4話 緋に佇む白の戦姫 I
白い髪が風に晒されゆらゆらと流れている。
彼女はゆったりとした足どりで俺の前に背を向けて立つと、そっとこちらに顔を向けた。その顔には血の流れた跡が残っていた。白い髪もところどころ赤黒く染まっている。
しかし、その血の存在もが彼女の顔を映えさせる。紅い唇。そして、希望を見据える緋い双眸。
その時、隣で激しく燃え上がっていた大木がミシミシと音をたてながら俺のすぐ後ろに倒れた。
その音を聞いた時、その思考は一旦中断される。
やはり、彼女を見ていると世界がゆったりと流れている感覚に陥ってしまう。
例え、自分がいるその周りが今この時も炎に焼かれていようとそれは変わらなかった。
彼女を覆っていた鎧も本来の役割を果たせそうに無いぐらいの損傷具合で、彼女自身も数多の傷を負いあちこちに鮮血の流れた跡が残っている。
それでも彼女は悠然と立ち、目の前に降り立った敵に顔を戻す。
この惨劇を起こした張本人であり、人類最大だあろう最凶の悪魔。
それが降り立ち彼女と悪魔が邂逅した途端、奇妙な静寂が訪れた。
辺りは炎で埋め尽くされ、いつ火蓋が切られてもおかしくない状況で、その静寂は小さな声、しかし確かに、少なくとも俺にだけは届いた彼女の声により破られた。
「私は、ーー」
--------------------------------------------------------------------
木曜日、5・6限目、国語の時間。今日は先生が急な出張でいないから自習となった。
そして、その課題として、作文を出されている。内容は『物語を書こう』である。
久しぶりにやる気の出る課題が出たので『無駄ごと』しながらやってみよう。
今日の題は、魔法ありありの異世界バトルもので。
--------------------------------------------------------------------
この世界には2つ種族が存在した。
1つは人類種、人間と呼ばれる個体で世界の99%を占める種族である。
そして、もう1つの種族、世界にたった1%しか存在しない種族。森精種、エルフと呼ばれる種族である。
曰く、100年も前は5種族もの種族が存在したと言われる。
曰く、その5種族の内、水を司る水精種のウンディーネは人類種による深刻な水質汚濁により滅亡。
製造技術を縄張りとする工精種のレプラコーンは人類種に技術を盗まれ職を失くし間もなく消滅。
火を司る炎精種のサラマンダーは好き勝手にのさばる人類種に反抗するため立ち上がるが虐殺された。
曰く、森精種は長寿であるが故に人類種に捕縛され、長い間、研究と称して解剖された。
曰く、生き残った森精種は世界の中心である原始の森に身を隠し、人類種への報復の機を待ち望んでいる。
靴の裏に風魔法の術式を発動し固定しておく。駆け出すと同時に術式を起動させ、風の推進力で普通では出ない速さで森の中を駆ける。
縦横無尽に森を駆け巡り、今日の飯となる獲物を目の端で捉えると、その近くにある枝の上で止まった。
瞑目しながら腰にかけた2本の曲刀のうち、その1対の純白の曲刀を引き抜く。さらりと軽やかな金属音を立て引き抜かれたそれを右手に持ち、落下するように枝から飛び降りた。
瞑目を終え、体を回転させる。遠心力で曲刀から金切音が聞こえ始める頃、ようやくその存在に気が付いたのか、獲物は急いで逃げようとする。が、時既に遅く曲刀が獲物の首を刎ねる方が早かった。
なんの抵抗も無く滑るように斬りながら、音もなく降り立った。そこには、首と胴体が綺麗に切り離された獣と、それを行った青年、ヴェイグ・ローニ・アールヴルが赤く染まった曲刀を片手に、静かに佇んでいた。
ヴェイグが獲物を担いで村に戻ると、村長が慌てた様子で村の入口で、この村の守り人であり、唯一無二の友であるエイキンスと話をしていた。
「ただいま帰りました、村長。どうかなさったのですか?」
「あぁ、ヴェイグか。実はな…」
村長はどう伝えようか悩んだ様子で言葉に詰まると、横に立っていたエイキンスが続けて言葉を発した。
「ヴェイグ、先刻西の森にある村が人間に焼かれた」
「なっ!」
「我々の住む原始の森は絶海に囲まれた誰も近寄れない森だ。我々がここに来るために開拓した西の海域以外は、な」
「けど!この10年間、人間どもは近寄ってこなかったじゃないか!どうして今になって!」
「その事は今考えることではないじゃろう」
「村長…」
「ヴェイグ、お主の気持ちも分かるが今は好機じゃ。彼奴等は我々の森に入り込んだのだ。この森のことは我々が一番分かっている。彼奴等を叩く好機なのじゃ。わかるな?」
「…はい」
「ならばヴェイグ、お主は西の森の村に1人で偵察に行ってくれ。敵の数や攻撃手段などを見てきておくれ。エイキンスは村の男どもとここの守りの強化を」
「「了解です、村長」」
村長は避難指示を出すためエイキンスと共に村人のもとに向かった。
ヴェイグは担いでいた獣を置くと、靴の裏に風の魔法の術式を発動し、西の村へと駆け出した。術式を起動し、一気に森を駆け抜けてゆく。その間も、ヴェイグは、何故人間が攻めてきたのか、の1点に思考が囚われていた。
エルフの血は、人間どもの間では長寿の薬として重宝されていた。しかし、人間の大半はエルフの血を飲むと細胞が拒絶反応を起こし、症状が軽いと短命になるぐらいで済むが最悪の場合、死に至るらしい。
しかし、ごく稀にだが適性を持つ者もいて、それらが飲むと、血は万能の薬と化してどんな病も治すといわれる。
また、人間は死ぬと死体となるが、エルフは元々精霊の一種だったので死ぬと光の粒となり、世界の根源へ戻る。そして、エルフが死ぬとその個人の体、血液などは一切残らない。
なので、古来より人間どもは我々エルフを監禁し、殺さず、死なない程度に、しかし死ぬ寸前までの量の血を奪ったとされている。
それに反抗した我々は10年前、この原始の森に隠れ住み始めたのだ。
10年もの間、何もしてこなかった奴等が一体何をしに来たのか。血を奪うのなら森を焼かず、エルフだけを拉致すればいい。どうしてなのか。
そんなことを考えるうちに西の森にある村に辿り着いた。
いや、あったと言うべきか、もうその村一帯はやけ崩れて灰と化していた。
しかし、ヴェイグの目には周りの光景が入らなかった。
村の中央、広場の所でヴェイグは足を止めた。
剣を携えた1人の人間が立っていた。辺りは炎に焼かれて真っ黒になり、あの人間に殺されたのであろう村のエルフ達が光の粒になり宙を舞っていた。
その人間はとても綺麗な白い髪をしていた。この場にはとても似合わない真っ白な髪だ。土の黒と相反してその白はとても良く映えていた。
こちらの存在に気付いたのか、反対に向いていた顔をこちらに向けた。
性別は女だと思われるその人間の顔はとても整った顔立ちだった。しかし、その人間の目には光が感じられなかった。ワインレッドの様な色の双眸に、あれ自身の自我を感じ取ることが出来ない。それはまるで、操り人形のように思えて…
その時だった。ヴェイグの視界がいきなり真っ黒に染まり視覚が殺された。それを理解する前に何かで殴られたような衝撃を頭に受けたヴェイグは、その場に崩れ落ちた。最後に感じ取ったことは誰かが近づいてくる音と焦げた匂いだけだった。
1度書いてみたかった異世界バトルものを書いてみています!
予想ではあと4・5話はこれが続くと思います!
あと、やっと全角スペースができるようになった…