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第九幕 新たな産業起こしと人材


長門国 美祢郡


 尼子家の新しい領地に入ると山深い土地であった。周りは山の緑で囲われており、目の前を流れる川はさらに大きな川に流れこみ瀬戸内海に注ぎ込まれている。


「山ばかりですな、このような土地で何をされるおつもりですか?」


 亀井新十郎の問いも最もである。来る途中に見えた秋吉台の異様な風景にも驚いていたからな。あそこはカルスト台地なので保水性が悪い土地で木が育ちにくく周りの山と比べると草原の中に転々と岩の転がっているのは驚くだろう。


 それでもその近くには長登銅山があり採掘を行っていると聞いたら羨ましそうにしていたな。


「それで義兄上、この土地でも銅などが出るのですか?この土地では尼子家はやっていけるのでしょうか?」


「残念ながら銅は出ないな。だがそれに負けない物はあるはずだ」


そう、この土地には二つのお宝が眠っている。その使い方を知らない故に誰も見向きもしないが。


「鹿介様、目的の物手に入れましたぞ」


「流石に早いな、助かるよ」


 源四郎が先行させた山師たちが掘り当てた物を持って来る。山師たちは以前此処を金銀や銅などを探して掘ったが出ずに代わりに出たものは価値無しと判断していた。今回はそれを持って越させた物だ。


「鉱石ですか? 一つは真っ黒で一つは白い……これは一体?」


「黒いのは石炭、白いのは石灰石だ、これは途轍もない宝になりうるぞ」


「これが……?」


新十郎は疑わしげに見ているがこいつは凄い可能性を秘めているのだ。


「石炭は長い年月を掛けて木等が地中で炭化……炭になった物だ。当然の事だが燃やして使う。一度火がつけば木炭に負けない火力が得られる、石灰石も色々な用途があるが漆喰の材料が今は主になるな、蔵の壁材にすれば火事などにも強くなる。後は城壁に使うと面白い、火攻めに強い城が出来る」


「なるほど、それなら注文が来ますな。では採掘を始めますか?」


「そうだな、鉱山が出来れば街ができて人が集まる、金も落としてくれるから、尼子家の財政は潤う事になるな」


「そう、そうなれば私たちの出番と言うわけ」


 同行していた人物が口を開く、この場にそぐわない艶やかな衣装を身に着けた彼女がずいと前に出たその前に豊かな山脈も揺れながら出てきて新十郎の目が泳いでいる。


「後で時に言いつけてやる」


義兄あに上~」


 新十郎の叫びをスルーしつつ豊かな双丘の持ち主に尋ねる。


「では人集めの方は頼むぞ」


「任せて! 今はどこも戦乱で身寄りの無い若い女の伝には事欠かないわ」


 彼女、風魔の里出身で名前はえんと言う漢字では円と書くらしいが艶と書いた方が似合うんで無いかと言う雰囲気の女性である。これも源四郎の縁で相模に行った時に鉢屋の同族という事で紹介されたのであった。既にその頃は世鬼達が俺たち一行を監視して居たので風魔との面会は彼らの経営する小田原城下の遊女屋であった。北条滅亡後風魔が江戸に出て吉原を作ったと言う説に弾みが付きそうだ。源四郎によると風魔と鉢屋を生んだ飯母呂の一族は元々日本に渡来してきた漂泊の民で芸や色事に長けた一族だったので天職みたいな物だと言っていたが。そこの遊女屋の主にして北条氏に風間出羽守として仕えている一族の長である風魔小太郎の言葉である。


統領こたろう様も支援を惜しまないと言われているしね、頼まれている他の事も任せてね」


 えんはそう言うと体を押し付けて来る。二人の体に押された柔らかい双丘は形を変えてこちらに柔らかい感触を与えてくる。


「おい! くっつくな」


「今日の仕事はこれで終わりでしょ、だったら良いじゃない」


 彼女には統領の小太郎から与えられたもう一つの役割がある。それは鹿介おれの傍にいて身辺の世話をすることである。女であることを最大限に生かし文字通り密着して身の回りの安全を守るのだ。


 因みに此処に来る前に鴻池に出向き千明に会っており彼女からのお墨付きを得ている。鹿介に宛てられた千明からの手紙には{かねてより源四郎と話していた女性として合格である。彼女を傍近くに置いて身の回りを万全にして励んでもらいたい}と書かれていた。何に励むのか? 意味が深すぎて理解できないよ。


 新十郎は明らかに動揺している。


「で、ではこれで失礼します」


 慌てて去っていく後姿を見送り源四郎とえんを睨んで 「わざとやって追い払ったな」 と言うと二人とも居住まいを正して答える。


「余人に聞かれたくはありませんでしたので、鹿介様は尼子家の再興を成し遂げられました。本来なら其処まで良いはずです。後は家業を大きくされるも何処かに仕官されて武士としての高みを目指される事も出来るはず、その気になりましたら一旗あげることさえ出来るでしょう。私もえん殿の父上もそれを望んではいるのですが」


「飯母呂の悲願、平将門に託した夢再びか?」


「そうです、我が父小太郎も父祖からの言い伝えで将門様の為しえなかった夢を実現してくれる英雄を待ち望んでいました」


 えんが先ほどまでとは打って変わった真剣な眼差しで俺を見る。


「買い被り過ぎだ、俺はあの平将門殿のような器量の持ち主ではない、それに尼子家も再興が成ったからと言って安心は出来無い、尼子が仕えている毛利諸共滅びるかも知れんのだ。それに備える必要もあるのだ」


「それは織田信長の事ですな、お会いになって以来我々にずっと動向を探らせてきたのはそれを警戒しての事、それほど恐ろしいのですか?」


「ああ、彼はこの国の仕組みその物を変える事が出来る人物だ、それ故に変わる事を受け入れない者たちとの間で争いと成ろう、そうなれば多くの血が流れるだろうな。そしてそれは毛利でも例外ではないさ」


「ではりますか?」


「出来るのか?」


「風魔と鉢屋が組めば出来る、どうする?」


 源四郎の質問に答えるとえんが氷を感じさせる冷たい声で尋ねて来る。


「止めておこう、俺はこの戦国の世を終わらせたいと思っている。戦が無くなればこの国は豊かになる、いや豊かに出来るのだ。その為にはやはりのぶながの力が必要だ。どうすれば良いかはこれからも考え続けよう、今は解放されたばかりの尼子家が立ち行くようにする事に注力する」


 その言葉に二人は頷き頭を垂れる。


「鉢屋は鹿介様と共にあり続けますぞ」


「風魔も協力は惜しみません」


 俺は空を見上げ吸い込まれるような蒼空の下で言葉を紡ぐ。


「この地からこの国を変えてやる、戦国の世は終わりにするぞ」


 こうしてこの地での第一歩を踏み出すこととなった。


 

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