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第十四幕  数寄者達


「これは……いい仕事してますな、この艶がなんとも言えませんな」


「宗久殿は御目が高い、この器の良さを分かっていただけると思っておりました」


 堺の大商人であり茶人でもある今井宗久が感嘆している茶碗は尼子領美祢で焼かれた焼き物である。美祢焼と名付けたそれは三田尻近くの台道と呼ばれるところから取った陶土に萩沖の見島という小島の土と萩の傍の金峰みたけ土をブレンドして作られている。本来の歴史では萩焼と呼ばれる其の焼き物は{一楽、二萩、三唐津}と呼ばれるほど人気があった焼き物である。


 陶工は李氏朝鮮と私貿易をしている奈佐日本ノ介に頼んで呼び寄せてもらった。決して無理やり連れて来るなと頼んだので大丈夫の筈である。


 現在は美祢の招待所に滞在して貰って日本人に作り方を教えてもらっている所だ。日本ノ介の言う事には陶工たちは奴隷のような扱いを受けており高待遇を約束したら喜んで応じたとの事である。まああちらでは雑器として扱われているから待遇は良くなかったと思うから気に入ってくれればそのまま永住も認めようと思う。


 朝鮮では雑器でもこちらでは茶器として珍重されるので国産化すれば儲かると思ったがうまくいったようだ。


「この花入れも独特の味わいがあって良いですな、うちで是非にも扱いたいですな」


 そう言うのは魚屋与四郎と言い若いがやり手の商人で茶人としても売り出し中の人物である。茶人としては宗易と号している。判りやすい名前でいれば後に利休と呼ばれる人物である。


 彼が生きている間には萩焼も唐津焼も無かったからどう評価されるか心配だったが良さを分かってくれたようだ。


「うむむ、この色合いが又素晴らしい」


「この器は……?」


 問題は彼らと一緒に来ている人物にある。一人は良く知った人物で荒木村重だったりするのだが、もう一人が問題である。というかこんなにほいほいと来ていいのかと突っ込みたくなる人物である。


「山中殿、少し気になる点があるのですがな?」


「如何されました? 松永殿」


 そう最後の客は松永久秀という武将である。


「この茶碗がな、どうも高台の辺りからお湯が漏るのではないかと思ってな」


「どうやらまだ若かったようですな」


「若いとは?」


「美祢焼は目の粗い土を使っておりましてな、お湯が漏る事があります。これは使い込む事で塞がるのですが、其の時に出来る模様がなんとも風情のある趣を見せることからこれを{七化け}と呼んでいるのですよ」


「なんと!」


「使い込むことによって器も成長する。これが美祢焼の最大の特徴なのです」


「素晴らしい! その様な工夫がなされているとは。是非この器を分けてくだされ、使い込んで儂唯一の器にして見せましょうぞ」


 松永久秀、流石に数寄者である、美祢焼の売りを的確に見抜いたのだから。だがこんなに皆興奮するとは思わなかったな。


「おお! 流石は霜台殿、某も挑戦してみましょうぞ!」


 荒木殿も霜台(松永)殿に負けない数寄者だからな、だけどこの二人こんなに仲よかったっけ?同好の士と言う事で理解しあえるのだろうか?


 そうこうしながら数寄者たちがああでもないこうでもないと名器談義をしていた時だった。


「旦那様御来客が見得られました」


「はて? 今日は大事な商談があるので来客は断ったはずですが」


「それが……」


「なんと! 判りました、御通ししてください」


 今井殿の番頭が慌てた様子で主に耳打ちしそれを聞いた今井殿も慌てて指示を出す。


「申し訳ござらん、急な御来客が来られましてな、此処にお通しいたします」


「それはどなたで……」


「久しいの! 鹿介!」


 俺の言葉に被せるように甲高い声がする。 この声間違い無ければ……


「お久しぶりでございます織田信長様 堺にいらっしゃるとは思いませんでした」


「お主がこちらに来たと聞いたからな、京より駆けつけて来たのよ!」


 そう言って室町将軍足利義昭を擁して近畿を征した織田信長は笑うのであった。



「なるほどな! 成長する器か、面白い物を考えたな、儂も頼むとしよう!」


 そう言って出された茶碗を愛でる信長は単なる茶道好きのおっさんである。松永久秀も荒木殿も一緒に盛り上がっているよ。それより気になったのは信長についてきた御付きの武士の表情である。もう茶碗を見る目が妖しい妖しい、近くで見たくて仕方が無い表情をしているよ。信長が流石に其の表情に気が付いた。


「佐介……お前と言う奴はしょうもないやつよ、鹿介よこの男古田佐介というのだが最近茶の湯に嵌ってしまってな、荒木配下の中川の妹を妻に貰ってから中川の勧めで茶の湯を始めたらこの有様よ」


「なるほど、それでしたらご自由に茶碗を鑑賞していただきたいですな」


 そう言って茶碗を古田佐介、後に古田織部と呼ばれる男は蕩ける様な笑顔で茶碗を鑑賞している。此処まで嵌るとは流石と言うべきか、少し引きそうになる自分が居たが周りの数寄者たちはその古田を微笑ましそうに見ている。


 大商いでウハウハな筈だが何故かしっくり来ないのは何故だろうか?




読んでいただきありがとうございます


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