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余話 第五話 義光妹に鮭を説く

 天正4年


 蘆名の元に迎えられた前公方足利義昭は信長追討の御内書を発しそれに坂東や陸奥みちのくの大名たちの大半はそれに応じて兵を挙げた。中立を決め込むものも幾つかいたがはっきりと織田陣営に付くと表明したのは佐竹が前公方に応じたためそれを宿敵とする小田氏治、そして鹿介の縁で以前から誼を結んでいた最上義光のみであった。


 最上の周りは葛西や大崎は様子見という中立、表向きは当主病や不作によって兵が集められないと言った理由を付けていた。安東は織田方に使者を送り織田寄りの中立。南部は参加は表明していたが配下の大浦や九戸が織田方に付くべしと兵を集めていたためその対処で兵が出せていない。これは義光が調略で大浦や九戸に働きかけ南部もそれをうすうす察していたという言わば出来レース的な物であった。


 その中で伊達だけは奥州探題に任じてやるという前公方の誘いに乗っていた、義光の調べでは当主の輝宗は参加するのは否定的であったが家臣たちが前公方の権威に靡いていたのと現実的に奥州探題の利権にありつきたいと言う欲からであった。


「愚か者め、帝を擁する織田殿に楯突くなど朝敵にしてくれと言わんばかりではないか。朝敵になっては鮭どころではないというのが判っておらぬのじゃな」


 義光がそう言って笑うと氏家は内心で(なんでそこで鮭なのです?殿!)と叫んでいたが表には出さず疑問に思っていたことを尋ねる。


「蘆名はそれが判らなかったのでしょうか、あの止々斎(盛氏)殿が」


「判ってやっておるのかも知れぬな。止々斎殿には後を継ぐ子が居らぬ。養子を迎えるにあたって伊達にするか佐竹にするか等の声が家臣から上がっていると聞く。面白くはあるまいな」


「では、滅びを前提として?」


「そして周りを全て道連れにしてかも知れぬな。周りの名家と言われる家々が悉く滅ぶのを見るのが楽しみなのかもしれぬぞ」


「真逆、そのようなことをお考えなのですか止々斎(盛氏)殿は?」


「さてな、本心は本人でないと誰にも判らん。儂の推量よ。鮭を食しておればそのような事は考えずに済むというのにまったく度し難い」


(いえ、殿の鮭好きのほうが度し難いです)


こうして織田方との戦端が開かれた。



坂東では小田原城を義昭の激に従う大名達の連合軍が攻めよせていたころ義光の城に伊達から使者の一行がやってきた。いうまでもなく義光の妹が業を煮やしてやって来たのであった。


 その時義光の元には蝦夷地より特別な荷が届いておりそれを見て義光は浮かれていた。


「これが鹿介殿の言っていた{鮭の王}か、少し小ぶりと聞くが我が領の川で捕れる鮭よりもでかいな。さすがに王の名にふさわしい貫禄だ」



そこに氏家が慌ててやってくる。


「殿!伊達家より使者が!」


「またか、今少し待たせておけ、どうせ前公方に馳走せよというのじゃろう、しつこいのう」


「今度の使者は唯の使者ではありませぬ、妹君自ら来ております」


「なんと、早く言わぬか、ちょうど蝦夷地より珍しい鮭が届いたのじゃ、一緒に食べるとしよう。誰かあるか、早う料理の支度をするのじゃ!」


 それを聞いた氏家は(殿、それどころではないのでは?)と心の中で叫んだのであった。


 義光の私室で会った妹は激高していた。何度も使者を遣わし伊達と共に進もうと勧めてものらりくらりと返事を伸ばしてきて挙句の果てには{珍しい鮭が蝦夷地より来るそうなので行けません}だったのだ。


 公方の激に応じ伊達家と共に行く事を説く妹に義光は鮭を引き合いに出して答える。


「…公方と言っても元公方というだけそれに付くなど御家の危機よ、我が最上家は公方には付かぬ!」


 今更ながら伊達家が朝廷の意に背くものすなわち朝敵となっている事に気が付き青くなる妹。


「兄上、我等はどうすれば?伊達家は公方に味方し兵まで送ってしまいました」


「義姫よ、案ずることは無い、この手紙を持って帰り輝宗殿に見せるのじゃ、そうすれば伊達家は救われるであろう」


「おお……」


 その手紙には最上が織田にとりなすゆえ兵を引くようにと書いてあった。


 そこに鮭延がやってきて義光に告げる。


「殿、鮭の準備整いましてございます」


「そうか、ご苦労、妹よ蝦夷地から届いた{鮭の王}一緒に食そうぞ。落ち着いたら腹が減ったであろう」


 そして義光の見立て通り蘆名を始め多くの大名たちは織田方の攻撃により消えていったが伊達家は当主が出家して隠居と領地の削減だけで済んだ。減った領地も政宗が信長の親衛隊に属した時に与えられたため全体では安堵されたも同然であった。


義光は信長に御礼として鮭を山盛りで送り信長を喜ばせたという。



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