何ですか?」


「まあ、鹿介という男が堂々と訪ねて来たことかな、其処までして裏切れば尼子と奴らの信用は地に落ちる。その様な真似はしないと思うからだ」


「それは甘いのでは? 今は乱世です、裏切りなども当たり前なのですぞ」


「確かにそうだ、だがその果てにあるのは何だ? 信用がない者は最後には滅びる。自分自身の蒔いた種によってな」


「しかし!」


「もうよい、隆景よ、儂も元春と同じ思いじゃ」


 元就はそう言って皆を見回す。


「鹿介の行動はずっと世鬼に見晴らせておったがあやつは自分の行動を隠しはしなかった。傍に鉢屋の衆が居るにも関わらずじゃ、世鬼はわざと見せておったのではと報告してきたわ」


「あやつはこの3年どこに居たのです?」


「播磨の同族の居る里を経て京に上り尼子本家に反逆の罪で粛清された新宮党の生き残りに会った後、大和を廻り尾張から三河、駿河を経て甲斐、信濃、上野を巡り相模に向った後関八州を巡って越後を経由して陸奥に行った後、船で敦賀より京経由で播磨に戻りそこに暫くおったという事だ」


「其処まで分かっているのですか! 奴はまるでそれを我々に見せるために?」


「そのようじゃな」


「信じられない」


 隆景は呆然として、元春はさもありなんと頷いていた。


「では大殿は本気で尼子家を客分にされるので?」


 輝元が聞くと元就はにやりと笑い答えた。


「折角出雲でなく周防か長門に居たいと言うのだ、叶えてやれば良い、毛利にも利のあることであるからな」


 元就は早くも鹿介たちのしている事に気がついていた。


 その判断力は戦国の世を生き抜いた彼だから持ちえた物でやはり只者ではないのであった。




読んでいただきありがとうございます


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