第四十話 奥州仕置
「那須資胤、詔に従わず元公方の甘言に乗り挙兵いたしたこと真に不届き千万、よって切腹を申し渡す! 尚嫡子資晴は領地没収し改めて扶持を与え直参衆として仕える様に」
次々とこの度の反乱{蘆名の乱}に参加した大小の武士たちの仕置きが決まっていく。
若松城の落城を最後に殆どの家が降伏して沙汰を待っている状態であった。
基本的に組した家は当主の切腹と御家の取り潰し、その後嫡子が織田家を筆頭とする新政権の直参衆として領地ではなく扶持を貰う事となっている。其の為現在住んでいる領地からは引き離されて別の地の代官として其の地を治めるか織田家の安土城下へ住む事が義務付けられている。
無論反対した者達は居たのだがそれらは抵抗した挙句、根切りにされるか、各所に作られた施設に軟禁される事となった。この件に関しては追放処分は行われていない。浪人となった彼らが武装蜂起するのを抑えるためである。
基本的に御家存続が認められていたので大概はそれに従った。前例として浅井がそうなった後徳川への援軍で功績を挙げた為に加増されて、今回の戦役でも織田軍として功績を挙げた為更に加増されたことが大きかったと言われている。
信長自らの仕置きの申し渡しの場に新たに引き出されてきた人物を見て居並ぶ諸将からどよめきが起こる。
「これは、義昭殿、お久しゅうござるな」
「……」
「首謀者である蘆名盛氏は若松城で果てたのに、貴殿は生き延びておられる、強運の持ち主であるな」
「信長殿、余は、蘆名に謀られたのじゃ、あやつめは、あやつめは……」
体を震わせて言葉を紡ぐ義昭を冷ややかな目で見ていた信長であったが急に笑い顔になる。
「義昭殿、良く為された。この信長感服しましたぞ!」
「え?」
「義昭殿のお陰で関東・陸奥のまつろわぬ者どもを纏めて討つことが出来申した。これも義昭殿のお働きによるもの、我らに組してのその働きに免じて厚く報いますぞ」
「あ・は・はは、そ・そうか、お役に立てたか、それは重畳」
「まずはお疲れでござろう、あちらでゆるりとお休み為され」
信長に指図され義昭は退室する事となった。命を拾いそれどころか厚遇されそうな雰囲気に明るい表情で退室する義昭を居並ぶ諸将は冷ややかな目線を送っていた。
義昭が居なくなると柴田勝家が大きく息を吐きぼやいた。
「上様、御戯れが過ぎますぞ」
「ふふ、ああ言っておけばもうあの神輿を担ごうとする者はおるまい、{足利頼るに足らず}天下の皆はこれで骨の髄まで知った事であろう」
信長が愉快そうに言うと皆肩の力を抜き同意するように頷く者までいる。これが信長が義昭に与えた罰であることを皆は知った。自らの価値が神輿にすらならないとされた義昭が受けた最大の罰、自らの存在意義まで奪われた元公方に未来はないと天下に示したのであった。
☆
その後も仕置きは進んでいく。忍城に拠っていた成田氏長が討たれた後、城を預かっていた成田泰季は城を開き恭順を誓った。当然の事ながら成田氏は領地を失ったが、当主である氏長が討たれているので切腹等のおとがめは無く、代わって泰季が当主となって信長に仕える事となった。本人はもう高齢であるからと長男の長親に家督を譲るつもりらしい。
甲斐姫がいるのかと思っていたが、聞いてみるといるとの事、だがまだ年が一桁前半であった。そうだよなあ、秀吉が小田原征伐したのは天正18年の事、今から14年以上先の話だった。
{あの映画}の主人公も泰季と一緒に信長殿に会っていたが、そんなに変な人物には見えなかった。史実と言うものはそういうものなのかもな。もう結婚していて子供もいるらしい、年齢的にも甲斐姫には合わないよなあ。
それから咲は甲斐姫の事を聞いたからと言ってライバル視しない、そういうのじゃな無いからな。まあ長親がいい嫁ぎ先を見つけてくれるはずだ。間違っても秀吉には行かないよな。心配になって来た。
そうしているとひときわ目立つ人物たちが入って来た。
「な・白装束?」 「何の積りか?」 皆がひそひそと話している人物は。
「米沢城主、伊達輝宗殿とその嫡子藤次郎政宗殿か」
「はっ、詔に背き蘆名に組した事、お詫び申し上げます。某は途中でその愚に気が付き兵を引きましたが、組した事実は消えませぬ。その罪この輝宗が背負います故我が伊達家に寛大な処置を賜います様お願い申し上げます」
「ふむ、良いお覚悟じゃが嫡子の政宗殿まで白装束なのは何故かな?」
「畏れながら政宗申し上げます。父輝宗は元公方の手紙にただ従った訳ではございません。周りが全て従ったゆえ元公方側に付かねば攻め滅ぼされる恐れがあった故なのです。某の一命を持って父の助命をお願いいたします」
「ほう、其処までの覚悟、真のようだな」
「お持ちくだされ、子を犠牲にして生きながらえようとは思いませぬ。某が罪を償います」
慌てて頭を床にすりつける輝宗を見て信長は口を開く。
「良かろう、伊達輝宗、そなたには隠居・出家する事を申し渡す。伊達家は取り潰さず減封とする。そして家督は次男の小次郎に継がせよ。小次郎は元服はして居らぬと聞いた。儂が烏帽子親になってやろう」
「有難き幸せ!」 「な・お待ちを!」
政宗は喜び、輝宗は慌てた。
「慌てるな、まだ話は終わっておらぬ。政宗よ、そなたの覚悟と物言い気に入った。儂の直属の組織、親衛隊に加える。大いに励め!」
「有難き幸せ!」
「礼ならば、そなたの叔父にも言って置くのだな。最初から我らに付いた者の頼みを無碍には出来ぬからな」
「まさか最上の叔父上が!」
「嫁いだ妹を泣かせたくないとな、いい叔父御を持ったな」
こうして奥州は蝦夷地まで平らげて仕置きは終わった。後に最上から贈られた山のような鮭を見て珍味に目の無い信長が喜んだのは言うまでも無い。
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