第二十六幕 意外とソフトな島津家だけど
※ 投稿が遅れており申し訳ございません
尚感想返しも遅れておりこれも順次行う予定です。
店の応接の間で鹿介は一人の男と相対していた。
男の名前は島津義弘、薩摩島津家当主義久の次弟である。
「先触れも無く伺ったにも関わらず会って頂き感謝いたします」
「いえ、勇将の誉れの高い義弘殿とお会いできて光栄です」
島津義弘は鹿介の丁度十歳年上で三十九歳、武将として脂が乗っている。
「勇将の名は貴殿の方が似合いですぞ、尼子家での戦い、あの品川大膳との一騎討ちの話を聞いたときには年甲斐も無く興奮しましたぞ、それに徳川を救った手並みも聞き申しております。これで一商人であるとは誰も思いませぬな」
義弘の手放しの褒め様に鹿介は笑いながらも内心は複雑であった。未だに商人というよりも武将と思われているからであった。
「して、義弘殿は遥々博多まで来られたのは、何か有ったのですかな? 珍しい産物をお探しとか?」
「いえ、此処に来たのは山中殿に会いに来たのです。一介の商人であると言いながら亡き毛利元就公の信頼厚く、京を治める織田信長殿とも親しく、関東の大名とも知己である貴殿に会って話がしたかったのです」
鹿介はなぜか其の言葉の裏に厄介ごとの匂いを感じていた。
☆
「先だって島津は木崎原で日向を治める伊東と戦い勝ちを収めました。伊東は名だたる武将を失いこのまま行けば伊東を日向から追い出す事ができるでしょう」
義弘の話を聞きながら俺は嫌な予感に囚われていた。これきっと面倒事の前振りだよな。
「ですが、問題は其の後です、伊東は恐らくは豊後の大友に援けを求めるでしょう、大友は日向の支配を狙っていました。直に大軍を率いて攻めて来るでしょう」
史実でも大友宗麟は日向国へ大軍を送っていたな、キリスト教の楽園を作る為だったという記憶がある。因みに大友は豊前と筑前を毛利に押さえられたままなので筑後と肥後に侵攻している。肥前は少弐氏がいたが龍造寺に追われた。龍造寺隆信は筑後を巡って大友とやり合っているが決定的な勝敗は付いていない。大友を敵としている毛利が龍造寺を支援しているのもあるからな。敵の敵は味方の論理だが龍造寺隆信は毛利方でも余り評判は良くない。平気で騙まし討ちをするからね。幾ら戦国の世とは言えやり過ぎは良くないのだ。
話がずれたが、大友は毛利を叩く前に南を押さえようとしているらしい。大きな勢力がいない肥後や衰えた伊東の日向の方が手に入れやすいと思っているようだ。其の為に島津と戦う事になるが前世の記憶では耳川の戦いで大敗している大友だが今度はどうなるだろうか、あの時は日向にキリスト教の楽園を作ると言って家臣の反発を招いていたからな、今回も同じになるだろうか?
「大友が出てくると島津はどうされるのですか?」
「豊後一国と肥後、そして筑後の大半を押さえている大友が相手では苦戦は免れますまい。吉弘鎮理、戸次鑑連等勇将を抱える大友ですからな、我等島津はやっと薩摩を統一し、大隅を従えたばかり……鹿介殿はご存知でしょうか?薩摩の地は火の山の吐く灰で米を作るのに不適な土地が多いのです。豊後や肥後のような豊かさはありません、島津が勝つには大友を後背から脅かす毛利の加勢が必要なのです。鹿介殿は元就公の信頼厚くその後も毛利家の方々とは懇意にされています。是非毛利殿に口添えをお願いしたいのです」
やっぱり面倒事だったよ、早く帰れば良かった……
☆
薩摩国 内城
何の因果か薩摩まで行く破目になった。商売の為だと割り切ろう。
毛利を説得する前に島津当主に会うことにした。島津の向かう先が何処にあるのか見極めないと毛利に話が出来ないからだ。
「島津修理大夫義久と申す、名高い山中殿に会えて嬉しい」
流石に歴史ある島津家当主という佇まいだな、恩威並行と言ったところか。
「有り難き幸せにございます、修理大夫様には義弘様を含め三人の弟が居られるとか」
それぞれに優秀な四兄弟として有名だしね。
「此処にいる次弟の義弘と吉田城にいる歳久といま伊勢参りに出かけて居る家久が居ますな」
「伊勢神宮へ参拝ですか?」
「まあ、其れだけで無く京を治める織田信長殿の処へ非公式な使いを頼んでいるのですよ」
なるほど、薩摩でも中央の情勢は気になるらしいな。
「こちらに貴殿をご足労願ったのも、貴殿が織田殿と親しくされていると聞いてな、是非ご教授願おうと思ったのだ」
「商売上の付き合いなのですがそれでもよろしいですか?」
「それでも構わない、それに貴殿の店の扱う品は我が島津でも欲しいのでな」
成程、商売の対価に情報を求めているのか、それなら問題は無い。
義久・義弘の前で織田の目指す所を話すとしようか、それを聞いた島津がどう判断するかで九州の情勢も代わって来るだろう。
以前同じ話をした毛利が下した決断とこれから下すであろう島津の決断は同じになるのか違うのか。
少しの興味を感じながら俺は話し始めるのであった。
読んでいただきありがとうございます
感想、評価などをいただけると嬉しいです





