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アルヴェスク年代記  作者: 新月 乙夜
転の章 薄氷の同盟
37/86

薄氷の同盟7

 季節は春から初夏へと移ろう頃。ギルヴェルス王国の社交界で最も華やかな季節を楽しもうと王都パルデースに集まっていた貴族たちを、サンディアスは一網打尽にする形で捕らえて王城に監禁した。さらに父王トロワヌス3世を格殺(かくさつ)して玉璽(ぎょくじ)を奪い、ついにサンディアスは王権をその手に掴んだのである。


「おめでとうございます、殿下。いや、もう陛下とお呼びしなければなりませんなぁ」


 玉座に座るサンディアスに、ゾルタークやスピノザ、それにブロガ伯爵やデレスタ子爵といった、主だった家臣たちが祝福の言葉をかける。それらの言葉を聞いて、サンディアスは鷹揚(おうよう)に頷く。そしてそれから顔を引き締めて厳しい表情を作り、口調を重々しくしながらこう言った。


「皆のもの、大義である。しかしこれで全てが終わったわけではない。最後の大仕事が残っている」


 すなわち、王太子ユーリアスの討伐である。彼が生きている限りサンディアスの治世は定まらないし、また貴族たちの大部分も彼を王とは認めないだろう。ユーリアスの首が地に落ちてはじめて、サンディアスの治世は磐石なものとなるのである。


「クシュベガの略奪隊のほうはどうだ?」


「こちらの指示通りの地点に集結している模様です。討伐軍のほうも、それを掴んでいることでしょう」


 その報告にサンディアスは大きく頷いた。これで討伐軍の位置と動きを容易に予測することができる。後はその背後を襲うだけだ。


「明朝、パルデースから出撃して討伐軍を討つ。各々の奮戦に期待する」


 その言葉通り、サンディアスは次の日の朝、軍勢を率いてパルデースを発った。その数、およそ3万5000。王旗、つまり王が掲げる旗を風にたなびかせての出陣である。ただし、主力となっているのはブロガ伯爵とデレスタ子爵の軍勢であり、サンディアスが連れて行った直属の戦力はたったの5000だった。


(手柄を譲ったと見るべきか、それとも直属の戦力の損耗を嫌ったと見るべきか、あるいは協力者ではあっても心の底からは信頼していないと見るべきか……)


 王都の留守居役を命じられたゾルタークは、苦笑と共にそんなことを考えた。


 前述したとおり、サンディアスの軍勢の主力はブロガ伯爵とデレスタ子爵の軍勢である。敵の背後を突く極めて有利な戦いであることを合わせて考えると、彼らに主要な手柄を譲ったとも考えられる。


 しかしその一方で、万単位の兵が戦う大きな戦に際し、自らの直属の戦力の大部分を王都に残したのである。自分の戦力が削られるのを嫌ったと思われても仕方がない。


 さらに王都にブロガ伯爵とデレスタ子爵の軍勢を残さなかったことから、サンディアスがこれら二人の協力者のことを、心のどこかではやはり警戒していることが伺える。最も重要な拠点である王都は、どうしても自分の手で確保しておきたい。サンディアスはそのように思っているのだろうと、ゾルタークは予想していた。


(まあ、よい……)


 サンディアスにあまり巧く立ち回られてしまうと、その方がゾルタークとしては困ってしまう。彼にはそこそこ愚かでいてもらった方が、ゾルタークとしては都合が良い。そしてその点に関して、彼は自分の人を見る目にそれなりの自信があった。


 さて、一方ユーリアスの側である。彼らはクシュベガの略奪隊が一箇所に集結し始めたのを知り、その討伐の準備を進めていた。そんな彼らのもとに、凶報がもたらされる。曰く「王都にブロガ伯爵とデレスタ子爵の軍勢、合わせておよそ3万が現れた」という。


 これは王都の中にいた者からの情報ではなく、王都の外にいたバフレン将軍の部下からもたらされた情報である。そのため王都内部の様子は分からないが、しかし何かしらの非常事態が起こっていることは推測できた。


 さらに凶報は続く。サンディアスが軍勢を率い、南下してくるという。彼は王旗を掲げており、ことここに至り非常事態は疑いようがなくなった。


「サンディアス殿下が、王座を狙って決起されたのでしょう」


 バフレン将軍がそう述べると、ユーリアスは苦しげな表情で頷いた。しかもサンディアスが王旗を掲げているということは、パルデースは彼の手に落ちたと見ていい。


「では、父上や家族は……」


「捕らえられたか、あるいは……」


 殺されたか。いずれにせよ無事ではあるまい。その結論にいたり、ユーリアスはますます苦しげな顔をした。


「私が、投降すれば……」


 ユーリアスが投降すれば、まず間違いなく彼の命はない。それは彼にも分かっている。しかし自分が投降すれば家族の命は助かるのではないか。ユーリアスはそう思ったが、しかしその考えをバフレン将軍は否定した。


「そのようなことを仰ってはなりません、殿下」


 ユーリアスが投降しても、彼の家族は助からない。特に長男であるトレイズなどは間違いなく殺されるだろう。


「ご家族を助けたいのであれば、アルヴェスク皇国へと向かうべきです」


 アルヴェスク皇国の大貴族であるアルクリーフ公爵家には、ユーリアスの長女であるアンネローゼが嫁いでいる。助力を乞えば、力を貸してくれるだろう。そうやってうかつに手を出せないだけの戦力を整えれば、ユーリアスの家族には人質としての価値が出てくる。そうすればサンディアスも簡単にユーリアスの家族を殺すことはできなくなるだろう。そうやってようやく家族を助けることができる、とバフレン将軍は進言した。


「……分かった。将軍の言うとおりにしよう」


 苦悩の表情を浮かべながら、ユーリアスはそう決断した。そうと決まればすぐに動かなければならない。ユーリアスとバフレン将軍は北と南を気にしつつ、進路を西へと取った。この動きはサンディアスにとって予想外であり、そのためユーリアスらは襲撃を受けることなくアルヴェスクとの国境を越えることができた。


 驚嘆すべきことに、ユーリアス配下の軍勢は全くと言っていいほど落伍者を出さなかった。これが寄せ集めた普通の軍勢であれば、隣国へと落ち延びていく彼を見限り、多くの兵が夜陰に乗じて離散したであろう。しかし彼が率いていたのはギルヴェルス王国における最精鋭と言っていい部隊。実力もさることながら、正統な王位継承者であるユーリアスへの忠誠心が強く、それが落伍者を出さなかった要因の一つだった。


 そのおかげで、ユーリアスはギルヴェルスの精鋭部隊を丸ごと抱えたままアルヴェスクに入ることができた。とはいえ、それでも十分な戦力には程遠い。それでまず、彼はこの国で援軍を募ることになる。その第一候補となるのは、言うまでもなくアルクリーフ公爵家だった。


「ちっ……! 逃げ足の素早いことだ……!」


 ユーリアスを取り逃がしたサンディアスは、忌々しげにそう舌打ちをした。取り逃がすこと自体は想定もしていたが、一戦もせずに逃がしてしまうことはさすがに考えていなかった。


 とはいえ、このままアルヴェスク皇国の領内に押し入ることはできない。アルヴェスクと一戦構えることはやぶさかではないが、しかしそのためにはまだ準備が足りない。サンディアスは仕方なく、軍勢を率いて王都へ戻った。


「さてどうする?」


 間違いなく、ユーリアスはアルヴェスクの援軍を率いて舞い戻ってくるだろう。彼の家族を人質に撤退を迫ってもいいが、しかしそれではいつまで発っても決着が付かない。実効支配を強める時間は稼げるだろうが、ユーリアスの首はいつまで経ってもとれない。それでは後顧の憂いを残すことになる。


「やはり、一戦するしかありませんな」


 ゾルタークのその言葉に、サンディアスは頷いた。確かに一戦して勝って見せなければ、彼らは強気な態度を崩すまい。


 アルヴェスクがギルヴェルスに出兵するとなれば、その際の主力となるのは北部の貴族や代官たちの軍勢だろう。そうなるとその中心となるのは、まず間違いなく皇国の北部に強い影響力を持つアルクリーフ公爵、すなわちエルストロキアである。旗頭となるのはユーリアスだろうが、しかし実質的な指揮権を握るのはエルストであろう。指揮権とまではいかずとも、彼がその軍勢の中で強い発言力を持つことは間違いない。


「そこまで予測できるのであれば、何か仕掛けたいですな……」


 そう発言したのはブロガ伯爵だった。できることなれば戦う前に敵の力を()いでおきたい。つまり、何かしらの謀略を仕掛けるということだ。同じ兵を率いていても、将官が異なるだけで、また内部が一枚岩となっていないだけで、発揮される力というのは大きく差がついてくるものなのだ。


「恐れながら、良き策がございます」


「モリードか。許す、申してみよ。その策とはなんだ?」


 サンディアスにそう尋ねられ、モリード、すなわちスピノザは自信に満ちた様子で己の策を語った。


「反間の計にございます」


 スピノザは言う。最も警戒するべき事態は何か。それはエルストがアルヴェスクの軍勢を率い、ユーリアスと共にギルヴェルスに侵攻してくることである。エルストとユーリアスは義理の親子。反目し合うことはないであろう。そしてエルストは皇国北方の盟主。彼が軍勢を率いれば、アルヴェスクの兵たちはユーリアスの為であろうとも一丸となって戦うに違いない。これは難敵である。


「そこでこう噂を流すのです。『エルストロキアは皇位を狙っている。彼に軍勢を与えれば、瞬く間に彼は簒奪者となるであろう』と」


 アルヴェスク皇国の摂政ライシュハルトは、国内の最有力貴族であるアルクリーフ公爵エルストロキアを警戒している。そこへこのような噂が流れれば、ライシュはエルストに軍勢を率いさせるようなことはしないであろう。


 エルストが軍勢の中にいなければどうなるのか。その場合、アルヴェスクの軍勢を率いるのは、ライシュハルトに任じられた司令官である。その司令官はユーリアスと意思の疎通を図ることができるであろうか。出来たとしても、彼がまず考えるのはアルヴェスクの利益である。必ずしもユーリアスの意思を尊重するわけではなく、両者が反目することもあるだろう。その時、ギルヴェルス軍とアルヴェスク軍の間にひびが入り、彼らは一枚岩ではなくなるのだ。


 また、エルスト以外の者に好き勝手な命令をされたとき、北方の貴族や代官らはどう思うだろうか。その命令を疎ましく思うのではないだろうか。つまり、アルヴェスク軍の内部にも亀裂を入れることができるのだ。


「このように内部で分裂している敵を打ち破るのは容易なことです。またそうして一度勝てば、アルヴェスクもそれ以上ユーリアスに手を貸すことはしないでしょう。そのときこそ、陛下の御世は固く立つのでございます」


 スピノザは滑らかにそう語った。サンディアスはその語り口に圧倒されそうになりながらも、どうにか威厳を保って重々しく頷く。しかしそこへ疑問の声が響いた。デレスタ子爵である。


「しかし、そう上手くいくでしょうか?」


 スピノザの言うとおり、ユーリアスとエルストは義理の親子である。父が助けを求めてきたというのに、子が率先して動かないとなれば、それは世の道理に合わぬ。兵の士気は下がり、軍を動かす前から勝利はおぼつかなくなる。そのようなことを、ライシュハルトはするであろうか。


「敵は猿ではありませぬ。都合のよい憶測ばかり並べ立てていては、机の上でしか勝利を収めることはできません」


 デレスタ子爵はそう言う。それを聞いてスピノザは忌々しげな顔をする。両者の間で視線がこすれ、不可視の火花が散った。サンディアスの側に付いた者たちの間では、すでに主導権争いが始まっているのである。


「なに。要するに、エルストロキアが軍勢の司令官とならなければよいのです」


 二人の険悪な雰囲気を振り払うように、ゾルタークは明るい調子でそう言った。


 仮にエルストが軍勢に加わったとしても、司令官とならなければ、派遣されてきた司令官と対立することは目に見えている。北方の貴族や代官たちはエルスト寄りの態度を取るであろうから、その時アルヴェスク軍内部の対立はいよいよ深刻になっていく。それはサンディアスの側からしてみれば、非常に好ましい状況である。


「中央、特に近衛軍から司令官が派遣されるのは、アルヴェスクではよくあることです。そこへモリード殿の噂が聞こえてくれば、我々の望む状況へ誘導するのは、そう難しいことではないはず」


 ゾルタークはそう言った。それを聞いて、デレスタ子爵も「……なるほど」と一応のン納得を見せた。それを見て、ゾルタークは内心でほくそ笑む。


 彼にしてみれば、ギルヴェルスの玉座に座るのがユーリアスでは意味がないのだ。よって、彼には失敗してもらいたい。またライシュがエルストを警戒しているのも事実であるから、彼に手柄を立てさせるのも避けた方がよい。また皇国北部の戦力が中心となって失敗すれば、それはアルクリーフ公爵家の力を殺ぐことにもつながる。


(一度失敗させ、摂政殿下が主導する二度目で成功させる。これでギルヴェルスの版図はアルヴェスクの一部になるであろうよ……)


 その未来を想像して頬が緩むのを、ゾルタークはなんとか制した。


「他に案はないな? では、モリードの言うとおりにせよ」


 サンディアスはそう決めた。それを聞いて、スピノザは満足げな笑みを浮かべる。自らの策士ぶりに酔っていたのかもしれない。しかし彼を超える策士が、アルヴェスク皇国にはいたのである。


 ギルヴェルスの軍勢が国境に現れ、しかもその司令官がユーリアスであることはエルストの耳にも入った。ただならぬ事態であることを察知したエルストは、ライシュに願い出て許可を取ると、すぐさま義父のもとへ向かった。


「……そうでしたか。大変な目に遭われましたな」


 ユーリアスからおおよその事情を聞くと、エルストは義父にそう言って同情した。


「情けない話ではあるが、どうか力を貸していただきたい、婿殿」


「もちろんです。摂政殿下も義父上の願いを無下にはされないでしょう。無論、私からも口添えをいたしましょう」


 そう力強く請け負って、エルストは義父を励ました。そして彼とその配下の兵士達のために温かい食事とワインを用意させる。特に兵士たちは粗末な食事でここまで来ており、この食事をことのほか喜んだ。


「…………それでお国のことですが、特にサンディアスの周辺で何か変わったことはありませんでしたか?」


 食事の最中、エルストはユーリアスにそう尋ねた。サンディアスはこれまで日陰者の第五王子だったわけだが、それにしては此度のこの行動は大胆である。彼にそうさせた何かしらの要因があるのでは、とエルストは思っていた。


「変わったことか……。そういえば、最近二人の男を新たに家臣にして傍に置いていたよ。確か、エルガンとモリードと言ったかな。ただ……」


「ただ?」


「私の勘違いかもしれないが、モリードと名乗っていた男は、どうもスピノザ卿ではないかと思うんだ」


 ユーリアスはフロイトスの戴冠式とその披露宴に出席したことがある。その席で彼はスピノザの顔を見ており、また短いながらも挨拶を交わしている。そのためモリードと名乗った男がスピノザと瓜二つであることはすぐに気がついた。


「双子、ではないでしょうな。聞いたことがありませんし」


 それよりは、偽名を使ってサンディアスに仕官したと考える方がよほど現実的だ。サンディアスであれば、スピノザに新たな名前とギルヴェルスにおける適当な身分を与えることくらい、難しいことではなかったはずだ。そしてエルストのその考えに、ユーリアスも頷いて同意した。


(しかし……、思った以上に踊ってくれるな……)


 スピノザがサンディアスの下にいる。思いがけないその情報に、エルストは内心でほくそ笑んだ。スピノザがカルノーに私戦を仕掛けたあの時、いずれ騒ぎを起こすことを期待して彼を見逃したが、こうも早くその効果が現れてくるとは思っていなかった。うれしい誤算、と言うべきであろう。


 エルストの頭脳は忙しく回転を始める。これより先、どう動くべきか。どうすれば己が野心を達成できるのか。それを彼は考える。


 その夜、エルストは馴染みの北方貴族や代官たちに手紙を書いた。そこにはギルヴェルスでの騒乱について簡単に説明した上で、このように記されていた。


 曰く「摂政殿下より兵を集めるよう指示された場合には、速やかにこれに応じることが出来るよう、今のうちから準備をしておいてもらいたい」


 事実上、「兵を集めるように」という命令である。このとき、エルストの目には一体何手先が見えていたのであろうか。後の歴史家たちは、大いに想像を掻き立てられている。


 そして次の日、エルストは手紙を部下たちに託すと、自身はユーリアスを伴って皇都アルヴェーシスへ向う。摂政ライシュハルトに事の次第を説明し、ユーリアスのために援軍を求めるためである。


「アンネローゼとアンジェリカに会って行かれますか?」


「……いや、フレイヤと子供たちを助けてからにしよう。今は時間が惜しい。それに、今はとてもではないが情けなくて会えないよ」


 ユーリアスは弱々しい笑みを浮かべながらそう言った。時間が惜しいという彼の言葉通り、一行は馬を疾駆させて急ぎ皇都へと向かった。


「……委細承知いたしました。ユーリアス殿下のために援軍を用意しましょう」


「ありがとうございます、ライシュハルト殿下。このご恩は必ずやお返しいたします」


 ユーリアスとエルストから一連の事情を聞いたライシュは、その場で援軍を出すと決めた。彼のその言葉に、ユーリアスは安堵した様子を見せる。そんな彼の横から、エルストが発言を求める。彼の目には、鋭い光が宿っていた。


「恐れながら、摂政殿下に申し上げたきことがございます」


「なんだ、申してみよ」


「はっ。どうやら簒奪者サンディアスのもとには、あのスピノザが転がり込んでいるようでございます」


 それを聞くと、ライシュは「ほう」と面白がるような声を出す。妙なところに妙な人物がいるものだ、と彼は思った。


「それで、彼奴めが言い出しそうな策に、一つ心当たりがございます」


「それは?」


「反間の計にございます。私に軍勢を預ければ、必ずや摂政殿下に仇なすとの噂が、いずれどこぞより聞こえてくることでございましょう」


 そしてその意図についてエルストは明快に説明した。その内容はスピノザやゾルタークがサンディアスに説明したものとほぼ同じであった。


 実のところ、エルストが自分に対抗してくる未来を、ライシュは誰に言われずとも予感していた。しかし、それを当のエルストが目の前で指摘して見せたのだ。反応如何によっては、二人の間に間隙があると周りの人々は判断するであろう。ライシュは今、主君としての器量を試されていた。


「ロキは私の賢明な友人である」


 すぐさまライシュはそう言い切った。そう言うしかなかった、とも言える。なによりこの親友にして最大の好敵手であるエルストに、己の器量を見くびられるなど、到底受け入れられないことであった。


「アルヴェスク皇国は、ギルヴェルス王国の王太子にして正統な王位継承者であるユーリアス殿下を、軍勢を持って助ける。そしてエルストロキア・レダス・ロト・アルクリーフをその軍勢の総司令官に任ずる。エルストロキアよ、そなたの義父を助け、見事簒奪者を討ち取って見せよ」


 勅命は下された。事態はもう、後戻りできないところまで進んだのである。


「ははっ」


 エルストは短くそう答え、頭を垂れた。彼の目に輝く危険な光に、ライシュは無論、気付いていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] アッシュクラウンの更新待ちで本作を読み始めたのですが、"危険な光を目に宿した"のが確かな実力者(ロキ)なのを初めて見た気がします
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