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アルヴェスク年代記  作者: 新月 乙夜
転の章 薄氷の同盟
40/86

薄氷の同盟10

 ギルヴェルスの西の国境からその領内に侵攻した解放軍は、王都パルデースまであと3日というところにまで迫った。そんな彼らの目の前に、やがて軍勢が現れる。言うまでもなく敵であり、デレスタ子爵率いる第二迎撃軍であった。その数、およそ10万。


 この敵に対し、解放軍を率いるエルストはまったく脅威を感じていない。とはいえ、取るに足りぬ小物が偉大な勇者や英雄を殺した例は歴史上に数多くある。そのためエルストは相手を侮ることなく、念入りな偵察を行った。


「王太子殿下と懇意にしていた貴族が多い、か……」


 偵察の報告を聞き、バフレンはそう呟いた。第二迎撃軍は、ユーリアスと懇意にしていた貴族の領軍が主力となっていたのである。


「殿下の派閥の力を削ぐためでしょうか?」


 そう述べたのはラジェルグである。サンディアスにしてみれば敵同士を戦わせるわけで、そういう意味も確かにあるのだろう。だがエルストの考えは少し違う。彼はサンディアスらの内情を実に鋭く洞察していた。


(流言に惑わされ、慌てて予備戦力を回したか……)


 そう考えてエルストは薄く笑う。とはいえ、そのことをわざわざ指摘したりはしない。気付けるものだけが気付いていればよい。彼はそう思っていた。


「……義父上と懇意にされていた方々が多いのであれば、あるいは一手打てるやも知れませぬ」


 代わりに、エルストはそう発言した。それを聞いて、ラジェルグが眉をひそめる。そして不審げな声音を隠そうともせずこう言った。


「まさか、調略でもしようと言うのですか?」


 それは、無理であろう。ラジェルグはそう言いたげだった。実際、軍勢の中に懇意にしていた貴族その人がいるわけではない。むしろその者は王都パルデースの王城に捕らわれている。だからこそ、その領軍がいま目の前に敵としているのだ。寝返れば主が殺されるのは目に見えており、そのため調略に応じることはありえない。


 エルストもそれは承知している。そのため調略しようなどとは彼も思っていない。むしろ彼の考えた策略は、もっと単純なものだった。次のような内容の文を、ユーリアスの名前でそれぞれの領軍に届けさせたのである。もともとユーリアスと懇意にしていたこともあり、文を届けるだけならば簡単だった。


 曰く「解放軍の狙いは総司令官のデレスタ子爵の首だけである。方々におかれては本気で戦うことなく、むしろすぐに後退して欲しい。我々はその後を追いはしない。簒奪者サンディアスのために、命を賭ける必要はない」


 無論、この文はデレスタ子爵のもとには届けられていない。


 この文に対し、明確に「その通りにする」と返答した領軍の主将はいなかった。とはいえ感触として良好であったことを聞くと、エルストは満足げに頷いた。その様子をラジェルグはやはり不満げに一瞥する。本人が了承しているとはいえ、エルストがユーリアスの名前を使ったことが気にくわないのだ。


 さて相対したその次の日の朝、両軍は日の出と共にそれぞれ前進を開始した。解放軍の先頭を往くのは、バフレン将軍率いるギルヴェルスの精兵3万。これはユーリアスやバフレン将軍がというよりも、むしろラジェルグ将軍がそう望んだ結果だった。


 手柄が欲しい、という彼の思惑は見え透いている。エルストの影響力をなんとか弱めたいのであろう。とはいえ、軍の先頭に精鋭を置くことは戦術の定石にもかなっている。それでエルストはこれを容れた。


 ただし、ユーリアス本人はその後方、解放軍のほぼ真ん中にエルストと共にいた。万が一にも、彼が討ち取られることのないためである。二人を守るのはアルクリーフ領軍の屈強な兵士たちである。


 ちなみに、エルストは解放軍全体の指揮を執っているため、アルクリーフ領軍を指揮しているのは彼とは別の人物であった。アルクリーフ領軍の主将はイシュテリス将軍といい、アザリアスの内乱以前からエルストを軍事面で支える良将である。


 エルストが解放軍の兵士たちに下した命令は単純明快である。曰く「敵総大将デレスタ子爵を討つべし。逃げる兵は追わずとも良い」。


 デレスタ子爵の居場所を、エルストはすでに掴んでいた。なにしろ堂々と旗を掲げていてくれたおかげで、大いに分かりやすかったのだ。


 デレスタ子爵が陣取っているのは第二迎撃軍の一番後方である。直属の戦力はおよそ1万。総大将直属の部隊としては数が少なすぎるといえるだろう。とはいえ、子爵が動員できる戦力としては平均的である。


 最後尾に陣取ったことについて、督戦隊のつもりかもしれぬとエルストは思っている。しかし、そう見せかけてただ恐れて後ろに引っ込んだだけかもしれない。それで、深く考えても仕方がない、というのが彼の下した結論だった。


「敵を蹴散らし、大将首を取る」


 今はただ、そのことだけに集中すればよい。エルストはそう考えて頭の中から余計な思考をはじき出し、意識を決戦に集中すると全軍に攻撃を命じた。


 エルストは複雑な戦術を弄することはしなかった。彼はただ、ギルヴェルスの精兵を先頭にした上で全軍に前進を命じたのである。


 ラジェルグ将軍は全軍の先頭にあって勇猛に戦った。その彼に率いられた、ギルヴェルス兵たちの士気は高い。アルヴェスクの兵たちもその後に続く。解放軍は勢いを衰えさせることなく、第二迎撃軍の陣容を切り裂くようにして突撃を続けた。彼らが目指すのは無論、総大将であるデレスタ子爵のいる本陣である。


「婿殿の策は上手くいったようだね」


「なあに、サンディアスめに人望がなかっただけでしょう。自慢するようなことでもありませんよ」


 エルストは半ば以上本心でそう言った。この快進撃、というよりも敵の脆さは、エルストにとって予想通りであり、また予想外でもあった。


 敵が脆いのは、言うまでもなくエルストが事前に届けさせた手紙のおかげである。戦では逃げるときに最も被害が出る。しかしエルストは手紙の中で「逃げれば追わぬ」と約束した。そのため解放軍が手強いことを見せれば、ユーリアスに恩を売ることも兼ねて比較的簡単に兵を退くであろう。エルストはそう予測していたし、またその通りになった。


 しかしその決断の速さは、エルストにとっても予想外だった。最初にぶつかった時以外、まともな戦闘は行われていない。そのため軍勢同士が大きく動く派手な戦にしては、地面に転がる死体の数が異様なまでに少なかった。


(サンディアスは当然としても、デレスタ子爵とやらにも人望はなかったか)


 少々意地悪く、エルストはそう思った。ここで、ユーリアスには人望があると考えないのが、彼の人格の捻くれたところかもしれない。


 とはいえ、第二迎撃軍の総司令官であるデレスタ子爵に人望がないのは事実だろう。いや人望がないというより、彼は疎まれ嫉まれているのだ。


『子爵ごときが総司令官などとふんぞり返りおって!』


 第二迎撃軍の部隊指揮官、特に伯爵以上の爵位を持つ家に仕えている将軍などは、そう思う気持ちが強い。サンディアスのこともあり、彼らにしてみればデレスタ子爵の命令と指揮の下でなど、本当は戦いたくないないのだ。


 しかし戦わなければ王城で人質になっている主君が殺されてしまう。だから申し訳程度に戦って、すぐさま敗走という形で後退する。約束通り、エルストは彼らの背中を襲うことはせず、黙って見逃した。そのため、第二迎撃軍は加速度的に崩壊していった。


「腰抜け共が! 矢を射掛けろ!!」


 第二迎撃軍が総崩れとなると、総司令官であるデレスタ子爵は怒った。彼は決して歴戦の将ではなかったが、しかしその彼から見ても味方が懸命に戦っているようには見えない。それで「命がけで戦え」と脅すため、彼は後退する味方に矢を射掛けさせた。そもそもこの“味方”は潜在的な敵であり、そのため彼の命令に躊躇はなかった。


 これで、決定的にデレスタ子爵から人心が離れた。彼が味方に矢を射掛けさせたことに、それぞれ領軍の主将たちは激怒したのである。


「味方を殺す総司令官がいるか!!」


 彼らはそう苦々しく吐き捨てた。とはいえ、主人を人質に取られている。そのまま逆上してデレスタ子爵のいる本陣に襲い掛かるわけにはいかない。それで彼らはこの裏切り者の始末を別の者たちに任せた。言うまでもなく、解放軍のことである。


 まるで水が退くかのように、解放軍の目の前で敵兵が左右に分かれて一本道を作った。解放軍の穂先から逃れるためという名目であろうが、その実彼らをデレスタ子爵のもとへ誘導することが目的であるのは一目瞭然だった。


「あれこそが敵本陣! 謀反人の首を取るぞ! 我に続け!」


 ラジェルグ将軍はデレスタ子爵の旗を見つけると大声を張り上げてそう叫んだ。戦の推移は順調で、兵の士気は高くまた損害は軽微である。その理想的と言える状態の兵を率い、ラジェルグ将軍はデレスタ子爵のいる敵本陣に襲い掛かった。


 突撃してくる解放軍の先鋒部隊を、デレスタ子爵の直属部隊は盾を構え、槍を揃えて迎え撃った。さすがにすぐさま逃げ出すことはしない。檄を飛ばす主将の命令に従って、兵士たちは懸命に戦った。


 しかし、勢いとなにより数が違いすぎる。なにしろ解放軍は全軍で15万、先鋒部隊だけでも3万もの兵がいるのだ。それに対しデレスタ子爵の直属部隊は1万程度。数の差は圧倒的で、そのためデレスタ子爵の直属部隊は押され始めた。


「何をしているか!? 押し返せ!!」


 圧倒的に不利な状況でありながら、しかしデレスタ子爵は撤退しなかった。出来なかったわけではない。彼はあえて撤退せず、戦闘を継続したのである。


 彼が撤退しなかった最大の理由は、やはりここで手柄が欲しかったからであろう。ここで撤退してしまえば、仮に解放軍ともう一戦する機会があったとしても、そのとき迎撃軍を率いるのはデレスタ子爵ではなくブロガ伯爵になるだろう。


 そのときに勝利を収めたとしても、最大の手柄はブロガ伯爵のものとなる。となれば、二人の力関係は歴然としたものとなり、何かにつけてブロガ伯爵の意見や意向が尊重されまた重要視されるだろう。


 デレスタ子爵とブロガ伯爵は、二人とも古くからサンディアスの側についていた。最近ではエルガンやモリードなどという輩も加わったが、最古参は間違いなくこの二人である。ただ、これまでの力関係においてもやはりブロガ伯爵の方が有利だった。それなのに、このままではデレスタ子爵はこの先もずっとブロガ伯爵の後塵を拝することになる。


 サンディアスは下克上を実現させた。ならば自分もブロガ伯爵を追い抜いてやりたい。デレスタ子爵は意気込んでいた。だがこの場で撤退しては、それはかなわない。それゆえ、彼はここで退くわけにはいかなかった。


「我が隊で敵軍を押し止める! その間に敵を包囲して殲滅しろ!!」


 デレスタ子爵は第二迎撃軍のそれぞれの部隊に対してそのような命令を下した。この時の彼の頭の中にあったのは、最近耳にしたカルノー・ヨセク・ロト・オスカー子爵の武功ことだった。


 アルヴェスク軍によるメルーフィス遠征。その趨勢を決したグレイマス会戦において、カルノーはわずか1万程度の兵を率いて19万という大軍の前に立ち塞がった。撤退、いや敗走してくる味方を後方に逃がし、そして再編するための時間を稼ぐためである。そして彼のその奮戦が、最終的にアルヴェスク軍の逆転勝利に繋がったことはすでに周知の事実である。


 デレスタ子爵はこの時のカルノーを今の自分に重ねていた。自らが奮戦し、そして逆転勝利を手繰り寄せる。成功すれば、その勲功は輝かしいものとなるだろう。ブロガ伯爵の鼻を明かすことも可能に違いない。


(オスカー子爵に出来て、同じ子爵であるこの俺に出来ぬ道理はない!)


 デレスタ子爵は自分にそう言い聞かせながら懸命に指揮を行った。しかし彼の直属部隊は敵軍を押し止めることができない。なぜなら彼のこの場合、カルノーのときとは事情が違うからだ。


 カルノーは最初からグレイマス会戦が厳しい戦いになるだろうと予測していた。そのため、重厚な陣を築いて敵軍を迎え撃ったのである。


 しかし、今のデレスタ子爵にはそのような準備をする時間はなかった。彼は防御陣を構えることなく、ただ隷下の兵のみを頼りにして敵軍を迎え撃った。そのため、戦況には数の差が露骨に表れている。


 さらに、カルノーにはすぐさま味方の助けがあった。だがここにはデレスタ子爵を助けようという部隊はない。誰も彼も命令を無視して戦場から逃げ出してしまっている。いや彼らはむしろ、デレスタ子爵を積極的に見捨てた。彼らにしてみれば、ここまでやっておいてデレスタ子爵に生き残ってもらうわけにはいかなかったのである。


 デレスタ子爵は大声を上げて彼らを罵り懲罰をくれてやると誓うが、しかし目の前に敵がいる状況でそれ以上のことはできない。趨勢の天秤はすでに解放軍の側に傾ききっており、彼自身もそれを肌で感じていた。


「くぅぅ……!!」


 忌々しげに歯を食いしばり、馬の手綱を握り締めながらデレスタ子爵は唸った。しかし唸っても戦況は好転しない。やがて彼自身も命の危険を感じ始め、その瞬間、胃が締め付けられるような恐怖を感じた。


「撤退! 撤退だ!!」


 ついにデレスタ子爵は撤退を命令した。だがその命令は遅すぎたと言わざるを得ない。撤退の命令が出ると、兵士たちは我先にと逃げ出した。そのせいで隊列は乱れ、むしろ全体の撤退には悪影響がでた。


 兵士たちを責めることはできないだろう。絶望的な劣勢の中、むしろ彼らはよく踏みとどまっていたと褒められるべきである。だから撤退の命令が出た途端に戦線が崩壊し、損害が加速度的に大きくなっていったその責任は、戦局を見誤ったデレスタ子爵に帰されるべきである。


 デレスタ子爵は自分の命でその責任を取ることになった。


 デレスタ子爵は組織的な撤退がもはや不可能であることを悟ると、馬首をめぐらし単騎でその場から駆け出した。死ぬかもしれないという恐怖が彼にそうさせた。しかし死神の大鎌はすでに彼の首にかけられていた。


「デレスタ子爵! 簒奪者に与し、この期に及んでどこへ落ち延びようというのだ!?」


 逃げるデレスタ子爵の背中を、解放軍の先鋒部隊が追う。その先頭にいるのはラジェルグ将軍だ。彼はデレスタ子爵に後ろから追いすがり、そして無防備なその背中目掛けて槍を投擲する。投げられた槍は一直線に飛んで彼の背中に突き刺さり、さらに貫通してその身体を刺し通した。


「がっ……、はっ……!?」


 デレスタ子爵の口から、血と共に声がもれる。いや、声と言うよりもただ空気がもれただけなのかもしれない。そして一瞬遅れて彼の身体は力を失い、滑り落ちるようにして馬の背から落ちた。


 立ち上がる力などありはしなかった。仮に立ち上がれたとしても、何の意味もなかったに違いない。地面に倒れたデレスタ子爵は、自分が段々と死んでいくのを感じていた。やがてその意識も遠のいていく。伸ばされた手は、しかし何も掴むことはなく、やがて力を失った。


 こうして第二迎撃軍総司令官のデレスタ子爵は死んだ。戦いの趨勢自体は随分前から決していたが、ともかく彼の死を持って組織的な反抗はなくなり、解放軍の勝利が決したのである。


 解放軍の勝利と第二迎撃軍の敗北、そしてデレスタ子爵の戦死はすぐさま王都パルデースにいるサンディアスにも知らされた。その報告を聞くと彼は言葉と顔色を失い、そしてわなわなと震えたかと思うと、奇声を上げながら手当たり次第に暴れまわった。


「出て行け! 全員この部屋から出て行けっ!! 誰も中に入れるな!」


 サンディアスはそう叫び、まるで邪魔者を追い払うかのように室内にいた人々を外に追い出した。傍に侍らされていた令嬢たちも同様であり、中にはあられもない姿で廊下に放り出された娘もいた。


 敗走した第二迎撃軍のうち、パルデースに戻ってきた部隊はほとんどなく、彼らはそのままいずこへか離散してしまった。10万の戦力が全て消えてしまったのである。そのため今のサンディアスのもとにはほとんど戦力がない。その心もとなさが、彼の恐怖を増大させる。


(どうすればいい……。一体、どうすれば……?)


 酒精で鈍った頭を必死に働かせ、サンディアスはこの状況をどう打開すればいいのかを考える。人質を、ユーリアスの妻子を殺すという手を思いついたが、彼はすぐにそれを打ち消した。この状況で人質を殺すことが悪手であることは、彼の頭でもすぐに分かった。しかしそれ以外となると、すぐに思いつくものはない。


 そうこうしている内に、ユーリアスからの書状が届けられた。そこにはこのようなことが記されていた。


 曰く「我が妻子を解放し、王都パルデースを明け渡せ。そうすれば命だけは助けてやろう」。


 命だけは助けてやるというユーリアスの言葉を、しかしサンディアスは信じることができなかった。確かに今このときだけは命を助けてくれるかもしれない。しかし、数年後には暗殺されているのではないか。少なくとも自分ならばそうする。そう思うとこの要求に応じることはできそうになかった。


「今は返答を延ばして時間を稼ぎましょう。もうすぐブロガ伯爵らも戻ってまいります」


 ゾルタークはそう言って、基本的にサンディアスの方針に賛成した。さらに彼がブロガ伯爵の名前を出したことで、サンディアスも幾ばくかの落ち着きを取り戻す。まだ戦力が残っていたのだという事を思い出したのだ。


 ブロガ伯爵の隷下にいる第一迎撃軍の戦力はおよそ15万。解放軍とほぼ同数だ。さらに堅牢な城壁を持つ王都パルデースに入れば、さらに有利に戦うことができるだろう。


 だが彼らは、今この時点では王都にはまだいない。恐らくは数日中のうちに戻ってくるとは思うが、しかし解放軍が来るのとどちらが早いか。


(いっそ……)


 いっそ、自分から動いて第一迎撃軍と合流しようか。サンディアスはそうも考えた。軍勢の中に飛び込んでしまえば、それが一番安全であるように思う。


 しかしそれではパルデースが空になってしまう。サンディアスがいなくなれば、王城に捕らえている貴族たちに王都を奪取されてしまうかも知れない。


 しかもそこにユーリアス率いる解放軍が入ってしまえば、サンディアスらは帰る場所を失う。拠点となる場所は他にもあるが、しかし王都を失いさらに拘束していた貴族たちを解放されれば、今の力関係などあっという間に引っくり返ってしまうだろう。そのとき彼が玉璽を握っていようとも、そんなものはもう無意味になっている。


(パルデースだけは抑えておかなければ……)


 結局、サンディアスは王都でブロガ伯爵らを待つことにした。だがそれは同時に、いつ解放軍がくるのかと言う恐怖と戦うということでもある。その精神的な戦いは、サンディアスを大いに疲弊させることとなった。


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