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第五幕 布石から始まる交渉への旅立ち

執筆が遅れ申し訳ないです


  鴻池村に着いて2箇月が過ぎた。


 その間に行っているのは新たに仕入れた仕事の種をこの村に集まっている衆に伝える事、今回集まった者たちは鉢屋の衆だけではない。


「鉢屋と付き合いのある木地師と山師、それに陶器職人ですか、今度は何をするんですか?」


「まあ、まだ直には形にはならないな、時間が掛かるから今の内に仕込まないとな」


 そう言いつつ俺は槍を振るう、この二年の間鍛錬を欠かしたことは無いが未だに会心の動きが出来ない。鹿介の体は一騎打ちでも勝てるほどハイスペックだが中身の俺は只の人だ、例えるなら軽自動車しか乗った事のない者がいきなりF1マシンに乗る様なものだろう。大和の国で宝蔵院に行き教えを乞うた時丁度居合わせた上泉信綱一行にも稽古をつけてもらった時に痛感したのだ。



「そなたの心・技・体は均衡が崩れておる、技と体は衆に優れて居るが心はまるで素人じゃ」


 上泉殿はそう評したがまさに図星で答えを返せなかった。そして彼の門弟たちと稽古に励んだ。


「その型は悪しゅうござる」


「!」


 そう言って疋田景兼こと疋田豊五郎は俺の竹刀をすり抜けてしたたかに胴を打った。


「参りました」


「大分良くなってきている、後は日々鍛錬を怠らねばよい」


 飾りのない兜に格子状の面を着けた物を外しながら豊五郎は講評する。


「はい、勤めます」


 俺は胴を外しながら答える。剣道の防具を真似て防具を作ってみたが「実戦的だ」と皆に好評でこれから稽古で使うそうだ、柳生から来ていた柳生宗厳も取り入れると言っていたな。



 鍛錬の後の汗を井戸端で拭いながら俺は一緒に稽古していた新十郎と話をする。


「そろそろ出立されるんですか?」


「立原の叔父貴がもうすぐ帰ってくる、それを待ってからだがな」


「ですがお陰で大分人が集まりました、商いの方も順調で助かります」


 そう、立原の叔父貴は出雲に入り嘗ての家臣たちの所を回って勧誘している。尼子家降伏の後最後まで付き従った者たちの大部分が帰農した、今更毛利に仕えるのを良しとしなかったのだ。早めに毛利に降った国人領主達や益田や吉見などの石見の国人領主達からの誘いを受けた者たちも居たがそれも断っている。だが生来畑仕事が性に合わない者たちは居り鬱屈していたようで叔父貴の誘いに乗って播磨まで出向いてくれた者は十や二十人どころではない。


 彼らには堺や京などに酒や干し椎茸などを売りに行く隊商の護衛役として雇っている。治安の良くない所が途中にあり、長年毛利との戦いで荷駄を守りながら戦った経験のある彼らは適任だったようだ。彼らは家族で来ておりその為仕事の為に集めた鉢屋の衆と合わせて鴻池村は大変な賑わいとなった。


 最近は大和の松永久秀の所に仕えている元石見の領主である福屋隆兼を通じて松永久秀とも商売が出来るようになった。これで計画が又進むな。


「ここはこのまま計画通りに進めていけばよい、叔父貴が戻ったらいよいよ取り掛かるぞ」


「はい! 毛利に乗り込むのですね!」


「そうだ、そして殿たちを解放するのだ」


 そしてその日の日暮れ時に立原の叔父貴が戻ってこられた。



「では出雲では尼子への郷愁が強いのですか?」


「特に尼子家の元直轄地や取り潰された家の元領地ではな、三刀屋や三沢など毛利に寝返った者たちはその反対だ、尼子家の事を語るのさえ禁じておる」


 立原久綱は出雲で見聞きした事を思い出してか眉間に皺を寄せて話していた。


「彼らは毛利に忠誠を誓わないと家を保てませんからな、だがそれでも足りますまい」


 鹿介がさらりと言うと久綱と新十郎の顔色が変わる。


「ではいずれ奴らは潰されると?」


「毛利としては強い方に靡く者たちよりも自分たちに忠誠を誓う譜代の者たちの身代を大きくしたい筈ですからな。

{狡兎死して走狗烹らる}と言うわけです」


 鹿介は彼らが辿った末路を知っているので淡々と答える。その答えに久綱は唸り新十郎は顔を蒼くする。


「裏切った者達なれど哀れに感じるな」


「忠義を尽くした者たちは領地を追われ、寝返っても身の休まる時は無しとは」


「故に我等を頼ってくるのだ、今回はかなりの人数が来る事になる、受け入れは大丈夫なのかな?」


 久綱の問いにそれらの差配を任された新十郎が答える。


「取り敢えず長屋を建てていますから大丈夫ですよ。最も急造なので上等とは言えないのですが……」


「いや、彼らにとってはそれでも十分だ、向こうでの生活は厳しい物だったからな」


 彼らの向こうでの暮らしは相当厳しかったようだ、慣れない畑仕事と貧しさにこの度の話は非常に有り難い話であったようだ。彼らは家族でこの地に来る事に希望を見出し向かってきている。その地を治める毛利の目を掻い潜って。


 久綱の言葉は鹿介と新十郎を打ちのめした、そして彼らはより一層尼子家の再興を誓うのであった。


読んでいただきありがとうございます


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