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武士らしく

 数日後、茶屋に一席設けて原直鉄と年配の会津藩重臣と近藤、土方、真純が顔を合わせることになった。

「近藤さん、縁談の話を進めて構わないかね。容保公も気になっておられる。」

「もちろんです。こんないいお話は二度と―」

「あの、すみません。私は、縁談をお断りします。」

 真純は会津藩士二人に向かってきっぱりと申し出た。

「綾部君、いまさら何を言う!」

「このような形で所帯を持つ相手を決められません。それに、私は新撰組をやめるつもりはありません。」

「近藤さん、これは一体どういうことですか。」

 重臣の男が近藤をにらみつける。原が真純の目を見て、黙っている。

「綾部君、今すぐお詫びして縁談をお受けするんだ。」

 隣にいる近藤が真純を諭す。

「近藤さん、皆さん、申し訳ありません。ですが、局長命令でもこれだけはできません。」

「一体どういうつもりだ!!」

 さすがの近藤も怒りの声を出す。

「容保公を侮辱するつもりかね。」

 重臣の男が言う。

「新撰組の名に泥を塗るつもりか!」

 土方が机を叩いて立ち上がる。真純は床に手をついて頭を下げる。

「てめぇ、俺たちに恥をかかせやがって。局長命令に従えないならば、斬るしかねぇな。」

 突然、土方は刀を鞘から抜き、真純の短い髪を掴み、刃を頭に添える。真純は何も抵抗しない。

「ひ、土方君、いくらなんでも女子に刀を向けるとは。」

 重臣の男が止めに入る。

「いや、こいつは武士になりてぇとかぬかしておいて性根が腐ってやがる。こんなやつは生かしておいても―」

 「土方さん、お控えください。縁談はこちらからお断り申す。それでいいじゃありませんか。」

 原が落ち着いた口調でいう。真純に向かって、

「綾部さん、女子おなごのあなたがどうしてそこまで新撰組にこだわるのですか。」

「それは、新撰組が強くて面白い人の集まりだからです。最初は血なまぐさい人たちに怖くなりましたが、その剣の腕に私が救われたのも事実です。それに、新撰組は烏合の衆と言われてますけど、皆さん人間味があって、一緒にいて楽しいんです。」

 真純は、池田屋事件の後から自分を偽る必要がなくなり、隊士たちと距離が縮まったような気がしていた。 

 近藤は大きなため息をつく。

「あなたが本当に武士になれたら、いつかともに戦う日が来るかもしれない。では。」

 原が席を立つ。近藤が詫びを言いながら、玄関に見送りに行く。

「大丈夫か。」

 土方は刀を鞘に収めた。

「はい。」

「あぁでもしないと、向こうは手を引かないだろうからな。」

「土方さん…どうもすみませんでした。でも、さっき私が言った事は本当です。私、池田屋の現場に居合わせた時は手に汗握る思いでした。強くて面白い新撰組がこれからどんな活躍をするか、これからも見届けたいんです。」

「見届けるって、お前なぁ、まだ始まったばかり―」

 土方は一瞬真純に警戒の色を見せる。やはり綾部はこの先のことを知っているのか。幕府がなくなるのは本当なのか。

「土方さん、どうされましたか。」

「いや、何でもない。・・・しかしお前はいい度胸だな。会津藩に楯突くとは。相手が話の分かる原さんだったのが救いだ。」

 そこへ近藤が仏頂面で部屋に戻ってくる。

「近藤さん、申し訳ありませんでした。」

 真純はあらためて詫びる。近藤はひどくがっかりし、ため息をついた。

「原殿は今回のことは穏便に済ませると言われた。一体何が気に入らないのかね。」

「近藤さん、綾部を身売りする気か。」

「そうではない。綾部君は中年増だぞ。この先貰い手が現れなかったら――」

「その時は、俺が貰い受ける。」


 3人が茶屋を出ると通りの反対側に斎藤が立っていた。

「お前たち、まさか、見合いの様子を探りに来たのか。」

「まあね。会津藩士二人がおとなしく帰って行ったところ見ると、僕たちの出番はなさそうだね。」

「斎藤、お前もか。」

「総司が刃傷沙汰を起こさぬとも限らんかと。」」

「一君の方が先にここに来てたくせに。」

 真純は斎藤に目を向ける。

「斎藤さん、沖田さんもご心配おかけしました。」

「土方さんが一言『こいつは俺の女だ。俺が貰い受ける!』って鬼の顔して言ってくれれば、済んだ話じゃないの。」

 土方と真純は沈黙する。

「え、何?もしかして、本当に言ったんだ。へぇ~。」

「総司!あの野郎…。」

 沖田がはしゃぎ、土方が腹を立て、斎藤が見守っている―いつもの新撰組の光景の中に自分がいられるのがうれしかった。だが、近藤はまだあまり元気がない。

(近藤さん、次こそは手柄を立てます。)

真純は心に誓った。


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