第二十七幕 最後は矢張り脳筋なのか?
※ 感想返しが遅れていてすいません
「まずは織田殿は{天下布武}を旗印にしております。これは天下を統一する意思の表れと言えましょう。征夷大将軍である義昭殿を奉じておりますが必ずしも幕府の再興が目的とは言えません」
「そうなのか? 管領に収まり天下に号令するのではないのか?」
義久は首を傾げている。そういえば同じ将軍から偏諱を受けている為尼子の殿と同じ名前だった。久の字はどちらも代々の当主が付けているからな。
「その申し出を断られ未だ弾正忠に止まっておられるのは幕府の役職を貰って幕府の中に組み込まれるのを嫌っての事、つまり将軍の命を受ける積りが無いという事の表れです。更に織田殿に無断で公方が行った事に対して詰問状を等を送り関係が悪化しております、いずれ決別いたしましょう。義久殿、公方から織田家を非難する手紙が届きませんでしたか?」
「届いておる、それ故驚いた物よ、織田殿と公方様はうまくやっておられると思っていたからな」
「従来の幕府の再興を目指す公方と新しき政で戦国の世を終わらせようとする織田殿では手切れは必至、もしかすると今頃衝突して居るかも知れませぬな」
「どちらが勝つのか?」
「言うまでもなく織田殿でしょう。手紙を送って呼応する大名が居たとしても織田殿に敵うものではありますまい、あの方の戦い方はこれまでの戦とは違っております」
「鉄砲を大量に手に入れて居ると聞く、それを使えば確かに違うな」
「そうではありません、確かに鉄砲は今までの戦を変える物です。ですがそれならば島津家でも同じです、違うのはその経済力でしょう」
「経済力か」
「はい、織田家が尾張で成り上がったのは商業の街である津島を抑えた経済力から始まっています。その後も楽市楽座や関を廃止するなどして商業を保護し、そこから上がる利益でもって兵を雇う事により農民に農業に専念させる事で他の大名が動けない時期に動き勢力を拡大しました。年に数回も軍を起こせるのも雇い兵を使うが故、その源が経済力なのです」
「成程、我らも貿易などで利益を上げて居るがそれを以てしても兵までは雇えぬ。それが出来る故強いか」
「そうです、戦に一度や二度負けても付き合う相手が屈服するまで何度でも戦いを挑む、相手方としては嫌な相手でございましょう」
「そうだな、何度も戦いが続けば同心してくれている領主たちが音をあげるだろうて、其処を調略されればひとたまりも有るまい」
流石に島津の当主だけあって飲み込みが早い。
「それなら勢力を広げるのも早いのも頷けます、金があれば幾らでも軍勢を整えられる。多方面に同時侵攻もできますからね」
其処まで黙っていた義弘が口を開く。
「そうだな、あの勢いで行けば天下を統一するのはそう遠くない事だろう。だが、本当にうまく行くのか?」
義久の疑問は尤もだ。
「織田殿の政は今までの物とはまるで違う物となるでしょう。それは万人には受け入れ難いもの、恐らくは家臣たちさえも。それ故に天下が取れるかどうかは今のところは判りません。ですがこのまま行けば何れ此方にも来ますぞ。其の時どう決断するか迫られるでしょう、従うか、戦うかです」
「従うか、戦うか……従えばどうなるのか?」
「日頼様亡き後の毛利は従う事に決めました。従うならば領国の割譲乃至は領国の移動を受け入れねばならないでしょう」
恐らくは豊臣時代の徳川のように、或いは関が原の合戦後の毛利のように。
「そんな……それでは島津の三州制覇は」
義弘が言葉を震わせる。
「戦えばどうなる?」
「恐らくは斉藤・朝倉・六角・北畠のように滅ぼされるでしょう。比叡山や一向一揆のように根切りに会うやも知れません。織田殿の政には鎌倉以来の武士の{一所懸命}は古き物、幕府に代わる政府にとっては害悪なのですよ」
「そんな……」
義弘は絶句し、義久は唇を噛み締めている。
「どうされますか? 従われると言われるのでしたら、毛利への口添えはいたします。毛利も大友が力を付けるのは好ましくはありませんからね」
俺の言葉に黙り込む二人。
其処にどすどすと廊下を歩く音がしてがらりと戸が開いた。
「兄者たち、待っていただきたい! 島津は鎌倉以来三国の守護として続いてきた家じゃ、織田に下るのなどもっての他!」
此処にいる二人に負けない偉丈夫が吼える。
「何方です?」
「弟の歳久じゃ、歳久よ吉田城の守りはどうした?」
「そんな事をしている場合ではないわ! 島津の宿願を果たす時が来ているのだぞ、其れを諦めよと言うのか!」
そう歳久は叫ぶと俺にビシッと擬音が聞こえそうなモーションで指を突きつけた。
「勝負だ! 山中鹿介!」
ええーっここでも肉体言語で語る羽目になるのか?
「この上は薩摩の流儀に則り尋常に酒の飲み比べで勝負を申し込む!」
え? 何言っちゃってるの? 嘘だよね?
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