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ぼくとあたしの|恋物語《ラブストーリーズ》

Happy Summer Wedding

作者: 濱澤更紗

 それはたった一通のメールから。

「入籍しました」


 メールの送信者はあいつで。あいつは私が昔好きだった相手で。何となくつき合って、何となく別れて。それでも何となく友達づきあいみたいな感じで。

 そう言う相手だった。

 その後、私は私で別の人とつき合ったり別れたりを繰り返して。

 あいつもそんな感じだったと聞いてはいたけれど。

(そうか。結婚したんだ……)

 なんだか胸が甘く切ない。ただの友達なのに。友達のはずなのに。

 私は、画面をじっと見つめたまま、動けなくなってしまった。


 あいつの彼女とは、一回だけ会ったことがある。とっくに別れた後で、久しぶりに再会して、そのときに隣にいた子。もっとも、そのときは「うん、友達」としか紹介しなかったけど。

 そっか。あの子と結婚したんだ。

 その子は確か、小柄で、何か賢そうで、気が利くような感じの子で、可愛くて……。

 ああ、私とは全然正反対じゃないか!

 ああいうタイプが好きだったのか? 私とつき合ってるときはそんなこと言ってなかったじゃないか!

 まあ、そんなこと、今更いってもしょうがない。人の好みなんてあっという間に変わるものだ。そう言う私も、あいつとは全然違うタイプの男とつき合っているわけだし。


 だけどねえ……。

 何で、さっきから悔しいって思うんだよ?

 何で切ないとか思うんだよ?

 もう終わった恋なのに。

 私も、あいつも。


 深呼吸しようとして大きく息を吸い込む。吸い込んだら目頭が熱くなった。

 何で?

 吸った息を吐き出したら、一緒に涙がこぼれ落ちた。

 何で?


 わかってるよ。自分に嘘はつけない。

 まだ、あいつに未練残してたんだって。

 友達づきあいなんて都合のいい言い訳。どっかでまた恋人同士になれるかもっていう、淡い期待のため。

 いろんな男、とっかえひっかえしたけど。

 いい男だよ、あいつは。

 ……釣り逃がした魚だから大きく見えるのかもしれないけれど。


 メールの返事を書こうと思ったけど、涙でキーが打てない。

 駄目だね。ここまでやられてるとは思わなかったよ。

 星の数ほど男をモノにしてきた私がこんなこと思ってるなんて。

 そうだよ、もっといい男がいるじゃないか。すぐそばに。

 そうやって弱く崩れそうな心を立て直す。でも、涙は止まらない。相変わらずキーボードは見えない。

 はあ。


 ……いいや。今日はメールの返事は中止。

 落ち着いて、笑えるようになってからにしよう。

 だけど、今言いたいことはいっとかないとね。

「早くガキ作って、見せに来いよー!」

 画面のメール本文に向かって叫ぶ。あいつには届かない。届くわけがない。

 ……届かないほうがいい。この言葉が届いたら、きっと泣き顔まで届くに違いないから。

 そして、もう一度深呼吸。今度は涙はこぼれない。

 よし、よし。

「彼女泣かすなよー! そんなコトしたら承知しないからー!!」

 そして、笑う。笑いながら涙をこぼす。


 この後はひとしきり笑って、ひとしきり泣こう。

 泣きやんだら、どっかお酒でも飲みに行こう。今夜限りのいい男、引っかけにいってもいいや。

 彼氏はいるけど、それじゃあ彼氏に失礼だから。

 大好きなあいつが幸せになったことを笑って。

 大好きなあいつが他人のものになったことを笑って。

 今は心のままに流されて。

 そして、心の底から本当に笑えるようになったら。

 ちゃんと言おう。面と向かって。

 だから、それまで待っててね。せめて結婚式は。


「結婚おめでとう! 恋人たちに永遠の幸せを!!」

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