第三十八幕 上陸作戦
常陸国 那珂郡 大洗
漁村の住民が最初に気がついた。
「あ・あれは何だ!」
指差した先には大海原の一角に見えた黒く見える物であった。
見る間に大きくなっていくそれは住民たちを驚かせるのは十分な代物であった。
「ふ・船だ、それもあんなに大きいのがたくさん!」
「こっちに向かってくる、大変だ、御領主様に知らせてくるんだ!」
慌てて土地の領主に知らせを送るが其の間に巨大な船団が接近し目の前の海を埋め尽くした。そして其の巨大な船より次々と舳先に長い板が付いた不思議な形の小型の船が降りてくる。小型の船は兵馬をたくさん乗せて岸辺へと向かっていき舳先が岸辺に当る所に来たときそれは起こった。
「な・なんだあれは!」
知らせを受けた領主の兵が思わず声を上げる。其の視線の先にある船の舳先に付けられていた長く大きな板が倒されて其のまま岸に届き渡し板のようになった。其の上を喚声を上げて兵士や馬匹が降りてくる。
「奴らは何処の兵だ?旗印は?」
「旗印の家紋ですが一文字三ツ星と丸に上そして橘が見えます」
「この辺りにはその様な家紋の家はない……まさか織田勢なのか」
「どうします?上陸してきた兵は五千はいますぞ」
「ここでは相手にならん、城に引き上げるぞ」
慌てて兵を引き上げるのであった。
☆
上陸した兵たちは陣形を整えて行く、其処の指揮官の元に百姓の身形をした者が案内されてきた。
「風魔の衆か?」
「いかにも、この辺りの案内を命じられております」
「助かる、先ず最寄の敵の城を確保したいのだが」
「案内いたします、この辺りも兵は出払っており僅かな守備兵しかおりませぬ」
「我々のお役目はこの辺りを襲って耳目を集める事、精々派手に動くとするぞ!」
上陸部隊は隊伍を整えて出発した。不意の大軍の出現に近隣の村は混乱し逃げ惑う者が続出しており無人の野を進むがごときであった。
「ここがこの辺りを治める領主の城です。出兵しているので留守居の僅かな兵士か居りませぬ」
「開城すれば命を助けるが抵抗するなら根切りすると送れ」
「はっ」
使いを送ると城側は多勢に無勢とばかりに開城した。
「ここを拠点とし、佐竹の居城を目指す。後続の部隊もおっつけ来るだろう。それまではここの守りを強化しておくぞ」
「直ちに掛かります」
こうして佐竹の本拠地である常陸に敵勢が上陸してきたのであった。
☆
毛利水軍 旗艦 「安芸」 艦上
常陸沖に集まっている艦艇に近づくと向こうの船からの歓声が大きくなっていった。旗や手を振り味方の来援を喜んでいる。
「凄いですね、既に先遣隊は佐竹氏の主要な城を攻略しつつあるとの事。相模でまごまごしているうちに彼らは本拠地を全て失ってしまいますな」
傍に居た亀井幸綱が感嘆している。彼も経験を積んで今では鴻池の番頭として働いている。今日は鴻池警固衆の副将としてこの場に居る訳だ。
「此処だけではないぞ、安房に上陸した九鬼水軍と滝川勢は里見氏の領地をほぼ制圧したそうだからな。これから合流して関東に攻め入る訳なので早々に此方も佐竹領を抑えなくてはな、そのための後詰だ。幸綱が大将なのだからしっかり頼むぞ」
肩を叩いて激励した後艦内に入り司令官室に入る。其処には艦隊司令を勤める児玉就方が詰めている。
「児玉殿、無事に常陸に着きました。もう直ぐ上陸です、よろしく頼みます」
「此方こそ、貴殿のお陰で毛利も存分に戦う事が出来るというもの礼を申す」
「後は補給を絶やさぬようにすれば問題はありますまい、敵は出払っておりますからな」
「真、船団を使い敵の本拠地に上陸するなど考え付かぬ事でありました。それも十万にも及ぶ兵力を送り込むなど余人には考えも着かぬ事、感服いたしました」
「それも毛利・村上水軍の腕前があることが前提です。それが無ければ考えても実行は出来ますまい、此度の事は皆が力を合わせての事ゆえ皆々の勝利でありますぞ」
此方は新型の船を提案して作っただけだしね。安宅船を上回る外洋型大型船と上陸用舟艇もどきが有用なのは今回判ったから外国との交易にも使えそうなのでうちとしてもホクホクなのだよ。
「織田殿はこれを機に関東・東北の大掃除をするんだろうな……」
徐々に近づく常陸の景色を見ながら俺はこの後の事に思いを馳せるのであった。
※ 総勢十万ですが毛利・村上で約3万 織田勢(九鬼・滝川・明智・長宗我部(この時には織田に恭順している)6万その他織田勢に馳走している小勢力(雑賀・熊野水軍・北條水軍)で構成されているとご理解ください。
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