第四十三話 押しかけられた……
長門国 美祢
久々に美祢に帰って来た。この五年北海道と播磨の間位しか動いていなかったのでこちらに来ると随分変わっているな。
「随分人も増えたしな、お陰様で出雲時代よりも豊かになった」
久々に会った尼子義久殿はそう言って笑った。お蔭で旧家臣達を再雇用できたので良かったとの事だ。
「福原殿の宇部とも街道を広げているが荷物が多くて追いつかぬ位なのだ」
筆頭家老の立原の叔父貴も貫禄が出て来たな。宇部は美祢からの荷物がひっきりなしに着いて船で積みだしているのであちらも大繁盛で喜んでいるそうで何よりだ。
街道の整備も行っているが荷車を牛や馬に牽かせていると轍が道に直ぐ出来てしまうのだそうだ。
「石灰石から作る瀬面塗で道路を舗装しているのだがそうすると車輪が直ぐに駄目になってしまうのだ。木で出来ている車輪は柔らかいからな」
「では鉱山で使っている戸路子を応用してはいかがですか?」
「鉄の車輪を棒状の鉄を二本並べた物の上に乗せて動かすあれか、確かにあれならいけるか」
「鉄の棒は嶺流と言うのですが道路とは別に引き当面は牛馬で引くようにすれば以前よりも沢山の荷物を一遍に運べるはずです。将来的には鉱山で戸路子を引き上げる時に今まで人力や牛馬でやっていた物を蒸気機関に置き換える実験をしていますが其の蒸気機関を使って運ぶ事も出来るでしょう」
「なんと! そんな物が出来るのか?」
「ずっと工作所で研究させていたのですがようやく完成したのですよ。お披露目をやるので見に行きましょう」
「うむ、判った。直ぐに行くとしよう」
こうして殿と叔父貴を連れて鉱山に行くのであった。
☆
美祢 炭鉱坑口
「これが蒸気機関か……」
叔父貴が口をあんぐり空けている。
其の目の前には高い煙突から黒い煙を吐く鉄の塊がある。
「よし! 引き上げ実験開始だ!」
合図を受けて機械に取り付いている技師がハンドルを回して蒸気を機械に送り込む。石炭の投げ込み口からは燃える石炭が赤々と焔を上げており投炭手が汗まみれに成って石炭を投じている。
蒸気を送り込まれた機械のピストンがゆっくりと動き出し、其の動きはクランクを介して回転運動になり巨大な巻き取り機が巨大なチェーンを巻き取っていく。
やがて地下から石炭を満載したトロッコが何台も繋がれて上がってきた。
見ていた人々から感嘆の声が上がりやがて歓声になっていく。
「鹿介、見事だ! これは此れからの鉱山を、いやこの国、世界を変えるぞ!」
珍しく殿が言葉を震わせている。流石にこの発明が全てを変える始めになると気がついたようだ。
今は大きすぎるが何れは小型化して蒸気機関車に載せたい物だ。
★
先に一人で鉱山から帰ると屋敷には客人が来ていた。
「これは輝元殿に元春殿、隆景殿まで御揃いで珍しい事でありますな」
「うむ、義兄上とは久しぶりゆえと思ってだが、実はそれだけではないのだ」
どうした事か顔色が悪いな。夫婦喧嘩でもしたのか?
「何かありましたか? お顔の色が優れぬ様子…」
「いや、それが…」 「鹿介様!」
答えようとした輝元の言葉を遮るように部屋の襖が開き小柄な人影が飛び込んでくる。
そして俺に抱きついてきた。
「来ちゃいました!」
「貴方は……」
それは島津義久の娘、亀寿であった。会った時よりは遥かに大きくなっているけど未だ幼さが残る娘だ。とはいえ、既に咲位の背丈になっており、ある部分に関しては勝っているようだ。押し付けられているから判るんだけど。
「播磨に行ったら、擦れ違いで美祢に行ったという事を奥方様からお伺いして急いで戻ってきたんですよ」
「は、はあ、ですが急に此方に来るとは何があったんでしょうか?」
京とかの見物だったら悪い事したなと思っていると。
「それはあ、鹿介様に嫁ぐ為ですよ~」
「え? ですが未だ拾弐歳になったばかりでは?」
「あら、父上から拾弐になれば十分お嫁に行けるとお許しは頂いておりますよ~、父上たちも準備をしてから来ますけど待ちきれなくて先に来ちゃったんです」
あの義久! 何考えているんだ! 未だ早いので結婚は15,6歳位にしましょうと手紙でやり取りしたばかりじゃないか!
そうやって彼女と話していると傍で低い声がした。
「義兄上、我々もまさかこんなに早いとは思いませんでしたぞ。 幸い元清の娘も拾になりましたのでそろそろ結婚もよろしいでしょう。今日はその事もあって伺ったのですよ」
輝元の目がイッている。二人の叔父達の目が怖い。
「まあ! じゃあ一緒に式を挙げましょう」
無邪気に喜んでいたのは亀寿さんだけでした。
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