四十八話 執念は巌も穿つ
お待たせしました
天正十六年 布哇 真珠湊
早い物で5年が過ぎた。本能寺で行われた結婚式は披露宴のその壮大な規模から{本能寺の宴}と呼ばれて語り草になっている。その後も著名人の結婚式が行われ本能寺で式を挙げるのがステータスになってしまった。
最近では浅井長政殿の長女茶々殿と黒田孝高殿の嫡男の婚礼が行われた。
この組み合わせってどうなのかなと思ったがこの世界では黒田孝高殿はその能力を信長殿に買われて出世してるから信長殿の義弟である長政殿の娘である茶々を嫁がせるのはありなんだろう。
秀吉君にとっては残念なのかは判らないけど彼もねね殿がいるし子供にも恵まれたので問題はないようだ。ここも又歴史が変わった所である。
「儂も早く隠居してそちらに行きたいですわ」
なんて手紙が来ていたが隠居してもあの信長殿が有能な彼を逃す筈がない、これまで以上に扱き使われるので早まらないようにと返事をしておいた。
信長殿が後進に道を譲るのはそう遠くない未来だからだ。
「人生五十年、そう謡って来たが毛利元就殿は六十前に厳島で陶を破り中国制覇を成し遂げられた。六十歳を目処に全ての政務から引き、後は後進に任せよう」
そう言っていたが本音は新大陸に行きたいのだろうな。
一度視察で行って雄大な景色に魅了されたらしい。信忠殿が手紙で{新大陸に行きたい、あちらに住みたい}と言ってるのを宥めるのに苦労したと書いていたからな。
引退したら秀吉殿たちを引き連れて大挙押し寄せて来そうだな。
「さて、今度は新大陸からの書状か」
日本からの手紙を読み終えて、隣の籠に入っている書状を手にする。
先ずは鴻池の支店からの報告書だ。
「やはり金がでたか、ゴールドラッシュが起こる前で良かった」
西湊と呼ばれる町の近くの川で砂金が見つかり採掘が始まったとある。この場所はサンフランシスコと呼ばれる筈だった所だろう。人を大々的に入れる必要があると記されている。これで又日本から行く人間が増えるだろう。本社に知らせて人集めだな。
他の報告書では西湊周辺で作っていた米の生産が軌道に乗ったとの報告が入っている。カリフォルニア米の産地だから米は出来ると思っていたからこれで一安心だ。現地の先住の人たちとの棲み分けも問題なく進み交易を進めているが米が安定すればいい取引商品になるだろう。
うまくいっているようで一安心だな。
□
その頃
「殿! 着きましたぞ。この川こそ先住民達の申していた川に間違いありませぬ」
「うむ! 此処こそまだ見ぬ鮭の古里か、早速調べるのじゃ」
此処は新大陸の東の果て、カナダのニューブランズウィック州 に相当する場所の大河まで彼らは到達していた。恐るべき執念である。
「あれをごらん下され!」
家臣が指差す先には川を遡上する鮭の姿が見えた。
「八百万の神々よ! 感謝します、新たなる鮭との出会いに!」
思わずそう叫んだ男こそ、{鮭大名}として知らない者は居ない最上義光であった。
「直ちに鮭を捕獲し調べるのだ! どのような姿なのか、どのような味なのか、うむ! 直ぐに食したいぞ!」
こうして彼らは大西洋に分布する鮭と出会うのであった。
★
布哇 真珠湊 鴻池支店
「最上殿、執念だなあ」
報告書には最上義光殿たちが探検隊を編成して大陸の東を目指したとある。
大西洋の存在を知り、其処の新種の鮭を見つけようと言う事らしい。
現在太平洋側の沿岸部に拠点を作りつつあり少しずつ内陸部に進んでいるのだがあの御仁待ちきれなかったらしい。
しかも滝川殿の書状にはその一行に前田利益殿も加わっていると言う。叔父御の目を盗んでこっそり加わるなど彼らしいが向こうで問題起こさねば良いが。
「大丈夫でしょう、あの方は誰とでも友達になれる人ですから。現地の人たちと一緒に酒盛りするくらいですよ」
お茶を持ってきたえんがそう言って笑う。確かに風魔や鉢屋の連中とも仲良く宴会をしていたよな。
「そうですね、披露宴でも父上や叔父様達と酒を飲んで楽しくしていましたし」
そう言って亀寿が大きくなったお腹をさすっている。でも亀寿、あれは歳久殿との酒バトルだと思うんだが。
「私の所では歌について熱く語られておりました。元春叔父様や景叔父様が感心されておいででした」
松も同じく目立つようになったお腹を労りながらお菓子を持ってやって来た。お茶の時間は皆で此処で過ごすようにしている。
「でも、鉢屋の探索隊も東へ行くのは大変な距離があるって言ってたけどたどり着けるのかな?」
咲がお菓子をほうばりながら言う。何時の間にか亀寿や松にも抜かれているのだがそれは言わない約束になっている。
「まあ、時間はかかると思うけど何とかすると思うよ」
その後無事に大西洋岸までたどり着き新種の鮭を手に入れたと報告が入るのだがその執念は後に歴史の教科書にするほどであったと言う。
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