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アルヴェスク年代記  作者: 新月 乙夜
結の章 交誼の酒
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交誼の酒7

 サザーネギア連邦の最高意思決定機関である連邦議会は、議長役を務める公爵の領地で開催されるのが通例だった。現在の議長はグリフィス公爵アレスニールであるので、連邦議会は彼の領地にある城の一つで開かれていた。今議会における最大の焦点は、領内に侵入しおよそ3州を切り取って占領している、ギルヴェルス軍への対処である。


「現在サザーネギア連邦は、侵略者によってその国土の一部を不当に占領されておる! 我々はこの危機に際して一致団結し、祖国を守るための行動を起こすべきであると考えるが、いかがか!?」


 議場の隅々にまで響き渡る大声を張り上げ、そのように主張したのはバルバトール公爵エドモンドだった。分厚い胸板を逸らせて胸を張り、髭を生やした厳つい顔に怒りを浮かべながら彼は自分の主張を声高に述べる。


 彼の言うとおり、サザーネギア連邦の領土の一部が、侵攻してきたギルヴェルス軍によって占領されている。かの国は去年からサザーネギアへの遠征を宣言していたから、この軍勢は先遣隊であろう。それで今後、さらにより大規模な本隊がやって来ることが予想された。


「本隊と合流される前に、この先遣隊を叩くべきである!」


 エドモンドはそう主張する。彼のその主張は正しいのだろう。しかし彼は不都合な事実から目を逸らしている。それを指摘したのは、ロベリス公爵代理を務める女傑カルナリアだった。男装している彼女は、刃物を思わせる怜悧な雰囲気を纏っている。


「お待ちいただきたい。そもそもなぜ、ギルヴェルス軍は我が国に侵攻してきたのか。その理由をお聞かせ願いたい」


「侵攻の理由など、この期に及んでどれほどの意味がある? 今は無意味な議論に時間を費やすべきときではない。先ほども述べたとおり、今は果断な行動こそが求められておるのだ!」


 鼻で笑うようにして、エドモンドはそう言った。しかし、彼のその物言いに眉をひそめることも臆することもなく、カルナリアは淡々と言葉を続ける。


「……まず最初にルルガーク男爵らが領軍を率いてギルヴェルスに侵攻するも、反撃にあって撤退。その背中を追う形でギルヴェルス軍が逆侵攻してきた、というのが今回のことについて私が聞き及んでいる事柄です」


 そしてルルガーク男爵らはギルヴェルス軍のその逆侵攻によって領地を追われ、今は派閥の首魁であるエドモンドのもとに、僅かに残った手勢を引き連れて身を寄せている。それがカルナリアのもとに入ってきているこれまでの状況だ。


 それについて彼女は「相違ありませぬか」とエドモンドに尋ねる。それに対し彼は、まるで動じることなくこう答えた。


「相違ない。だが、それで何が問題なのだ?」


「大問題ではありませぬか。連邦憲章は議会の承認なく国外への派兵を行うことを禁じています。ルルガーク男爵らの行動は明確に連邦憲章違反です」


 連邦憲章に違反することは、サザーネギアにおける最大の禁忌である。アルヴェスクに置き換えてみれば、皇王の勅命に逆らうことに等しい。領主の座にある者は当然極刑であるし、領地はその一族から召し上げられ、議会においてまた新たな領主が選任されることになる。


「これは異なことである。ルルガーク男爵らは連邦憲章に違反してなどおらぬ」


 エドモンドはそう言い切った。彼の主張は次の通りである。


 そもそも、「遠征をする」と先に宣言したのはギルヴェルスである。これは事実上の宣戦布告と同じであり、実際連邦議会においても一致団結しこれに立ち向かうことがすでに議決されている。この際、「場合によっては国境を越えることもやむなし」と定めたはず。ルルガーク男爵らの行動はそれに則ったものである。


「無論、敗戦の責任は免れぬ。ゆえにこれから先、彼らには率先して大いに働いてもらうことになろう。しかし、議決に則った行動である以上、連邦憲章違反と誹られるのは筋違いも甚だしい」


 ぬけぬけと、と言うべきであろう。エドモンドは皮肉気に口の端を歪ませながら、ぬけぬけとそう言い放った。それを聞いてカルナリアはさすがに眉間にシワを寄せて怜悧な顔を歪めた。


(そもそも一体なぜ、ギルヴェルスが「遠征をする」と宣言したと思っているのか!?)


 それは、サザーネギア方面からやって来た略奪隊がギルヴェルス領内を荒らしまわったからだ。当然のことながらギルヴェルスはこの略奪隊がサザーネギアの軍勢であると判断し、その報復のために遠征を決意したのである。


 本来なら、略奪隊を送り込んだことそれ自体が連邦憲章違反である。当然、カルナリアはこの件を議会で追求した。しかしエドモンドは次のようにすっ呆けたのである。


『賊であろう』


 サザーネギア側に根城を構えていた賊が国境を越えてギルヴェルスに侵入し略奪に及んだ。この賊は当然領軍とは無関係の存在であり、それゆえ連邦憲章違反には当らない。エドモンドはそう主張したのである。


 実際のところ、この略奪隊はもちろん賊などではない。今回と同じく、ルルガーク男爵らの領軍である。内乱でギルヴェルス国内が混乱しているのを見て、好機と思い仕掛けたのである。


 当然、議会の承認など得ていない。よって明確な連邦憲章違反である。しかしそれを認めてしまえばルルガーク男爵らは断罪され、さらにエドモンドは自身の派閥の力をそがれることになる。


 略奪隊は撃退されてしまったものの、幸いにしてこの時はギルヴェルス軍が逆侵攻してきてサザーネギア国内に被害が出る、ということはなかった。それでエドモンドは略奪隊を自分たちとは関係のない賊であるとして、強引に幕引きを図ったのである。


『数万規模の賊を養っておられたとは、ルルガーク男爵らの領地は実に豊かで羨ましいかぎりです』


 追求をかわされたカルナリアはそう皮肉を言うのが精一杯だった。この時すでにギルヴェルスからは「遠征を行う」との声が聞こえてきており、無理に追求しようとすればこちらへの対応が遅れる恐れがあった。それでこれ以上は無意味であると考え彼女はさらなる追及はしなかったが、しかし最後に次のように求めた。


『落延びてきた賊の討伐はそれぞれの領主方が責任をもっと行われますように』


 さらにその際、賊がギルヴェルスへ逃げて、それがサザーネギアの差し金であると思われては事である。それで必ずや領内で決着を付けるように、とカルナリアは注文を付けた。


 実際に行おうとすればかなり難しい条件ではあったが、ルルガーク男爵らは苦い顔をしながら頷いて同意した。なぜなら落延びてきた賊など、本当は存在しないのだから。存在しない賊を討伐する必要はなく、どれだけ難しい条件であろうとも問題になるはずがなかった。


 カルナリアもそれは承知している。その上でこのように注文を付けたのは、つまり「二度と同じ言い訳をするな」と釘を刺したのだ。


 しかしこの時に刺した釘が、ここへ来て思わぬ効果を発揮した。エドモンドに己の派閥の失策を認めさせたのだ。


 彼にしてみれば、今回最初に仕掛けた略奪隊も、サザーネギアとは無関係な賊であることにしてしまいたかっただろう。そうすれば「ギルヴェルスが一方的に侵攻してきた」ということにできる。


 しかしカルナリアに釘を刺されていた手前、その論法は使えなかった。今回も賊の仕業であるといえば、「なぜ賊を討伐しておかなかったのか」と追及されるだろう。賊の討伐は議会の議決であり、これを(ないがし)ろにすることは連邦憲章違反に相当する。それゆえにエドモンドは今回の略奪隊について「賊である」とは言えず、派閥の貴族らの領軍であると認めざるを得なかった。


 尤も、エドモンドもこの失策が致命的であるとは思っていない。目の前に明確な危機がある以上、そちらへの対応を優先するべきであることは子供でも分かる。そして実際にギルヴェルス軍と戦うのは、彼自身の派閥を中心とした戦力だ。


(ギルヴェルス軍を叩き出してしまえば、その手柄を盾に追求などいくらでもかわせる)


 エドモンドはそう考えていた。よって、ギルヴェルス軍への対応を急がせてルルガーク男爵らの失策の責任はうやむやにする。それが彼のこの議会における方針だった。それで彼はまだ何か言いたげに視線を鋭くするカルナリアから視線を逸らし、議長であるグリフィス公爵アレスニールの方へ向き直った。


「議長。今は一分一秒が惜しい。今こうしている間にもギルヴェルスは軍備を整え、我が国へさらなる侵攻をせんとしている。何度でも言うが、今は無意味な議論を重ねるべきときではない。行動を起こすべきときなのだ!


 今対応を誤れば、サザーネギア連邦はギルヴェルス王国に併合されてしまう。それは父祖たちが守り抜いてきた、連邦憲章の理念を踏みにじることではないのか!?」


 エドモンドがそう声を張り上げると、彼の派閥の貴族らが口々に同意の声を上げた。その様子をカルナリアや彼女の派閥の貴族らが苦々しげに眺める。


 確かにギルヴェルス軍への対応は急務であり重要だろう。しかしそれをいいことにルルガーク男爵らの責任をうやむやにしようという魂胆がありありと見える。そういうエドモンドらの態度は極めて専横であるようにカルナリアらには思えた。


「静粛に」


 これまでずっと議論に耳を傾けていたアレスニールが、このとき初めて声を発した。さすがに議長役にして三人の公爵の中の最年長。その声は決して大きいわけではなかったが、しかし重みがあり、議場は瞬く間に静かになった。


「まずギルヴェルス軍であるが、我が国の領内に侵入してきた彼らを捨て置くわけにはいかぬ。それで、迎撃をバルバトール公爵に一任したいと思うが、いかがか?」


 異議なし、の声がエドモンドの派閥の貴族たちから次々に上がる。アレスニールの派閥の貴族たちも「議長がそう言うならば」と賛成に回る。


「カルナリア殿、いかがかな?」


「……異議、ありませぬ」


 最後にアレスニールがカルナリアに意思を聞くと、不承不承と言ったふうながらも、彼女もまた賛成に回った。というより、ここで反対などできない。この結論は議会が始まる前から決まっていたと言っていい。


 そしてカルナリアを皮切りにして、彼女の派閥の貴族たちも次々に賛成を表明する。こうして連邦議会は全会一致で、ギルヴェルス軍の迎撃をエドモンドに一任することを議決したのである。


 議会が閉会すると、エドモンドはさっそく派閥の貴族らを引き連れて議場から出て行く。急ぎ領地へと戻り、兵を集めて軍勢を催すのだろう。そんな彼の姿に、カルナリアは頼もしさよりも先に一抹の不安を覚えた。


(あれではまるで、王のようではないか……)


 サザーネギア連邦は王制を否定して生まれた。誰か一人が絶対的な権力を持つことを、この国は許さない。連邦憲章はこの国最高の権威とされているが、しかしむしろ先人たちは権力を規制するためにこそ連邦憲章を用意したのではないだろうか。カルナリアはそのように思っている。


 しかしエドモンドは、サザーネギア連邦が否定した絶対的な権力を求めているのではないか。最近、カルナリアにはそう思えてならない。王となろうとしているのではないにしても、より強い権力と影響力を欲しているのは事実であろう。


(男の野心、か……)


 度し難いと思ってしまうのは、カルナリアが女であるから。くだらない考えだと思い、彼女は苦笑しながら頭を小さく振った。


 合議と投票によって国の意思が決まるサザーネギアにおいて、国内で発言力を増すには限界がある。三人の公爵を中心として派閥がほぼ固定化してしまった現在では、他の派閥を切り崩すことも難しい。となれば、対外遠征によって新たな領土を獲得し、それによって派閥の力を増していくのが残された手段だった。


 エドモンドの派閥は、国の西部に勢力を持っている。そしてサザーネギアの西にはギルヴェルスがある。折しも、そのギルヴェルスで王位を巡る内乱が起こった。混乱したギルヴェルスはエドモンドの目に格好の獲物として映ったに違いない。


(尤も、その獲物に逆襲され窮地に陥っていては、派閥の勢力拡大など夢のまた夢……)


 胸の中でそう呟き、カルナリアは薄く笑った。結果だけ見れば、エドモンドの打った手は全て失敗に終わっている。全ては新たにギルヴェルスの王配となったエルストロキアの手腕によるものだ。思うように物事を進められないエドモンドは、彼に対し(はらわた)の煮えくり返る想いであるに違いない。


(ああ、もしかしたら……)


 もしかしたら、エドモンドはエルストに対して怒りと同時に恐れを感じているのかもしれない。カルナリアはふとそう思った。ギルヴェルス軍がさらに東進してきた場合、その影響と被害を真っ先に受ける彼の派閥だ。それゆえエルストを恐れるエドモンドは、あそこまで性急に「今、行動を起こすべきである」と主張したのかもしれない。


「いずれにしても……」


 カルナリアは小さく声に出してそう呟いた。いずれにしても、この件に関するエドモンドの専横は目に余る。彼をこのままにしておけば、例えギルヴェルスを退けたとしても、後々に禍根を残すことになる。この国に王を誕生させるわけにはいかないし、またこの国を割るわけにもいかない。


(彼を掣肘しなければならない。だが……)


 問題はその方法とタイミングである。下手に手を出して、それがギルヴェルスの利に結びきでもしたら目も当てられない。さてどうしたものかと悩むカルナリアに、笑いを含んだ声がかけられた。


「そんなに難しい顔をしていては、シワが増えてしまいますぞ、カルナリア殿?」


「アレスニール殿……」


 カルナリアが顔を上げると、そこにいたのはアレスニールだった。失礼なことを言われた気もするが、それが嫌味にならないのが彼の人徳だろう。議長席に座っていた時の毅然としていた表情とはうって変わり、今は好々爺然とした笑みを浮かべている。


「一緒にお茶でも、いかがですかな?」


「……ご一緒しましょう。ちょうど、喉が渇いていたところです」


 少しだけ頬を緩めながら、カルナリアはそう答えた。そして二人は議場から別の客室へと移動する。すでに言いつけて準備をさせていたのだろう。二人がソファーに向かい合って座ると、すぐに侍女が紅茶の入ったティーカップを差し出した。


「……いただきます」


 そう言ってから、カルナリアはティーカップに口をつけて紅茶を啜った。蜂蜜が入っているのか、風味のある甘さが口の中に広がる。疲れた身体にしみいるようだった。思わず大きく息を吐くと、それを見たアレスニールが小さく笑う。


「お疲れのようですなぁ」


「……失礼しました」


「いえいえ、お気になさらず。カルナリア殿の働きを考えれば、お疲れになるのは当然というものです」


 アレスニールがそう言うと、カルナリアは僅かに微笑んだ。彼のその気遣いが、カルナリアには素直にうれしかった。


 現在のこの世界は、言うまでもなく男社会である。それはサザーネギアも変わらない。その男社会の中、女であるカルナリアが代理とはいえ派閥の首魁を務めているのである。当然当初は、いや今現在に至るまで、そのことが原因で少なからず問題があった。中には彼女を押し退けて自らが派閥の首魁になろうとする者もいたほどだ。


 それでもカルナリアがロベリア公爵代理を務め続けられている最大の理由は、三公爵の一人であるアレスニールが一貫して彼女をそのように扱ってきたからである。首魁がそうであるから、彼の派閥の貴族たちもそれに倣う。そうなると、彼女がロベリア公爵代理でなければ諸々が回らなくなる。


(まったく、アレスニール殿には頭が上がらない……)


 もちろん、曲がりなりにも派閥の首魁である以上、それを口に出すことはない。しかしそれでも、彼にある種の借りがあることをカルナリアは自覚していた。


(それでもやり合うときに手は抜かぬが)


 そしてアレスニールもまた、手を抜かれることを望んでいない。彼のそういう態度に、カルナリアは尊敬の念を抱いている。


「……それでアレスニール殿。なにかお話があるのではありませぬか?」


 ティーカップをソーサーに戻すと、カルナリアはそう言って目の前に座る先達に真剣な目を向けた。派閥の首魁同士が差し向かっているのだ。まさか雑談をするためにこうしてお茶に誘ったわけではあるまい。


「……カルナリア殿は、此度の一件、落し所はどうするべきと思われますかな?」


 ティーカップをソーサーに戻してから、アレスニールはおもむろにそう切り出した。彼の顔つきが議長席に座っていたときのものに近くなる。口元には僅かに笑みが浮かんでいるが、しかし目はまったく笑っていない。


「落し所、と言われますと?」


「エドモンド殿は準備が整い次第、ギルヴェルス軍と戦端を開くでしょう。ですが戦というのは、始めるよりも終わらせることの方が難しい。それで落し所をどこへ持っていくか、カルナリア殿のご意見をお伺いしたと思いましてな」


「なるほど……」


 そう言って頷きつつも、カルナリアはアレスニールの言葉をそのまま鵜呑みにはしていない。彼のことだから、勝つにしろ負けるにしろ、落し所の目星はもう付けているはずだ。もちろんそれで決まりと言うわけではないから、その点についての意見を聞きたいというのも本当だろう。しかし彼が気にしているのは、もっと別のことのはずだ。


「領内からギルヴェルス軍を排除したときが、一つの目安となると思いますが……」


 カルナリアがそう言うと、アレスニールは笑みを深くして頷いた。問題はそのタイミングでの講和を、軍を率いて実際に戦っているエドモンドが受け入れるのか、ということである。


 ギルヴェルス軍をサザーネギア領内から排除したということは、つまり勝っているということだ。さらに進めば、今度はギルヴェルス領内に侵攻できる。新たな領土を得て自らの派閥の発言力を増したいエドモンドが、それを考えていないはずがない。であれば、彼を止めて講和の席に着かせるのは難しいかもしれない。


 しかし逆に負けていた場合、つまりギルヴェルス軍がさらに深く侵攻してきた場合、やはりエドモンドは意固地になって戦おうとするだろう。派閥の貴族たちが領地を失えば、それはそのまま彼の発言力の低下に繋がるからだ。


 つまり勝っていても負けていても、講和に持ち込むタイミングが難しい。そしてそこまで考えると、カルナリアはふとあることに気付いた。


(そうか……、アレスニール殿もエドモンド殿のこの頃の振る舞いを気にしておられるのか……)


 専横が過ぎる、と考えているのかは分からない。しかし、エドモンドの野心には気付いているはずだ。なにしろアレスニールには、見方によってはカルナリアよりも、大きな付け入る隙があるのだから。


 なんにせよ、アレスニールがカルナリアと同じ危機感を抱いていることは、彼女にとって朗報だった。二人で力を合わせれば、エドモンドを掣肘することも十分に可能だろう。彼女がそう思っていた矢先、しかしアレスニールが口にしたのは思いがけず、そして意味深な言葉だった。


「期待して見ますかなぁ……、彼に」


「“彼”、というのは一体……?」


 カルナリアはそう尋ねたが、アレスニールはただ微笑むばかりで、ついに具体的な名前を口にすることはなかった。彼女がアレスニールのいう「彼」の正体を知るのは、もう少し先のことである。

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