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第二十三幕 謀将の遺言

※ 2/13誤字等修正、 喉頭癌>食道癌に修正

 西へ、ひたすら西へ、一番足の速い船を借りきり俺たちは急いでいた。


{毛利元就倒れる}


 京まで戻った俺たちに届いた凶報。確かに前世の歴史では三方が原の戦いの頃には元就は亡くなっていた。


 この世界で彼が未だ健在だったのは王乳ローヤルゼリー等の健康食品と栄養バランスの良い食事を勧めたからなのは間違いない。だが其れを以てしても限界はある。今回は喉が腫れて食事もままならなくなっているそうだ。間違いなく食道癌だろう。流石に癌の治療は無理だ。症状を緩和してやるしかない。


 知らせに来た世鬼の繋ぎは元就が俺に会いたがっているということであった。其の為に昼夜を問わずに急いでいるのである。


 そしてどうやら間に合ったようである。



「まにおうたようじゃの……話がある、元春と隆景だけ残れ」


 床に伏した元就は安芸ここを発った時とは打って変わり痩せ細っていた。食事が喉を通らない為である。鹿介の中身の暮らしていた世界であれば胃ろうなどの処置も取れるがこの世界の医学はまだまだ其処までは達していない。辛うじて通る量で繋いでいたが其れが鹿介の考案した高栄養流動食でなければとっくに死んでいただろう。


「私もですか?」


「そうじゃ」


 輝元も遠ざけて話が始まった。


「毛利のこれからの事を話したいと思っておったが結局行き着くところは同じ所、天下がどう定まるか次第で毛利の今後も決まるのでな、これからの天下について話したいのだ」


「其れでしたら当主の輝元殿は居られた方が良いのでは?寧ろ何故私が居るのです?」


 鹿介の問いに元就は口の端を歪めて答える。


「残念だが輝元では荷が重すぎる、あやつに言い残すことは全て言ってあるし書面にも認めている。何よりこの二人に言ってあるからな」


 元春と隆景を見回して言う。それに二人は黙礼で答えた。


「そなたを呼んだのはこの後の天下の行く末を一番知る人物だからだ。そなたの目で見、耳で聞いた天下の動きが知りたいのだ」


 鹿介はその言葉を聞き(流石は謀神と呼ばれただけの事はある)と驚いていた。死の淵に立っていても毛利元就はその思考を崩すことは無かったのだ。


「それではここまで手に入れた情報をお話しします」


 そう言って各国の情勢を語るのであった。


「やはり、織田信長……彼がこの乱世の世を終わらせる事が出来る勢力だな」


 話を聞いた元就はそう断じた。その言葉に頷く鹿介、内心で元就がしかのすけが前世で得ていた情報無しでもその結論に到達した事に鹿介は驚いていた。


(いささかも思考判断に衰えが無い。惜しむらくは後十五年…いや五年でも寿命があれば)


「大殿、何故織田なのです? 武田に上杉、そして北條、彼らは強い、織田が勝てるかどうかは判りませぬが」


 吉川元春が我慢できなくなり尋ねる。


「元春よ、今の毛利で動かせる兵は幾らじゃ?」


 元就の不意の質問に額に手をやって考える元春はすぐに答える。


「約四万ですな、何処に出るかによって変わるが大友などに備える部隊は残さねばなりませんからな」


「そうか、ではその兵を毎季節ごとつまり年四回出兵しそれを毎年出来るか?」


「流石に無理ですな、そのような事をしては領国は滅んでしまいます」


 元就の質問に答える元春であるが、元就はその後とんでもないことを言った。


「織田ならば問題もなく出来よう、弱兵とは言えそのような攻撃を掛けてくる部隊と戦い勝ち続ける事等出来ないのが判るだろう」


 その言葉に目を見開きお互いを見つめる元春と隆景。


「い・いくら何でもそれは無理なのでは?」


 隆景の指摘に元就は鹿介を見て口を開く。


「どう思うかの?」


「元就様の言う通りでしょう。織田勢は現在も数万に分かれた軍勢を通年動かしております、伊勢長島、越前、加賀、そして美濃で武田と相対しております。それに対して敵方は幾度かは跳ね返せますが、やがて兵の疲弊と補給の不足から敗れて行くでしょう。武田に対しては現在は他での戦いに兵を回しているので徳川勢と共に徹底的に守勢を維持しております。ですが他が片付けば一気に反転攻勢に出るでしょう」


「まさか……」 「信じられん……」


「そうなればいくら武田や上杉でも歯が立たないでしょう。数度の戦いで精鋭を削られ国土は疲弊し、民は主を見放します。そして調略で裏切りが出て終わりです」


 鹿介が結末を示唆する、実際にあったことを下敷きにしているから非常に説得力があった。


「そしてそれは毛利にも当てはまろうな」


「「!!」」


 元就の言葉は平易で淡々としていたがその言葉を聞いた元春と隆景はぎょっとした。そして想像した未来に顔を蒼褪めさせる。

「判ったか? 儂は嘗て{毛利の名を末代まで残せ}と言ったが正にこれがその分かれ目であろう。見栄や外聞に囚われずに御家の存続のみを考えよ」


「「ははっ!」」


「鹿介よ、元々敵であった尼子家臣であったそなたに頼める話ではないがどうか毛利の事頼みたい」


「元就様、毛利は尼子家の再興を認めてくださいました。その事感謝しております。再興した尼子家の為にも微力を尽くさせていただきます」


「有り難し、礼を申す……」


 毛利元就がまだ続く戦国の世を去ったのはそれから三日後、穏やかな大往生であった。



読んでいただきありがとうございます


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