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魂喰らいの魔皇契約書  作者: 優々
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0.全ての始まり

序章 全ての始まり

 ここは、今は名前すら忘れられた街…。かつてはエトリアと呼ばれていた。当時、世界各地で不規則に都市が破壊されるという事件が発生していた。このエトリアも、その理不尽な破壊活動の餌食となっていた。このエトリアは当時、世界で1,2を争う魔導国として有名だった。それこそ、滅んだと聞かされた人々は、仕方がないと、あきらめたかのように世界の滅亡を覚悟していたくらいだ。

 そんな、超がつくほどの強力な国が何に滅ぼされたか。当然ただの人間ではない。かと言って魔道士か、と言われるとそうでもない。そもそも、このようなことを、人間のような理に縛られている生物ができるわけがないのだ。ということは、人間のような生物を生物的に超越した何かということになる。だが、今のところ人間のもつ科学や魔法の知識では、その何かを解明することは、できていない。だが、たった2人だけエトリアを破壊した物の正体を、知っている人間がいた。彼らは、決して科学や魔法の専門家ではない。百聞は一見に如かず。彼らは、破壊されていく生まれ故郷を、最後まで守ろうとしていた。それが故、破壊した物が何かわからなくてもそれがどういうものかはわかるのだ。


 この出来事…エトリアの破壊が、とある兄妹をの運命を変えることとなった。


数年前 魔導国エトリア

「あんたの相手はあたしよッ!」

 1人の少女が街はずれにある森の中を全力で走っている。その後ろには、一言で言うなら怪物。具体的に言おうにも何と表現するべきかわからない、ただこの世の物ではないとだけ言える物がゆっくりと追いかけていた。

ツーサイドアップの銀髪を揺らし、走り続ける少女。しかし、次第に彼女の赤い眼からは疲れ始めたのか普段の輝きが失せて行った。

(ちっ…キリがない)

 まだ幼い身ではあるものの戦いの経験がある彼女は、そう判断すると、一瞬の内に腰にさげていた刃を抜き放つ。木々の隙間からさし込む光が抜き放たれた刃に反射し、眩しく輝く。

「はぁぁぁっ!」

 少女は光の如き速さで、怪物に一太刀浴びせる。だが怪物は、何かあったか?といった雰囲気で少女の攻撃に全く反応しない。

彼女は、わかっていた。自分では、あの怪物をどうすることも出来ない事を。だが、同時に、あの怪物を放っておくとどうなるか。幼いながらその結末も察していたのだ。彼女は、自分の生まれ故郷を守りたい…その一心で己の刃を振っていた。だから、逃げ出さないのはプライドを守りたいからではない。これは、彼女の…幼いながらの意地なのだ。

 彼女は、今とある人物に怒っていた。それは、自分の兄だった。自分とは違って魔道士としても剣士としても優秀で、いつも憧れていた兄…。その兄は今、家族と一緒に避難していた。その怒りは一種の期待だった。

(兄さんなら来てくれる)

その期待に応えてくれなかったことに怒っていた。

 しかし、今は、そんなことを考えている余裕は彼女にない。今もなお剣を、振り続けている。しかし、怪物は、全くの無傷。いや、1000体力があったとしたら999くらいにはなったか。どう見ても戦況は、最悪。彼女の刃も限界が近かった。

「麗剣技;絶」

 彼女は、最後の力を振り絞り自分が、見たことのある最強の技を見よう見まねで放つ。だが、その不完全な技は、自分の体と刃の両方にとどめを刺した。少女の魔力は尽き果て、刃は砕け散る。その一瞬前、幻覚かどうかわからないが、少女の眼は自分の兄の姿をとらえた気がした。

「兄ぃ…あとは…おね…が…い」

 そこに本当にいるかどうかわからないのに少女は、呟く。彼女の意識は、そこで途絶えた。


「あぁ…。」


 小さく…短く、そして強く。少女の前に、現れた少年は応える。少女が見たのは幻覚ではなかったのだっ!

「ガキのクセに意地張って、ちーせぇクセに勝手に悩んで。世話のかかる妹だ…。

おい、わりーが消えてもらう。どちらかが倒れるまで殺り合おうじゃねーか」

怪物は、表情は変えなかった。だが、彼の言葉を理解したかのように唸り声を上げた。

「麗剣技;絶」

 少年は無表情のまま完全な麗剣技;絶を放つ。いつの間にか抜かれていたレイピアから輝く銀の斬撃が繰り出される。その斬撃は、怪物の左腕を切り裂き、その返り血さえも銀の斬撃に切り裂かれ、消滅した。

 しかし、少年がふ…と、小さく息をついた一瞬の間、コンマ一秒満たないうちに新たな腕が現れる。

(けっ…このバケモンがっ!)

 少年の麗剣技;絶をくらってまともにたてた生物は、今のところいなかった。それが故、かなり強いであろう部類の少年でさえもこの生物を化物と呼んだ。しかし、少年の眼は未だ輝いている。まるで、新しいおもちゃを得た子供のように。少年は、レイピアを鞘へとおさめると、どこからか一枚の丸められた紙切れを取り出す。そして少年は、その紙切れを空に掲げると、ゆっくりと詠唱らしき物を呟きはじめた。


「魔剣の皇よ。汝、人の子たる我の契約に従い我が下に顕現せよ。

  冥偉剣皇 ラグナレク・レーヴァ」


 少年が言い終わると同時に、地面に魔法陣が描かれる。その魔法陣からは、禍々しくも美しい人振りの魔剣が現れた。

 低く、強く言い放たれたその詠唱は、今でこそ忘れられた禁忌。異世界、DDとの境界を打ち砕き、魔皇と呼ばれる存在を召喚するものだったのだ。

 この魔皇と呼ばれている存在は、様々な形を持っていると言われているが、真実かどうかはわからない。そもそも、魔皇と呼ばれる存在自体があまり多く知られていないのだ。

「麗剣技;零絶」

これが少年の最後の切り札にして最後の攻撃だった。少年は、この技を放ったあと、地面に倒れ込む。ラグナレク・レーヴァは、魔皇だ。召喚する際の魔力消費は、膨大なものだったのだろう。

一方、化物の方はというと、結果的には無傷に等しかった。いくら化物とはいえど、まともに喰らって無事では済まない。だが、再生できるとなると、話は別となる。麗剣技によって一度バラバラになった体は、まるで時が戻ったかのようにもとどうりとなったのだ。

「クソがっ…。」

少年の意識も途絶えた。


 この後、エトリアという街は、世界地図から消えた。人の記憶とは不思議な物で、数年たった今、ほとんどの人がエトリアという名前すら覚えていないのだ。未だあの化物は、倒されていない。人々は、いつ襲われるかわからないという恐怖に怯えながら生きていた。

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