第一幕 三日月への誓い反故にしていいですか?
{やべえ、なんかこれって色々詰んでないか?}
俺は溜息をついた。
気が付いたら寝かされて時代劇の世界にようこそしてた。
「おおっ! 気が付かれましたか、3日も寝込まれていたのですぞ」
「はあ、あんた誰?」
「ゑ?」
その後は医者にいじくりまわされるわ、嘆かれたり泣かれたりなど大変だった。
その後よくよく話を聞いて最初に戻る。
判ったのは自分の名前は山中鹿介幸盛という名前の元武将現在浪人である事、現在京(京都)に向かう途中であった事、その途中で足を踏み外して落ち頭を強く打って3日も寝込んだ事。
そうやっていると段々記憶が戻ってくるがここで問題があった。この体の主である鹿介以外の記憶が出てくるのだ。それもこの時代よりもかなり未来の世界の人物だ、その人物の名前などの個人情報はすっぽり抜けていてどうしても思い出せないのだ。 覚えているのはおそらくはこの時代より460年位後の時代に暮らしていたことだけだな。ということは何かの拍子に前世の記憶が戻ったか、憑依でもしたのかな?
取り敢えず現在の状況を整理するとこうなる。
山中鹿介は出雲の戦国大名尼子家の家臣として武名を馳せた武将であった。主君尼子義久に従い各地を転戦して一騎打ちなどで名のある武将を打ち取るなどしている。
だがその後尼子氏は毛利氏との戦いで不利になりついに月山富田城を包囲されて籠城の末降伏し尼子氏は滅亡し、残された鹿介ら家臣たちは尼子家再興を目指しているところだという。
(リアル戦国武将の野望の世界だな~)
前世(?)でやっていたコンシュマーゲームの大作の事を思い出す、毛利元就でプレイした時に尼子攻めあったよなーと思いながら、鹿介はその後も尼子家再興軍を起こして毛利と戦うんだったな、そして最後には上月城の戦いで毛利に包囲されて敗北し捕虜となるのだが刺客に襲われて死ぬんだった……
死ぬのか~確か39歳で死ぬんだよな、それは嫌だな、何とか死なないようにして尼子を再興できない物かね。
そう思ってのたうち回っていたらお供してくれていたおっさん(山中家の用人だそうだ)に言われてしまった。
「若、あの時三日月に向かって叫んでいたではないですか! {我に七難八苦を与えたまえ}って、早くあの時の若に戻って下さい!」
いやいやいや、その時の鹿介ってオレじゃないし! 第一其の台詞って絶対あれだ厨二病患者の台詞その物だよ!
新学説! 鹿介は厨二病患者だった! そんなの分かっても嬉しくない、本当に其の台詞取り消したい!
俺はさらにのたうちまわる羽目になるのであった。
■
我が主殿は古今無双の豪傑だと自慢できる。
思えば山中家が没落してから何年が過ぎたであろうか、主の父君、儂の元主がお亡くなりになってからであるからもう二十年位になるかのう。
主はまだ幼子であったため城に上がれず儂が弓馬の事を教えたのがつい昨日の様に感じられる事よ、十になる頃御城に上がり勤める事になったときは我が事のように嬉しかったのう。
その後も精進なされて初陣を済まされて暫く後因伯(因幡と伯耆国)で剛の者と恐れられていた菊池某を一騎打ちで討ち取ったと聞いて驚くやら嬉しいやらだった、その武勇を買われて次男であった我が主は重臣の亀井家に養子となったがその時は嬉しいよりついていけなかったのが口惜しかった物よ、その後病弱なご長男に代わって家督を継がれた時には又於仕え出来る喜びが勝ったわい。
毛利との戦が月山富田城まで来たときにも我が主は活躍し石見の益田にその人ありと言われた品川大膳を討ち取った時には不覚にも涙を流したものじゃ。
毛利との戦が苦しくなると三日月に祈り{七難八苦を与えたまえ}と言われた時にはこの方に一生着いて行こうと思った物じゃわい。
今は怪我のせいでおかしくなっておられるがきっと元のように……
■
考えたけどどうにも纏まらないな、とりあえず京に向かう事となった、其処には同じ志を持つ元尼子家臣たちが待っているそうだ、何故京なの? と聞くとおいたわしやと言われて教えてくれた、其処には尼子を再興するための旗頭が居るんだそうだ。
尼子家の一族、新宮党の生き残りだそうだ、ゲームをした記憶を辿ると尼子国久の名前が思い出された、武力の高い脳筋武将だったような記憶がある、その国久の孫に当たる人物が東福寺という寺で坊主をしているという。
聞けば新宮党が尼子本家に叛意ありとして滅ぼされたときに生き残り其の菩提を弔うために出家したとか。
なにそれ、旗頭には出来ないあかんやつじゃないか! 確かに尼子の血筋ではあるが反逆者の一族扱いなのである、再興を謳っても其の正当性が疑われそうだ。
少し冷静に考えんとあかんやつだな、どうも皆再興に血が上って頭が働いてないみたいだ。
それより京に行くのなら情報収集せにゃならんでしょ!
尼子だ毛利だといってる時間は余りないのだということを皆知って貰いたいものだ。
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