第四幕 創業から始める再興
摂津国 鴻池村
こちらの世界で目覚めてから凡そ2年が過ぎた。
あれから各国を廻り色々な出会いもあり収穫もあった。その間立原の叔父貴は出雲に潜入して情報集め、新十郎は俺と行動を共にしている。
「ようやく戻ってきましたね」
「ああ、久しぶりだな」
新十郎がやけに嬉しそうだな。
「時に会うのも久しぶりだからかな?」
「えっ!いえ・そんな事ないですよ」
「顔が赤いぞ、武将を目指す者表情を読まれないようにしないとな」
「兄者~」
俺は新十郎をいじりながら村に足を踏み入れた。鴻池村は変わりなく……変わりまくってるな。
「源四郎」
「はっ、これに」
後ろを歩いていた源四郎が素早く傍に来る。相変わらず素早い動きである。
「なんか蔵が増えてる気がするんだが気のせいかな?」
「間違いなく増えておりますが何か?」
「いったい何があったんだ?」
「それでしたら信直様にお聞きになられたらよろしいかと」
もう一人の叔父上にあたり村の支配をしている山中信直に聞くことにした。
■
「信直叔父上!」
「おお、鹿介よ、息災であったか」
「長らく無沙汰しておりました」
「いや無事に帰ってきて呉れれば良い、千明も待っておった。すぐに顔を見せてやれ」
「判りました」
新十郎と叔父上の屋敷の離れに向かう、新十郎がニヤニヤしている。
「兄者も義姉上に早く会いたいでしょう?」
「こいつめ」
俺たちが離れに着くとその戸ががらりと開き其処から姿を現したのは久しぶりに見る顔であった。
「鹿介さま!」
「千明!」
俺は千明を抱きしめようとして手が止まる、なぜなら彼女の腕の中には……
「お帰りなさい、この子の名前は甚太郎よ」
鹿介の妻である千明が抱いているのは俺が旅をしていた間に生まれた子供であった。
■
「そうか、もう一歳を越えたのか」
「貴方がこの里を出てから身籠って居るのを知って八月後に産まれたの、信直叔父様が山中家の長男の幼名である甚太郎と付けてくださったの」
「そうだな、大事な山中家の跡取りだからな」
「亀井の当主でもあることを忘れないでね」
「まあ、お時が成人して新十郎と一緒になるまでだけどな」
彼女は尼子の重臣亀井秀綱の長女である。亀井家は毛利との月山富田城での戦いで男子を皆失い彼女と妹の時のみとなっていた。その為俺が亀井家の代表代行を兼ねているのである。その為公式な書状などでは使い分けないといけないので非常に面倒だったりするのだが、新十郎が亀井の婿になり亀井の家督を継いでくれれば解決するわけだ。
「時に源四郎」
「ハッ!」
千明が俺の後ろに控えている源四郎に声を掛ける、というか声を掛けるまで控えているのが判らなかった。鉢屋恐るべしだな。
「鹿介様には旅の間懇意にしていた女子はおったか?」
「!!」
「いえ居られませんでした、殿は忙しくお働きで女子を近づけることはなさいませんでした」
おい!なに調べてるんだよと突っ込みを入れそうになった。
「左様か、鹿介様、生真面目なのは宜しいのですがそれでは心が休まりませぬ、偶には息抜きが必要ですよ」
「はあ」
なんか意外な反応で気の抜けた返事をしてしまった。浮気は駄目よとかいうのかと思ったが……時代が違うとそういうものなのかね?
「この件に関しては私が源四郎と相談して対処します、宜しいですね」
「はい……」
一体何を相談するのか非常に背筋が寒いのであった。
■
信直叔父上の屋敷に伺い改めて挨拶を行う。
「鹿介が出て居るうちに椎茸の栽培が当たってな、堺に送って大儲けしたので酒蔵を増やしたのじゃ」
「そうですか」
最初にこの里に来て源四郎に頼んで鉢屋の衆で忍び働きの出来ない者たちを集めてもらい椎茸栽培に乗り出したのだ。山から木に生えた野生の椎茸を探してきてもらい木を切った時に出来るおがくずを集めて蒸篭で蒸して消毒したものを壺に詰めた物と一緒に締め切った小屋に置いておく。おがくずに胞子が付いて菌糸を張った物の中に蒸して消毒した木片を入れて菌糸を移しそれを一定の長さに切ったなら等の木に打ち込んで林の中に並べる。椎茸の原木栽培をやって成功したのだ。
「酒の方はどうでしたか?」
「お前の言った通りに三段仕込みにしてから酒の生産量が上がってきておる、濾過をすることで澄酒として今年から売り出して居るが飛ぶように売れておるな、堺の豪商が争って買っておるよ」
その為酒蔵を増やしたのだという。
「この地の領主、荒木殿は何か言ってきましたか?」
「この村が豊かになれば必然的に奴も潤う、ほくほくしておるわい」
「それは重畳、もし製法の秘密を狙ってきたら……」
「その時は鉢屋の衆がすべてを持ち去り後に何も残さぬように手配りはしておるよ」
「この事業は尼子再興の為に必要な事です、叔父上にも宜しくお願いしたい」
「判っておる。若き頃に離れたが出雲は我が故郷、山中家は尼子の恩を忘れてはならんからな」
こうして準備を整えて再興への第一歩が踏み出されるのであった。
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