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アルヴェスク年代記  作者: 新月 乙夜
転の章 薄氷の同盟
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薄氷の同盟15


「やはり、来たか」


 アンネローゼとアンジェリカの二人が解放軍の遠征に同行することが決まった軍議の後のこと。自分の天幕に戻っていたエルストは、友人であるカルノーが訪ねてきたことを知らされると、苦笑を浮かべながら彼を出迎えた。


 エルストはカルノーを天幕の中に招きいれ、さらに人払いをして二人きりになった。そして友人を座らせると、水差しから二つのコップに水を注ぎ、片方を彼に手渡す。薄く切ったレモンを浮かべてある水で、その酸味が爽やかで心地よい。


「それで、何のようだ? まあ、大よそ想像は付くが」


「ならば話は早い。ロキ、今からでも遅くはない。アンネローゼ夫人を説得するんだ。お二人が同行するなど、危険すぎる」


 カルノーはそう言ってエルストに促したが、しかし彼の反応はつれない。彼は軽く苦笑し、首を横に振った。


「もう決まったことだ。軍議で決まったことを私の一存で翻すわけにもいかん。それにアンネローゼはああ見えてなかなか頑固だ。今更私が何を言ったところで翻意はせぬよ」


 そう言ってエルストはコップに注がれた水を一口啜る。そんな友人をほとんど睨みつけるようにして、カルノーはこう言った。


「……そうまでして、お二人を連れて行こうとする理由は何だ?」


 カルノーがそういうと、エルストの目つきが一瞬だけ鋭くなった。しかしすぐ、それを誤魔化すようにして彼は苦笑を浮かべる。


「理由も何も、アンネローゼがそれを望んだのであって……」


「建前はいい。ロキの真意を聞かせてくれ」


 エルストの言葉を遮り、カルノーはそう言った。その言葉にエルストは困ったようにして苦笑を浮かべる。カルノーも久しぶりに見る、本当に困っているときの顔だった。


「……二人が戦場に立てば、いや同行してくれるだけで、兵達の士気は上がる。それは、お前にもよく分かるだろう?」


 確かに、カルノーにはエルストの言うことがよく理解できた。ジュリアという実例を間近で見てきたからである。だからその言い分を否定することはできなかった。その代わり、苦しいとは思いつつこう反論した。


「ユーリアス殿下だけでは不足、いや不満なのか?」


「言ったはずだ。私も完全ではない、と。未来を完全に予測することなどできん」


 それはつまり、アンネローゼとアンジェリカの存在をある種の保険にするという意味だった。エルストはユーリアスが戦死する事態を想定しているのである。口に出すことは憚られるゆえ言葉を濁してはいるが、カルノーはそういうことなのだろうと理解した。


「いや、しかしだな……」


「それに、だ。カルノー。後方は、アルクリーフ領は本当に安全なのか?」


 いまだ納得しかねる様子のカルノーに、エルストは身を乗り出し声の調子を少し落してそう言った。アルクリーフ領が、彼の本拠地が戦場よりも危険であることを示唆するその言葉に、カルノーは思わず息を呑んだ。しかしそれを否定することはできない。少なくともエルストがそのように思う理由について、彼にも心当たりがあったからだ。


 解放軍の一度目の遠征の最中、カルノー率いる近衛軍5万が待機していたのはアルクリーフ領だった。彼らがそこにいたのは、ここが皇国北部の中心地であり、それゆえ遠征の情報も入ってきやすかったからである。しかしそれ以上に、ここで待機するようにと言う摂政ライシュハルトの命令があったことが大きい。


 摂政の命令で、近衛軍5万が、貴族の領地に駐在するのである。それは意に沿わねば滅ぼすという脅しであると言っても過言ではない。


「いやそれは……!」


「近衛軍を率いていたのがお前で本当に良かった」


 安堵の息を吐きながらエルストはそう言った。近衛軍を率いていたのがカルノーであったからこそ、エルストは安心して後方を任せることができていた。彼なれば非道なことはするまいという信頼があったからである。


 しかしこれから行われる二度目の遠征において、カルノー率いる近衛軍は一緒に東へ向かうことになっている。そうなれば皇都からアルクリーフ領へ、また新たな部隊が派遣されてくる可能性が高い。カルノーではない将官が率いる部隊である。これを心から信頼することは、エルストにはできそうにない。


「ご家族が人質にされることを心配しているのか……?」


「可能性の一つとして、考えたことはある」


 なまじユーリアスとその妻子という実例をすぐ近くで見ていたのだから、それを考えるなと言うのはかえって酷なことかもしれない。


「ライは、そんなことを考えては……」


「ああ、ライは考えていないだろうな。だがあいつの意向を深読みした馬鹿が暴走するかもしれん」


 そう言われてしまうと、カルノーとしてはそれ以上反論できなかった。彼が押し黙ったのを見ると、エルストはそれ以上この件について言い立てることはせず、おもむろに話題を変えた。


「……話は変わるが、私もカルノーに伝えておくことがある」


「……聞こう」


「サンディアスのもとには、どうもスピノザがいるらしい」


 思いがけないその名前を聞いて、カルノーは目を見開くと思わずエルストの顔をまじまじと見つめた。そんな友人の目を真っ直ぐに見て、エルストはさらにこう尋ねた。


「斬れるか? スピノザを」


「…………分からない」


 声と顔に苦悩を滲ませながら、カルノーはそう答えた。それを聞いて、エルストはため息を吐く。まったく、ため息が出るほど予想通りの答えである。


「あえて言うぞ。斬れ。ためらうな」


 ほとんど命令するようにして、エルストはカルノーにそう言った。ここで決着をつけなければ、スピノザはこの先ずっとカルノーを付け狙うだろう。カルノーだけではない。その妻であるジュリアや、子供が生まれればその子供らさえも狙うだろう。


 彼を放置すればカルノーとその家族にとって悪い結果しか生まない。だからこの機会に後顧の憂いを断て、とエルストは友人に言い聞かせる。カルノーはそれを眉間に皺を寄せながら聞いていた。


「なあ、ロキ。私はスピノザ殿に何か恨まれるようなことをしただろうか……?」


 苦しげな表情をしながら、カルノーはエルストにそう尋ねた。彼自身にその心当たりはない。それどころか、カディエルティ侯爵家にいた間はよく働いていたはずである。だがスピノザは彼を憎み、殺そうとしている。その(いわ)れのない殺意に、カルノーとしては戸惑いを隠せない。


「カルノーに落ち度はなくとも、向こうには恨む理由があるのだろうさ」


 エルストはそっけない口調でそう言った。大貴族の彼にしてみれば、恨みつらみは何もしていなくても買うもの。どう対処するのかこそが重要であり、その原因が何なのかは大きな問題ではないのだ。恨みを抱く本人以外には理解できない理由であることも多いのだから。


 尤もスピノザに関して言えば、彼がカルノーを恨む理由についてエルストは大よそ察しがつく。つまり、カルノーの異例な出世とジュリアを妻としたことへの嫉みだ。そしてスピノザ自身が同じような状況で失敗してしまったことが、その嫉みを恨みに変えるきっかけとなった。


(まあ、何も言うつもりはないがな……)


 それを教えたところで、それこそカルノーにはどうしようもない。彼に非があるわけではなく、スピノザの完全な逆恨みだからだ。


(しかし、こいつも相変わらずだな)


 苦悩するカルノーを見て、エルストは小さく笑みを浮かべた。生まれたときから術数権謀の渦巻く世界で生きてきたせいか、彼は友人のこういう、優秀なくせに鈍いところが好きなのだ。


 まあそれはともかくとして。今はスピノザのことである。


「アーモルジュ殿は、奴について何か仰っているのか?」


「何も。というより、その話題を避けておられるように感じる」


 アーモルジュは現在、カディエルティ侯爵家の当主に舞い戻り、スピノザの失敗を取り戻し、さらに世子を教育するべく奮闘している。そのためカルノーも最近は顔を合わせていないのだが、手紙のやり取りは続けていた。ただその手紙の中でも、アーモルジュがスピノザに触れることはまずない。彼のことは侯爵家にとって史上最大の汚点。今では触れざる禁忌となっているのだ。


「この上さらにスピノザが何かしでかしてみろ。アーモルジュ殿の心労がさらに増すことになるぞ」


 だからスピノザを斬ってしまうことこそが、カディエルティ侯爵家のためでありまたアーモルジュのためだとエルストは言う。


「そう、だね……」


 弱々しい笑みを浮かべながら、カルノーは苦しげにそう答えた。そんな友人の姿を見て、エルストは内心でため息を付く。


(この場で覚悟は決められぬか……)


 とはいえ、スピノザに関しては討つ以外の選択肢などない。それはカルノーも分かっている。後は時間をかけ、ゆっくりと覚悟を固めていくことだろう。そういう意味では、この場でこの話ができて良かったとエルストは思っている。


(それにしても……)


 それにしても、「後顧の憂いを断て」とは、我ながらよく言えたものだとエルストは自嘲する。あの襲撃の際、やろうと思えば討ち取れたにも関わらず、踊ってくれることを期待してスピノザを逃がしたのは、他でもないエルストである。


 その結果、確かにスピノザは良く踊ってくれた。それこそ、エルストの予想を超えるほどに。それは彼とってはむしろ喜ばしいことだったが、その後始末を友人にさせるのはやはり心苦しい。まったく、どの口が言うのかと彼自身思っていた。


(なるほど。これが「後顧の憂い」というやつか……)


 後悔などしていない。しかし、エルストは心の中で、皮肉っぽくそう呟くのだった。



□■□■□■



 ユーリアスとアンネローゼが再会してからその二日後、解放軍はアルヴェスク皇国とギルヴェルス王国の国境を越え、再び進路を東に取った。遠征の仕切り直しである。とはいえ、一度目の時とはだいぶ状況が違う。


 戦力は、カルノー率いる近衛軍を加えて総勢20万。さらにサンディアスのもとには人質がない。すでに殺してしまったからだ。これは悲しむべきことだったが、その反面、解放軍の動きを縛るものはもう何もない。もはや躊躇う必要はなく、解放軍は怒涛の勢いで進軍していくだろう。


 さらに、王太子ユーリアスはこれまで以上に戦意に溢れており、その影響で兵士達の士気も高い。敵は女子供の首を躊躇いなく刎ねるような外道であり、解放軍の兵士たちはみな義憤に満ちていた。


 さらにアンネローゼとアンジェリカの存在もある。家族の仇を討つために同行する彼女らの存在は、兵士達の士気を高めるのに一役買っていた。ただ、さすがに最前線に立たせるわけにもいかない。それで二人は後方に置かれ、カルノー率いる近衛軍5万がその周囲を固めていた。


「アンネローゼ様。お疲れになりましたら、遠慮なくそう仰ってください」


「お気遣い、感謝します。イングリッド様」


 アンネローゼは勇ましく具足を身につけ、そしてイングリッドと同じ馬に跨っている。彼女は決して馬に乗れないわけではないのだが、しかし全力で駆けさせることには慣れていない。それで万が一のときのことを考え、こうしてイングリッドと同じ馬に乗っていた。まさか彼女を男性と同じ馬に乗せるわけにはいかなかったから、こうして同じ女性であるイングリッドにお鉢が回ってきたのである。


 ちなみにアンネローゼの娘であるアンジェリカは、侍女たちと一緒に馬車に乗っている。アンネローゼも馬車に乗ればいいとカルノーは思うのだが、本人は決してそれを聞き入れようとはしなかった。自分の姿を見せることが、兵士達の士気を高めるのに一役買っていると、彼女は理解しているのである。


「さて、我々も行くとしよう」


 先行する解放軍本隊の背中を見送りながら、カルノーはそう言った。アンジェリカの乗る馬車に歩を合わせるため、近衛軍の行軍速度は落ちることになる。それで彼らは輜重の運搬部隊と一緒に、本隊の後を少し送れて付いていくことになっていた。ちなみにこれには、娘と孫を戦場からなるべく遠ざけておきたいという、ユーリアスの意向も反映されている。


 さて、解放軍が国境を越え再びギルヴェルス領内に侵攻してきたという知らせは、すぐさま王都パルデースにいるサンディアスのもとに届けられた。


「そうか。やはり来たか……」


 その知らせを聞くと、サンディアスは眉間に皺を寄せながらそう呟いた。追撃戦でユーリアスを討ち取れなかった以上、いつか解放軍が再侵攻してくる日が来ることは分かっていた。


(それにしても、早い……)


 人質の首を送りつけたことで、ユーリアスの意気は挫いたはずだった。そうでなければあの時、解放軍が撤退するはずがない。だから再侵攻してくるにしても、それは来年の春以降のことだと思っていた。


 だがサンディアスのその予想に反し、解放軍は同じ年の秋を前に、こうしてまたギルヴェルス領内に侵入してきた。そのせいか、彼は胃の辺りに重いものを感じる。とはいえ、彼はまだ落ち着いていた。


「モリード、そなたの予測が当ったな」


「恐悦至極にございます」


 サンディアスの賞賛の言葉に、スピノザは恭しく頭を下げた。彼はサンディアスとは違い、解放軍が今年中にまた侵攻してくると予測してこのように進言していたのだ。


 曰く「ユーリアスを討ち取れなかったとなれば、エルストは彼を後方において、再び侵攻してくることでしょう。ユーリアスが生きてさえいれば、彼らにとっての大義名分は立つからです。


 それで、どうかここで油断することなく、王都パルデースにさらなる兵をお集めになられますように。敵軍を遁走させた今ならば、陛下とユーリアスのどちらがはたして優勢なのか、それは火を見るより明らかでございます。きっと多くの兵が陛下の下に馳せ参じることでしょう。


 その兵を用いてエルストロキアを迎え撃つのです。彼奴めを討てば、アルヴェスクはユーリアスへの助力を諦め、侵略者どもがこの国を脅かすことはなくなるでしょう。これによって陛下の御世は永遠となるのです」


 スピノザのこの進言に従い、サンディアスは兵を集めていた。それで、今現在パルデースにいる兵の数は、およそ20万となっている。奇しくも解放軍とほぼ同数なのだが、解放軍は近衛軍が遅れて後方にいたためサンディアスらはこれに気付いておらず、そのため彼らは「敵は前回と同数」と考え、自分達の方が数の上で有利だと思っていた。


「さてモリードよ。敵軍の早期の再侵攻を予見したそなたの見識、見事である。それで、そなたに敵の迎撃を任せたいと思うのだが、どうか?」


 エルガン、つまりゾルタークの裏切りを見抜いたこと、人質の首を送りつけ戦わずして解放軍を撤退させたこと、さらに解放軍の早期の再侵攻を予測し的中させたこと。これらの功績をあげたスピノザに対する、サンディアスの信頼は厚いものとなっていた。


 それでサンディアスはその信頼するスピノザに、解放軍の迎撃を任せたいと思った。彼に任せれば、必ずや上手くいくと思ったからだ。しかしそこへ、「待った」をかける者が現れる。ブロガ伯爵であった。彼はいつもの、はるで貼り付けたかのような笑みを浮かべていた。


「お待ちください。そのお役目、ぜひこのブロガにお任せください」


「ブロガ伯爵か。ではモリードを総大将とするゆえ、伯爵も隷下の軍勢を率い、彼の指揮下で戦うが良い」


「いいえ、そのようにではなく! このブロガを総大将にお命じくださいませ」


 ブロガ伯爵がそのように述べると、サンディアスは不快げに眉をひそめた。


「このサンディアスの命が聞けぬというのか?」


 不機嫌なのを隠そうともしないサンディアスの声に、ブロガ伯爵は恭しく頭を垂れる。そして落ち着いた声でこう述べた。


「恐れながら、軍の指揮・編成はこれまでこのブロガが行ってまいりました。モリード殿の才気は疑いようもありませんが、しかし軍勢とは細部まで知り尽くしてこそ己が手足の如くに指揮できるもの。その点に関しては私に一日の長があると自負しております。


 加えて、モリード殿が総大将になられれば、編成なども変わってまいりましょう。しかし時間をかけすぎれば、敵軍がこの王都パルデースへ迫ってくるのを防ぐことができません。しかしその点このブロガならば、今すぐにでも軍を動かし敵の迎撃に向かうことができます。陛下におかれましては、どうぞご再考いただきたく……」


 ブロガ伯爵の述べる言葉を聞くと、サンディアスは即答することなくしばし考え込んだ。そこへ今度はスピノザが割り込む。


「失礼ですが、ブロガ伯爵はエルストロキアにお勝ちになることができるのですか?」


 ブロガ伯爵は圧倒的に有利なはずの追激戦で、しかしエルストにいいように翻弄され痛撃をくらい、多大な損害を出して撤退した。そんな彼に、今度は解放軍を正面から迎え撃ち、そして撃退することができるのか、はなはだ疑問である。スピノザはそう言った。


「あれは思いがけず敵に援軍が来たためのこと。心配は無用でござる」


 ブロガ伯爵はそう釈明したが、しかしスピノザは舌鋒を納めない。むしろ蛇のような笑みを浮かべながらさらにこう言った。


「聞くところによれば、敵に援軍が来るまでの間に、ブロガ伯爵は何度も戦端を開かれたとか。しかしそれでも殿を打ち破ることはできず、最終的には遁走してしまわれた。伯爵の軍事的才覚は、どうやらエルストロキアには及ばぬようではござらぬか?」


「なんと! このブロガを侮辱なさるか!?」


「さらに援軍が来たために負けたと仰るが、そうであれば次の迎撃の際にも、敵に援軍があれば負けるということ。そのような方に総大将を任せるわけにはいきませぬな」


「ぬう、言わせておけば!」


「止めよ!!」


 ブロガ伯爵が真っ赤な顔をして立ち上がり、腰間の剣を抜こうとしたところで、サンディアスが鋭く声を上げて二人を止めた。二人はしばしの間無言のまま睨み合っていたが、やがてブロガ伯爵の方が視線を逸らし、サンディアスの前で跪いて彼にこう言った。


「恐れながら陛下。敗戦の言い訳はいたしませぬ。ですが、どうかこのブロガめに汚名返上の機会を下さいますように。どうか今一度、伏してお願い申し上げます」


 サンディアスは数秒間、跪いたブロガ伯爵の後ろ頭を見ていたが、やがてため息を吐きながらこう言った。


「…………よかろう。ブロガ伯爵は15万の兵を率い、直ちに敵軍の迎撃に向かえ」


「おお! ありがたき幸せにございます。このブロガ、必ずやエルストロキアを討ち取ってご覧に入れましょう」


 サンディアスの命令に、ブロガ伯爵は大げさな歓声を上げて喜んだ。そんな彼を、スピノザは面白く無さそうに一瞥する。そしてこう言った。


「そのように大言壮語を述べられたからには、エルストロキアの首を取るまではパルデースに戻られることがありませぬように」


「そうだな。ブロガ伯爵、そのつもりで励むように」


「……無論でございます」


 先程とはうって変わり、不機嫌そうな声でブロガ伯爵はそう答えた。頭を下げる彼の顔には、いつもの貼り付けたような笑みは浮かんでいなかった。


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