第二十二幕 小田原城到着
ようやく小田原に到着したよ。武田領の駿河をパスするために船で伊豆まで行きそこから小田原城下へ行くことになった。途中から迎えに来てくれた北條氏規殿と同道する。
「山中殿、三方ヶ原では活躍されたそうですな」
「さて、某は大したことはしておりませぬよ」
「謙遜為されますな、浅井殿を起用し援軍とされたのは山中殿の策でありましょう。それに山中殿の手勢の活躍も聞いております」
「そうですか……」
「そう御気に為さる事はありません、我が北條が武田と同盟を結んでいるからと言って問題としては居りませぬ、武田に一軍を援軍として置いておりますがあくまで約定を果たすため。それ以上は求めることも受けることもありませぬ」
なるほど、流石戦国時代シビアだね。もっとも甲相同盟も成立し破談しの繰り返しだからお互いに信を置いていないんだろうけどね。
話していると小田原城に着き当主の新九郎氏政殿との面会となった。
「久しいな鹿介、活躍の事聞いて嬉しく思うぞ、尼子家の再興も成ったと聞いておる目出度いことじゃな」
「有難うございます、旧家臣たちも落ち着くことができ安堵しました」
「大内家や浅井殿も御家再興が出来たのもそなたの御陰と聞く、真鹿介は再興屋じゃな、我が北條もその時は頼むとしようか」
「御戯れを、北條家は関八州を手中にしておる途上ではありませんか」
「じゃがなあ、初代宗瑞公以来我家は関八州の国人領主たちからは、「成り上がりの伊勢は他国の凶徒」などと呼ばれておるのよ、北條を名乗ったのもそれを打ち消すためであったのだが効果は今一でな」
「彼らは旧弊に捕らわれ時流が見えないのです、御気になさいますな」
そう、後の時代には幕府政所の執事を代々務めた名家である伊勢(北條)どころか尾張出身の出自が百姓とかサンカ出身とか言われる豊臣秀吉に彼らは屈服する事になるのだ、その時侮って恭順しなかった者たちは容赦なく潰された。まだ北條に従っていた方が良かったはずである。
「そうだな、我らに代々伝わる虎の印章 祿壽應穏(禄寿応穏) にある通り民を守るのが我らの大義、それを外す事の無いようにしなくてはな」
氏政は大名としても優秀なんだよね、愛妻家で兄弟とも仲良くしている、これで滅ぼされるなんて皮肉を感じるよ。
「今回は新しく出来た品を持ってきていますから見て戴けるとありがたいですな」
「そうか、楽しみにしているぞ」
勿論本業の商売の方も忘れてはいないよ。
☆
小田原城 城下町
こちらにある宿屋兼娼館は表向きの姿で、内実は風魔の拠点の一つである。ここに来て宿泊する者たちから情報を収集したり流したい噂話を遊女を使って広めたりしているのだ。
「よう来てくれた、浜松で随分と足止めを食ったみたいじゃな」
「何とか徳川を助けることが出来ましたよ、風魔衆のお力添えの御陰です」
「ははっ! 身内の頼みだ、断ることなどないさ」
えんの父親で風魔の統領である小太郎が笑う。
「鉢屋だって活躍したんだからね!」
咲が薄い胸を張って踏ん反り返る。同族なんだから無暗に張り合わないで欲しいものだ。
「して関八州の情勢はどうですか?」
「越後の謙信は越中に夢中でこちらにはあまり肩入れはしてこんからな、じわじわと北條が巻き返しておるよ。ただ、佐竹が里見などと手を組んでいてな、その辺りとの戦いが激しくなりそうだ」
北條と取引をしているからあの辺りの大名とは取引は難しいか。
武蔵国の多西郡の辺りに居た三田氏は既に滅んでいるからあの辺りの地下資源を掘るのも面白いかもしれん、多摩郡には石灰石も産出するからな。鉄鉱石が産出する鉱山は上野国甘楽郡で江戸末期に掘られた中小阪鉱山があるから後は良質な石炭が産出すれば製鐵もできるね。
「其れより北の方はどうですか?」
「伊達家は天文の乱でがたがただったが家中の統制に成功した。専横していた中野を追放し鬼庭良直を抜擢して建て直しを図っている、南部は家臣筋の大浦が反逆して争そっている真っ最中だな」
何処も殺伐としているな、そんな所でここ金が出ますよとかやったら火に油を注ぐようなものだね。
「やはり蝦夷地かな?」
蝦夷地は精々蠣崎氏後の松前が渡島半島辺りを支配するだけだから其の他は現地のアイヌたちと交易することで儲かりそうだ。昆布とか鮭などを仕入れ、此方の加工品と交換する。
「蝦夷地か、今度は其処に人を送り込めばいいのか?」
流石、小太郎は話が早い。現地に草を送り込む話が直に着く。
「蝦夷地って金とかでるの?」
咲が聞いてくる、良いタイミングだ。
「ああ。嘗て平泉で栄えた奥州の藤原氏があれだけ金を持っていたのも蝦夷地と交易して手に入れていたと思えるんでな」
無論奥州でも砂金は取れるけどそう言っておけば前世知識を誤魔化せるんでね。先々信長達の目を北方に向けるには金はいい材料になりそうだしな。
こうしてこの地での用事を終わらせた俺は西国に戻る事にした。まさかあんな事が待っているなんて思いもしなかったけど。
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