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出会い 其の二

 島田に隊士達の寝所を案内された真純は愕然とする。個室など与えられるわけはなく、幹部以外の隊士は大部屋で雑魚寝するしかないのだ。どこでも寝られるのが特技の真純でも、他の浪士と顔を合わせて寝る勇気はなかった。しかし、これは夢なのだからどうにでもなれ、である。とりあえず部屋の隅に荷物を置いて座り込んでいると、隊士の一人が声をかけてきた。

「綾部というのはお前か。」

 真純は礼を言って、男物の小袖と袴を受け取る。

「それと、明日の朝から、壬生寺で剣術の稽古を受けるように。副長からの命令だ。」

 そういい残して隊士は帰っていった。

 そのまま大部屋を出て前川邸の蔵で小袖と袴に着替えた。

「よし、これで刀を差したら武士らしくなるな。そういえば、明日剣術の稽古があるんだっけ…。」

 真純は武士気取りで、長屋門(表玄関)の前に立つ。すると、色気の漂う美しい女性が坊城通りを歩いてこちらに向かってくる。真純が見とれていると、その女性はゆっくりと真純に近づいてくる。

「あんさん、その髪…どないしはった…。」

「え?髪?」

 真純はショートの髪を触って見る。

「女の命ともいえる髪を、こんなにばっさり切られはって…浪士組にやられはったんどすか?」

 女性は真純の袴姿をまじまじと見る。

「いえ、そういうわけではなく…。あ、あの!女だってどうして…?」

「え?もしかして、秘密なんどすか?そりゃそうどすやろなぁ。壬生狼の屯所に女子おなごがいることが知れたら、何されるかわからしまへん。」

 真純は、急に怖くなり言葉を失う。やはり、近藤や土方に正体を正直に話すべきか。

「でも、安心してくなはれ。うちはいわくのある人は嫌いやありまへん。あんさんの力になってさしあげます。けんど、女の体でようやりますなぁ。」

「あの、あなたは…。」

「うちは四条堀川の呉服商、菱屋の梅どす。」

 芹沢鴨が菱屋で隊服のだんだら羽織を注文したが、支払いがされておらず、たびたび梅が督促に訪れているのだと言う。梅は、真純の小袖と袴を整えてやりながら、

「また寄らせてもらいます、ほな。」

 梅は八木邸の芹沢のところへ向かった。

 芹沢鴨というのは、近藤ともう一人の壬生浪士組の局長だ。さっきの面談の時は姿を見せなかった。真純が梅を見送っていると、突然、空腹を感じた。

 

 その晩―。真純は台所から広間に膳を運び、やっと食事にありつけた。屯所では、浪士の中で「賄い方」という食事係を当番制で行っている。夕食は白米、味噌汁、つけものがあり朝の残りだった。

「いただきまーす。江戸時代の食事って今とあまり変わらないんだなぁ。」

 すると、少し離れた所で食事をしている浪士達の話し声が聞こえてきた。

「壬生浪はいつもこんなまずいもん食っているのかぁ」

「外で食いなおすか」

 文句を言っているのは、新入り隊士の、御倉伊勢武、荒木田左馬之亮、越後三郎、松井竜三郎の4人。真純の格好に難癖つけた者達である。彼らは膳も片付けずに出て行こうとするが、つい、真純の一言が出てしまう。

「あの、忘れてますよ、片付けるの。」

「ん?何か言ったか。」

 一人が振り返る。

「食事が合わないのは仕方がないとしても、せめて台所にお膳を持っていくくらいしたっていいと思いますけど。」

「そんなのは賄いの仕事だ。他のやつも置きっぱなしにしている。」

 残された膳を指差して別の男が答える。

「ですが、一人ひとりが持って行けば、賄いの人が助かります。」

「てめぇ、新入りのくせにいちいちうるせーな。」

「新入りは、そっちも同じでしょう。」

 真純は、女だとばれないよう低いトーンで話す。

 話を聞いていた他の浪士達は黙って様子を見守っている。荒木田が真純の胸倉をつかもうとした時、楠小十郎という若者が止めに入った。楠も越後や御倉、真純と一緒に壬生浪士組に加わっていた。

「まぁまぁ、荒木田さんも御倉さんも落ち着いて。僕が片付けますから、皆さんはどうぞ行ってください。」

「おぅ楠、頼んだぞ。」

 真純をにらみつけて、彼らは去っていく。

「楠さん、それじゃぁ何の解決にもなりませんよ。」

「こんな些細なこと、どうでもいいんです。」

「ん?」

「あ、いえ…御倉さんや荒木田さんには世話になったんで、これくらいやらないと。」

「でも、食器の片付けなんて、子どもだってやりますよ。」

 真純は自分の膳に戻り、食事を続ける。楠が膳を抱えて真純のところに来る。

「綾部さんの言い分も分かりますが、新入り浪士が事を荒立てない方がいいですよ。騒ぎを起こさん方が身のためってもんです。」

 今日のところは引き下がるけど、真純はまた彼らと揉め事があるような気がしていた。

 真純は食事の後、疲れがどっと押し寄せて一足早く布団に入る。さすがに見知らぬ浪士と顔を合わせて寝るのもはばかられ、部屋の隅にせんべい布団をしいて寝床に入る。

(これからどうなるんだろう。多分目が覚めたら、夢は終わってるだろうな…。近藤勇に土方歳三、沖田総司にも会えたし、なかなか面白かったな…)

 しかし、夢は終わらなかった。

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