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悲愁

 沖田は微熱が続き寝汗を大量にかいたので、体を拭く手ぬぐいを真純が届けた。寝巻きの上半身を脱ぎ体を拭く沖田の体に真純はっとする。沖田の体は労咳の症状なのか、もともと色白なのか、沖田の肌は剣士とは思えぬほど傷がなく、真っ白だった。思えば労咳以外で沖田が山崎や真純の治療を受けたことはなかった。

「沖田さんは天才剣士と言われるだけあって、体に傷が1つもないんですね。」

「でも、心は傷だらけだよ。」

「え?」

「家族は皆遠くへ行ってしまったし、病のせいで戦えないし、惚れた女子と結ばれることもない。」

 沖田の潤んだ目が、まっすぐに真純を見つめる。いつもは陽気で明るく、あどけなさがある沖田が大人の男に見える。

「…沖田さん。」

 真純は沖田の背中に新しい寝巻きをかけてやる。沖田は虚ろな表情をしている。突然、沖田は真純を引き寄せ、唇を重ねようとするが止めた。

「僕は君が好き・・・だったよ。労咳じゃなかったら・・・本気で。」

「沖田さん、ありがとう。沖田さんほどの方にそんなふうに言われて、女冥利に尽きるってもんです。」

 真純は茶目っ気を込めて答えた。沖田の最期の言葉のような気がして、涙を必死にこらえた。

それから沖田は床に臥し、真純は静かに見守った。沖田の寝息が聞こえ、ひとまず安心する。

 しかし沖田の衰弱ははげしく、この1、2日が峠と思われた。

 真純は、沖田の表情があまりに安らかなので、手を握ると冷たかった。

「沖田さん!沖田さん!」

 沖田がゆっくり目を開ける。

「真純ちゃんか・・・夢に近藤さんが出てきて・・・『待ってるぞ、総司』って言うんだ。僕も早く行かないと…」

 沖田は再び目を閉じて眠りにつき、そのまま真純に看取られ息を引き取った。


 真純は沖田が埋葬された墓の前で手を合わせている。柴田家やその近隣住民、松本の知人が

葬儀を執り行ってくれたのだ。目を閉じると沖田の華麗な三段突きが鮮やかに浮かんでくる。

耳の奥で沖田の無邪気な笑い声がし、真純は涙を流さずにはいられなかった。沖田に早すぎる死が訪れることは昔から分かっていたのに、結局どうすることもできなかった。

(沖田さんに現代の薬を飲ませることが出来たら…。沖田さんが生きてたらこの先の新撰組はもっと違っていたかもしれない。)

 真純はその足で試衛館があった場所へ行ってみる。住居と道場はあったが、近藤の妻や近藤周助(周斎)の姿はなく、建物だけが残っていた。

 さらに、真純は原田を探しに行った神保山城守屋敷へ足を伸ばす。上野戦争が終結して間もない頃は人の出入りがあったが、今は閑散としている。真純は、沖田の死を誰かと分かち合いたかった。ひょっとして原田がいるかもしれないと敷地に踏み入ったとき、声をかけられた。

「あなたは新撰組にいた人ではありませんか。」

 年輩の優しい老兵士が立っていた。

「あなたは…。」

「私の名は斎藤一諾斎。甲州勝沼で近藤さんたちと一緒に戦いました。あなたのことは、日野宿でお見かけした。」

 真純も名を名乗り、沖田の葬儀を終えたことを打ち明けた。

「1番組組長の沖田さんも亡くなられたのですか・・・。10番組組長だった―」

「原田さんのことをご存知なんですか?」

 一諾斎はゆっくりうなずく。

「あの方は…この屋敷で亡くなりました、。」

 この神保山城守屋敷の数軒先に、大坂から江戸に戻ってきた際の新撰組の屯所(分宿)があり、原田はその頃から神保相徳と面識があったことから上野の戦争の時も行動を共にしていた。上野から落ち延びてこの屋敷に来たが重傷で、次の日に息を引き取ったという。

「原田さんといい、よく一緒におられた永倉さんといい、元気で一本気な男だった。今、新撰組は白河に何度も出陣したが、苦戦しているようだ。」

 真純は、土方や会津で戦う兵士たちの治療のために、松本良順が会津に向かったことを思い出す。

(私に何が出来るかわからないし足手まといになるとしても、皆のところに行きたい。最後まで新撰組の一員でありたい。)

「斎藤さん、会津へどう行けばいいか教えてください。」

 真純はいてもたってもいられなくなった。


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