交誼の酒18
グレンダン丘陵地帯における遠征軍とサザーネギア軍の戦いは、膠着状態に陥っていた。双方が睨みあったまま守りに入ってしまい、そのため双方が動くに動けなくなってしまったのである。
グレンダン丘陵地帯には、その名の通り小高い丘が幾つも存在している。それで両軍はそれぞれ高地を確保し、そこで防備を固めていた。
高地で防備を固めた敵を突き崩すのは難しい。それは兵法の常識だ。要するに守る方が有利で、そのため両軍は不利な攻め手側を相手に押し付けようとしていた。そして双方が同じ事を考えた結果の睨み合いであり、膠着状態だった。
同時にこの膠着状態は双方が互いの出方を読み違えた結果でもあった。
遠征軍は、先遣隊と本隊が合流したばかりでは敵も警戒すると考え、すぐに攻勢に出るのではなくまずは守りを固めることにした。また、敵軍を率いているバルバトール公爵エドモンドは、最近不祥事続きであり、また派閥の領地を切り取られてもう後がない。失態を取り戻すためにも打って出てくるはず、とエルストは考えた。それで、相手が攻めてきてくれるのであれば、ことさら優位を捨てる必要はない、というのが遠征軍の方針だったのである。
一方、サザーネギア軍を率いるエドモンドはこう考えていた。ここで下がるわけにはいかない。なんとして踏みとどまって戦わなければならない、と。
もしここで敗走すれば、当然ギルヴェルスに逆侵攻するというエドモンドの野心はほとんど実現不可能になる。それだけではない。その敗北は彼の派閥の結束にも致命的な打撃を与えるだろう。権益を守れない盟主は早々に見限られ、派閥を構成していた貴族たちは他の二人の公爵に擦り寄っていくことになる。
さらに直近の懸念として、このサザーネギア軍総司令官という座さえ奪われることになりかねない。そうなればエドモンドの、いやバルバトール公爵家の権威は地に落ちる。それだけは絶対に避けなければならなかった。
エドモンドには後がない、というエルストの推察は確かに当っていた。しかしそのために彼が動くのかを、エルストは読み違えた。
エドモンドはひとまず、勝つことではなく負けないことに主眼を置いたのだ。負けずに戦い続けて緊張状態を維持すれば、ひとまずはバルバトール公爵家の権威と派閥の結束を守ることができる。
加えて、防衛戦に持ち込めばサザーネギア軍の方が有利、という計算もあった。なにしろここはサザーネギア。援軍や補給を求めることも簡単だ。遠征軍の目的はさらなる東進であろうから、不利な攻め手側も押し付けてしまえる。そうやって敵を疲弊させ、頃合を見計らって駆逐すればいい。
要するに、エドモンドの思考は全体的に“守り”に傾いていた。目の前の武力闘争にしろ、権力闘争にしろ、まずは自分の権益を失わないことを大事としたのだ。それが戦略方針にも影響を与えた。
双方が攻め手になることを嫌って防衛戦を選択した結果、グレンダン丘陵地帯には緊張に満ちた膠着状態が訪れた。戦闘は起こるには起こったが、小規模かつ散発的で、全体の趨勢に与える影響は皆無だった。高地で守りを固めた敵は手強い。それが十分に分かっているからこそ、双方とも動くに動けなくなってしまったのである。
グレンダン丘陵地帯では連日、聞くに堪えない誹謗中傷や侮辱の言葉が、弓矢の代わりに飛び交った。下劣で品性の欠片もない言葉であり、高度な教育を受けた者ほど眉をひそめた。尤も、戦とはそれ自体が下劣で品性とは無縁であるという説もあるが、それはそれとして。
まるで子供の喧嘩のような有様だったが、やっている双方はいたって真面目だった。言うまでもなく、これは挑発である。敵が動かないのであれば無理やり動かすしかない。そう考えるのは双方ともに同じであり、そしてそのため「みだりに動いてはならぬ」と考えるのもまた同じだった。
「やれやれ、八方塞がりだな」
耳に届く罵詈雑言をかき消すためにリュートを奏でさせながら、エルストは苦笑気味にそう呟いた。実のところ彼には、敵が守りを固めていようが少なくともこの場は勝てるという自信がある。しかしそのためには、相応の被害を覚悟しなければならないこともまた事実だった。
(ここで勝てばサザーネギアの全てが手に入る、というのであればそれでもよいが……)
しかしそうはならないであろう。ここでバルバトール公爵を下しても、まだグリフィス公爵とロベリス公爵(今は代理だが)がいる。軍勢の規模はともかくとしても、まだ戦いは続くのだ。
(援軍の当てがあれば良かったのだが……)
エルストはため息を吐きながら頭を振る。今のギルヴェルスからさらに兵を集めるのは難しい。集めることができたとしても、新兵や老兵ばかりであろう。それではエルストの役に立たぬ。
そうなると、アルヴェスクにさらなる援軍を求めるしかない。しかしそれでは、この遠征の主導権をアルヴェスクに、つまりはライシュに握られてしまう。それでは、少なくともエルストにとっては、本末転倒だった。
今は兵の損耗を抑えながら勝つしかない。結局、結論はそうなる。だがそのせいで今は動けずにいる。
謀略を仕掛けてはいる。誰それが裏切っただの、内通しているだの、そういう情報を敵陣に流すのだ。切り崩し工作も平行して行われている。しかし今のところ、めぼしい効果は上げられていない。エルストが思っていた以上に、サザーネギアにおける派閥の結びつきは強く、また深いらしい。
(サザーネギア連邦の貴族は、その気風として王を忌む、か……)
この遠征の前、サザーネギアについて調べていた際に聞いた、そんな話を思い出す。サザーネギア連邦は王制を否定して生まれた。そのため王を戴くことに強い拒否感を持つ。ギルヴェルスに味方すれば必然的に王を仰ぐことになるのだから、その気風が謀略を妨げる一因であることは間違いない。
「我慢比べだな、これでは」
自嘲気味な笑みを浮かべながら、エルストはそう呟いた。さて、どちらが先に痺れを切らすのか。あまり気の長い策略は好みではないのだが、と彼は苦笑しながら呟いた。
結論から言えば、どちらも痺れを切らすことはなかった。その前に驚くべき情勢の変化が起こったのだ。
両軍に対し、講和条件案が提示されたのである。提示したのは、現在連邦議会の議長を務めているグリフィス公爵アレスニール。しかし彼が講和条件案を持ってこの戦場にやって来ることは、エルストにとってはそう驚くようなことではない。
「まさか、お前がここへ来るとはな、カルノー」
これほど呆然とした声を出したのは、一体いつ以来であろうか。エルストは頭の片すみでそんなことを考える。そんな彼の見つめる先、アレスニールのすぐ横で、カルノー・ヨセク・ロト・オスカーが悠然と佇んでいた。
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「これは一体どういうおつもりか、オスカー将軍!?」
遠征軍の本陣でラジェルグ将軍が吼える。その怒鳴り声を、カルノーは涼しい顔をして受け流した。そんな友人の姿を見て、エルストは妙な感慨を覚える。以前の彼なら、似たような状況では気圧されて逃げ腰になっていたというのに、図太くなったものである。
アレスニールの呼びかけによって開催された一回目の和平交渉は短時間で終わった。場所は、両軍が睨みあう丘と丘の間にある谷間。彼がカルノーと協議して作成したという条件案がまず双方に提示され、またその説明が行われた。
提示された講和条件案の要点を端的に纏めると、おおよそ次の通りになる。
《サザーネギア連邦は、現在遠征軍が占拠している3州を割譲し、さらに5州分の年間租税相当額を賠償金として支払う。これを持って和平をなし、両国は戦闘行為を停止するものとする》
条件案の内容は、遠征軍に有利なものと言える。領地を割譲させ、賠償金も得た。勝ち負けの問題ならば、「勝った」と言える内容である。とはいえ満足できるかと言われれば、それはまた別問題であろう。なお、ギルヴェルスとアルヴェスクの取り分を明示していないが、これはそれを決めるのはあくまでもエルストであるからだ。
『ひとまずはここまでといたしましょう。また日を定めてお知らせしますゆえ、まずはこの条件案をお持ち帰りください』
アレスニールのその言葉で、その場は散会となった。喋っていたのは、ほとんど彼一人だけである。エルストは裏を探るような目をしながら黙して何も語らず、一方エドモンドは爆発しそうな怒気を押さえ込むためにやはり沈黙を保った。彼のその真っ赤な顔を見られたことは一つ収穫だな、とエルストは意地悪げに思った。
散会した後、エルストは軍議と称して遠征軍の主だった者を本陣に集めた。その中には無論、カルノーもいる。要するに、彼の査問会だった。そして真っ先に口火を切ったのはラジェルグだった。
「どういうつもり、とは一体何のことでしょうか、ラジェルグ将軍?」
十分わかっているであろうに、カルノーはぬけぬけとそう問い返した。友人のその物言いに、エルストは思わず苦笑する。どうやら図太くなっただけではなく、腹黒くもなったようだ。
「ふざけるなっ! 敵軍と一緒にいるどころか、あまつさえあんな物まで用意しているとは! さては裏切ったか!?」
ラジェルグの怒号が天幕の中に響く。彼と共に居並ぶ、主にギルヴェルス軍の参謀たちも、一様にカルノーに対し鋭い視線を向けている。味方であるはずなのに、まるで敵を見るかのような目だ。
ラジェルグはこの遠征で大きな手柄を立てることを望んでいる。自身の影響力を増し、アルヴェスク人の王配エルストを牽制するためだ。しかしここで講和が成れば、彼はこれまでの限られた手柄しか得られない。
しかも講和条件案そのものも、随分と不本意な内容だ。これほど戦っておきながら、たった3州しか得るものがない。そんな条件案を持ってきたカルノーは、彼にとってまさに潜在的な敵だった。
「そのように言われるのは心外です」
しかしカルノーは泰然として動じない。それどころか視線を鋭くし、エルストでさえ初めて聞くような冷たい声でそう返した。刃のように冷たく鋭い怒気に、ラジェルグは唾を飲んで僅かに頭を仰け反らせる。
「な、なにが心外なものか! 総司令官たる王配殿下の意向を無視して勝手に敵軍と和平交渉を行うなど、軍規違反も甚だしい! これが裏切りでなくてなんなのか!?」
気圧されまいとしているのか、ラジェルグはさらにまくし立てた。それに対し、カルノーはあくまでも冷たい声でこう返す。
「講和条件案の提示はあくまでもアレスニール殿の名前で行われていること。私は意見を求められたので、それを述べたにすぎません。そもそも、条件案は遠征軍に有利な内容であったはず。それを持って裏切りなどと言われるのは、甚だしく不本意です」
それを聞いて、エルストは内心「よく言う」と苦笑した。カルノーは「意見を述べただけ」と言っているが、それが実質的な和平交渉であることは明白だ。彼がアレスニールと一緒にあの場にいたことが、何よりの証拠と言えるだろう。どうも彼は本当に腹黒くなったようである。
それはラジェルグも十分に理解していると見え、彼の怒気が弱まることはない。しかしだからと言って、カルノーを裏切り者呼ばわりしたのは失策だった。過激な物言いは、往々にして付け入る隙を与えることになる。
「左様ですな。それともラジェルグ将軍は、アルヴェスク軍は信用ならぬと、そう仰るおつもりか?」
そう言ってカルノーを擁護したのは、同じアルヴェスク人であるラクタカス大将軍だった。彼の言葉の選び方は巧みである。
彼は「近衛軍」とではなく「アルヴェスク軍」と言った。つまりこの中には、エルストの率いるアルクリーフ領軍も含まれている。これさえも「信用ならぬ」と言えば、ラジェルグは遠征軍の中で孤立することになる。最悪、彼こそが裏切り者として粛清される恐れさえあった。
「そ、そのようなことは申しておらぬ……!」
それでラジェルグとしてはそう答えるしかない。それでもなおカルノーを糾弾しようとする彼を、最後はエルストが止めた。
「ラジェルグ将軍。オスカー将軍に謝罪せよ」
エルストはラジェルグにそう命じた。彼にとっても、提示された講和条件案は不本意なものである。しかし遠征軍の総司令官として、彼はここで味方を割るわけには行かなかった。
ギルヴェルス側とアルヴェスク側の対立が先鋭化して内部分裂がおこれば、もはや不本意な和平交渉どころではなくなる。この遠征の全てが無駄になりかねないのだ。それだけは未然に防がねばならなかった。
「いえ、ですが……!」
「謝罪せよ。三度は言わぬ」
強い口調で、エルストはもう一度命じた。三度目はないと言われ、ラジェルグは怒りと屈辱に身を震えさせながらカルノーに対し謝罪した。
「部下が失礼なことを申した。私からも謝罪する。しかしオスカー将軍、卿に一つ聞いておきたいことがある」
「何でしょうか?」
「もしこの交渉が決裂した場合、将軍はいかがするつもりか?」
「その時は、私も遠征軍の一員として微力を尽くすことになりましょう」
いささかの逡巡もなく、カルノーはそう答えた。彼の脳裏には無論ジュリアの姿があったが、それでも彼はそう答えることをまったく躊躇しなかった。この場にいる者たちはもちろん彼の事情を知らないわけだが、もし知っていたとすれば、その態度に感嘆を禁じえなかったであろう。
「それを聞いて安心した。将軍への懸念もこれで晴れることであろう」
そう言ってエルストはこの問題の幕切りを宣言した。これ以上カルノーを追求することは、彼の決定に逆らうことを意味する。アルヴェスク軍、特に近衛軍の参謀らは当然といった顔で頷き、ギルヴェルス軍の面々もしぶしぶといった様子ながらも頷いた。それを見てエルストは一つ頷き、それからおもむろに話題を変えた。
「それで、グリフィス公爵が提示した条件案だが、いかがするべきと考える?」
「受け入れるべきではありません!」
「遠征は始まったばかりです。まだろくに戦ってもいないのに、ここで退くなどありえません!」
「戦況は確実に我が方有利です! ここで講和するなど、愚策です!」
ラジェルグをはじめとするギルヴェルス軍の参謀らが、講和に否定的な発言を次々にする。それらの意見を一通り聞くと、エルストは一つ頷いてから今度はラクタカスのほうに視線を向けた。
「ラクタカス大将軍はいかが思われる?」
「アルヴェスクとしては、提示された条件案は妥当であると考えます。あくまでも現状で講和を行うならば、ですが」
「ふむ。つまり、講和には賛成であると?」
「そう取っていただいて構いません。無論、最終的な判断は王配殿下におゆだねいたしますが」
ラクタカスははっきりとそう答えた。カルノーが合流してから、二人だけで状況を確認しあう時間などなかったのに、部下が勝手に纏めてきた条件案に含むところは見られない。これで彼とカルノーが反目し合えば、まだやりようはあったのだが、とエルストは内心で舌打ちした。
「……もし、この条件案で講和が纏まれば、アルヴェスク皇国には賠償金をお取りいただくことになるが、それでもよろしいか?」
暗に「領地は渡せない」と告げ、エルストはラクタカスの反応を伺った。それに対し彼は、憎らしいほどあっさりと頷いてみせる。
「王配殿下がそのようにお決めになるのであれば、それに従います」
反対はせず、しかし若干の不満が残っていることを匂わせる。嫌な答え方だった。アルヴェスクの取り分を少しでも多くしようとしているのだ。エルストは舌打ちしたいのを堪えつつ、一つ頷いてラクタカスから視線を外した。
「……オスカー将軍。卿の意見は?」
最後にエルストはカルノーの意見を聞いた。とはいえ彼の意見など、実際のところ分かりきっている。しかし彼が口にしたのは、予想された言葉ではなかった。
「王配殿下の良いようになされますように」
カルノーは恭しく一礼してそう答えた。普通に考えれば、彼の言葉は「講和を行うか否かはエルストが判断するように」という意味だ。しかしこの時、当のエルストにはまったく違う意味に聞こえていた。
『どうしてもライと争うつもりなのか、ロキ?』
まるで本当にそう問い掛けられたかのように、その声音はエルストの耳の奥ではっきりと響いた。
(どうにもならん。どうにもならんのさ)
エルストは胸の中でそう呟いた。野心とはすなわち焼き尽くす炎であり、また喰い尽す魔獣だ。焼き尽くすものがある限り、喰い尽すものがある限り、止めることも宥めることもできはしない。どうにも、どうにもならないのだ。
エルストはそうやって自らの心をもう一度確認する。彼の中の野心は、すでに誰から何を言われようとも無意味なほどになっている。それをどうとも思いはしない。全ては彼自身が望んだことである。
それゆえエルストの本心としては、このまま遠征を続けたい。この遠征における彼の目標は、サザーネギア全土の併合だ。提示された条件案はそれに遠く及ばず、その点を彼が不満に思っているのは間違いない。
(とはいえ……)
とはいえ、目の前の問題には、また冷徹な判断を下さなければならない。判断を誤れば彼の野心は容易く彼自身を焼き尽くし、また喰い尽すだろう。激情に焦がされ短絡的になるのは避けなければならない。
そして、ラクタカスとカルノーが講和に賛成している。これは今のエルストにとって無視しできない事柄だった。
この二人が賛成しているということは、つまりアルヴェスクが講和に賛成しているということ。遠征軍内におけるアルヴェスクの戦力は、カルノーが来たことで総勢10万を超えた。ギルヴェルス軍を凌駕しており、本来は援軍であるはずなのに、遠征軍の主力と言っていい有様だ。
エルスト子飼いの戦力であるアルクリーフ領軍を除き、近衛軍だけを数えたとしてもその戦力はおよそ8万。遠征軍全体の半分近い。それでラクタカスとカルノーの意向は、政治的にも戦略的にも、エルストにとって多大な圧力となっている。
「……こちらが講和を望んだとしても、バルバトール公爵がそれを拒むこともありえる。彼の出方を見てから勘案するとしよう」
結局、エルストはこの場で結論を出すことを避けた。バルバトール公爵に期待した、と言ってもいい。彼が戦争の継続を望めば、エルストは誰に憚ることもなくこの地を切り取ることができるのだから。
(みっともないことだ……)
エルストは内心でそう呟いて自嘲する。あろうことか敵に期待をかけねばならぬとは。己の力不足を突きつけられる。
「グリフィス公爵は改めて日を定めると言っていた。恐らく明日にも連絡が来るだろう。まずはそれを待つ。こちらから仕掛けることはしないが、警戒を緩めるな。特に、今夜は夜襲に注意しろ」
最後にそう命じると、エルストは軍議を閉じた。
天幕を出ると、彼はふと東に目をやる。そこには篝火を焚いたサザーネギア軍の本陣がある。そこではきっとグリフィス公爵とバルバトール公爵が、彼らと同じように講和するかどうかについて話し合いをしていることだろう。きっと真っ赤な顔をして怒るバルバトール公爵を、グリフィス公爵が宥めているに違いない。
(せいぜい、ごねろよ)
内心でそう呟き、エルストはバルバトール公爵に期待した。彼の物分りの悪さに期待した。そして彼に期待している自分を嗤い、肩をすくめるのだった。




