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手紙

 落ち葉が降り積もり、夕暮れが物寂しく感じられる11月。京都でよくみられるという底冷えのする時期でもある。屯所生活が始まった頃の京は蒸し暑かったが、現代の猛暑を経験している真純にはどうってことなかった。しかし、京の寒さは身に応えた。

「さむさむ…」

 これから巡察に向かう隊士達が屯所前に集合している。真純も斎藤の組に属し、巡察の同行が許されるようになった。

「そんなに寒いかぁ?」

 一緒に巡察する藤堂平助が声をかけてくる。

「京の冬がこんなに寒いとは思いませんでした。」

「俺だって初めてだぜ、京の冬は。なんなら、俺の羽織を着るか?」

「いいんですか?だんだら羽織を着てみたかったんです!!」

「それはならぬ。」

 斎藤が二人の間に入って来て、一瞬にして周りの空気が変わる。

「平助、あんたがそうでは組の統率が乱れる。」

「一君だって、派手すぎるって言ってたじゃないか。」

「それでも新撰組の方針とあらば着る。」

「へいへい。」

「綾部、あんたの鍛錬が足りぬから体が寒いのだ。巡察から戻ったら素振り1000回だ。」

「えぇ!!!」

「一君は厳しいなぁ。ま、頑張れよ。」

 斎藤と藤堂の組は、それぞれ列を作り巡察に出かけた。途中、町の娘が隊士に声をかけてきた。

「あのぉ、すんまへん。これを土方はんに渡していただけますやろか。」

 隊士の一人があっさりと手紙を受け取る。他の隊士はその様子を見てニヤリとしている。

「また土方さんかぁ。相変わらずもてるなぁ。」

 藤堂が少しうらやましそうに言う。

「藤堂さんは、さっきみたいに手紙をもらったことはないですか。」

「ないなぁ。」

「土方さんはもてるんですね。でも、藤堂さんだってかっこいいですよ。」

「そ、そうかぁ?お前に言われてもなぁ。」

 てれながらも藤堂は結んでいる髪をなびかせ、姿勢を正す。前を歩く斎藤が二人に睨みを利かせる。

 市中に変わったことはなく屯所に戻ってくると、若い娘が門の外から中をうかがっていた。

「あの、何かご用ですか。」

 思い切って真純が尋ねた。

「土方さんは…。」

「副長は外出中だ。」

 斎藤が真純の横に来て言う。

「で、では…これをお渡しください。失礼します。」

 娘は真純に手紙を押し付けると、走り去ってしまった。

「今日は2通ももらうなんて、土方さんってすごい人気ですね。斎藤さんは―」

「ない。くだらんこと考えず素振りに行け。」

「はい!!」

 真純は慌てて屯所に木刀を取りに行く。

 夕方、真純は手紙を渡しに土方の部屋を訪れる。文机には書類の山だ。

「ものすごい恋文の山ですね。」

「ん…あぁ。」

 土方はたくさん寄せられる恋文にまんざらでもない様子だ。

「持っていても仕方ないので、日野に送る。」

 日野には土方の実家がある。

「なんのためにですか?京ではこんなにもてると自慢したいのですか。」

「京『でも』の間違いだ。」

 もしかして、「ネタ」として送っているとか。土方は、頻繁に故郷の姉や親類と手紙のやりとりをしていた。よほど家族と仲がいいのだろう。

「いいご家族ですね。」

 日野にいる土方自慢の家族が、あきれつつも笑顔で手紙を読んでいる様子が想像できた。

「お前は・・・身寄りがいないんだったな。」

「はい。」

 かれこれもう3ヶ月も家族に会っていないことになっている。職場にも無断欠勤している。捜索願が出されているのではないかと思ったが、これは夢なのだ。それにしても長い夢だ。

「私は夢の中にいるんです。新撰組の屯所にいて、稽古して、巡察にも行けて。」

「何馬鹿なことを言ってやがる。そんなのは夢でもなんでもねぇ、当たり前のことだ。」

 土方がいくらそんなことを言っても、これはやっぱり夢だ。でも、まだ見続けたい夢なのだ。


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