表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルヴェスク年代記  作者: 新月 乙夜
転の章 薄氷の同盟
35/86

薄氷の同盟5

 アルヴェスク皇国による久々の対外遠征であったメルーフィス遠征は、大成功のうちに幕を閉じたといっていい。かの地は完全に併合され、皇国の版図は元の344州にメルーフィス王国の54州を合わせて398州となった。空前の巨大な版図であったが、ライシュハルトにしてみればこれはまだ通過点に過ぎない。さらなる版図の拡大が、少なくとも彼の中では確定していた。


 併合したメルーフィス領が落ち着くと、ライシュは皇都アルヴェーシスへ帰還した。メルーフィス領にはいずれ総督を置くつもりであったが、今はまだその人選が終わっていないと言う理由でライシュはそこに自分の代理を残すに止めた。


 皇都へ戻ったライシュは遠征の戦功褒賞を行った。宝物、金銭、勲章、新たな役職、貴族であれば国へ納める税の免減、昇爵などが褒賞として与えられた。新たな領地を与えられた貴族はいなかった。これによってライシュはメルーフィス領をまずは自分の手で強く監督する姿勢を打ち出したのである。


 ただし、直接的な形で新たな領地を得た貴族がいなかっただけで、いわば間接的な形で領地を得た貴族はいた。メルーフィス領を加えたことで、皇国には大量の天領が新たに生まれることになった。その天領の代官の推薦を、軍勢を出した貴族や代官らは許されたのである。


 これによって彼らは自分達の弟や子供、あるいは縁者をこぞって推薦した。代官は役人だが基本的に世襲制なので、そこに自分の息の掛かった者を付けられれば、その利は新たな領地を得るに(じゅん)ずるものとなるだろう。


 とはいえあくまでも推薦であり、決定権は摂政にある。参考にすることは間違いないが、しかし全くその通りにしたわけでもなかった。例えばメルーフィス最大の貿易港ウルを含む天領の代官職は、遠征にほとんど参加していない西方貴族の縁者に任された。こうしてライシュは彼の利権と影響力を確実に増していったのである。


 それに縁者が代官職に決まったからと言って、それで万々歳と言うわけではない。代官はあくまでも役人だ。天領の統治が上手くいっていないと判断されれば、その首は簡単に挿げ替えられてしまう。そうなれば目論んでいた利が消えるだけでなく、推薦した者、いやその家にまで非難が及ぶ。曰く「あの家にはまともな人材がいないのか」と。


 そのような事態を避けるため、特に縁者が代官となった貴族たちは一族を上げてその統治に協力した。これもまた、ライシュの目論見通りであると言っていい。こうしてメルーフィスは着々と皇国の統治体制へと組み込まれていくのである。


 近衛軍においても、もちろんのこと戦功褒賞は行われた。細かなものは省くとして、ここでは大きなものを二つほど取り上げる。


 まずはラクタカス将軍である。彼は近衛大将軍へと任ぜられた。この人事は幾ばくかの驚きをもって迎えられた。


 大将軍と言えば、皇国の武官の頂点に立つ存在であると言っていい。大将軍とはつまり戦場における皇王の代理人であり、そのため皇王を別にすれば常に最上位の指揮命令権を持つ。例え相手が公爵や大公、あるいは皇太子であろうとも、こと戦場においては大将軍の命令が優先されるのだ。例外は皇王の勅命によって別の総司令官が任命された場合のみである。


 このように大将軍は非常に強力な権限を持つので、その任免権を持つ皇王の、皇国軍に対する総帥権を象徴する存在ともなっている。この非常に重要な役職は、ライシュの義弟であるカルノーに与えられるのではないかと予想していた者も多い。それがラクタカスに、かつてライシュと敵対した経験のある者に与えられたことは、少なからぬ驚きをもって迎えられるこことなった。


 次はカルノーである。彼は近衛将軍へと任ぜられた。これは大将軍に次ぐ立場である。


 大将軍には及ばぬものの、近衛軍の将軍と言うのはかなりの高官である。戦歴にもある程度左右されるが、無理に爵位に当てはめるなら侯爵以上に匹敵する影響力がある。カルノーは近衛軍に入ってからまだ二年も経っていないから、異例の大出世といえた。


 さらに付け加えるならば、大将軍には近衛将軍の任免権がない。その任命と罷免はあくまでも皇王の権限なのである。これによって近衛軍はまくまでも皇王の軍であることが明確にされ、さらに将軍は強力な権限を持つ大将軍の監視役と言う役割も負うことになるのだ。


 近衛軍は内乱によって大きな損害を被っていたが、現在は精兵7万を揃えるまでに回復している。その7万のうち4万がラクタカス大将軍の直属とされ、残りの3万がカルノーの指揮下に置かれた。将来的には戦力を内乱以前の水準である10万まで回復させ、もう一人将軍を任命して増やした3万を指揮させることが計画されている。なお、その将軍の人選についてはラクタカスに推薦が許された。


 さらにラクタカスとカルノーには、それぞれ報奨金と勲章が授与された。二人とも武官として最大限に報いられた、と言っていいだろう。


 とはいえ、特にカルノーについてだが、彼についてはもっと貴族的な褒賞も検討されていた。つまり、今のところ子爵位だけを持っている彼に、領地を与えてはどうかという案が出たのだ。


 カルノーはライシュの妹であるジュリアと結婚して彼の義弟となっている。そのカルノーに領地が与えられれば、それはライシュにとって治世の地盤を固める一助となるだろう。その利点は彼も十分に理解していた。


 しかしその案はライシュ自身によって却下された。彼はあくまでも義弟が近衛軍にいることを望んだのである。それはカルノーの軍事的才覚を高く評価していたからであるし、またこの先を見据えてのことでもあった。


(先……。先、か……)


 余談になるが、カルノーのことを含めて先のことを見据えるとき、ライシュはどうしても自嘲的な気分になる。それは見据えたその先にどうしても、友人であるエルストとの対立を、つまり武力衝突を思い描いてしまうからだ。


 いや、エルストと対立するだけならばよい。ライシュもエルストも、自ら望んでのことである。しかしそれをまったく望んでなどいないもう一人の友人、カルノーをそこに巻き込んでしまうことに、ライシュは苦いものを感じずにはいられない。


 エルストとの衝突の予感。それがカルノーを近衛軍に置く最大の理由となっている。さらにカルノーを巻き込むということは妹のジュリアを巻き込むということで、まったく酷い兄だと自嘲するほかないのであった。


 さて、戦功褒賞が終わって少し経つと、今度はカルノーとジュリアの結婚披露宴が開かれた。結婚式はすでにクレイマス平原で執り行われているため、あくまでもこれは披露宴である。


 披露宴は自由な立食形式だった。堅苦しくしたくないという新郎新婦からの要望があったため、と言うのがその形式が選ばれた表向きの理由だ。ただカルノーはそこに友人の細かな気遣いを感じ取っていた。


 披露宴には、当然カルノーの実家の人々も招待されている。母親は高齢と健康状態を理由に辞退したが、兄夫婦と妹夫婦は揃って招待に応じた。それが心から喜んでであったかはカルノーには判断が付かない。仮に自分がその立場であったとすれば、場違いな披露宴に行くことには間違いなく躊躇いを感じる。


 なにしろ、カルノーの実家は騎士の身分である。そのため貴族的な礼儀作法には疎い。格調高い(・・・・)晩餐会などでは、恥をかくのが目に見えていた。貴族の中には、精神的に貴くない者も多いのだ。できれば行かずに済ませてしまいたいと思っても、無理からぬことであろう。


 しかし此度は摂政ライシュハルト主催の披露宴であり、出席しなければ彼の怒りを買うことにもなりかねない。つまりどうしても出席しなければならず、妹夫婦はともかく兄夫婦は戦々恐々としていたかもしれない、とカルノーは思っている。


 とはいえ、その懸念は自由な立食形式であったことでかなり緩和された。ことさら礼儀作法に目くじら立てる者もおらず、それなりに披露宴を楽しめたようである。


「なに、隅っこで小さくなっていただけさ。酒と料理は楽しませてもらったがな」


 兄のレムエルは披露宴の感想をそんなふうに語った。


 披露宴でカルノーの妹であるオルパを紹介されたジュリアは、彼女に会えたことを喜んだ。曰く「ずっと妹が欲しかった」そうだ。


「カルノーの妹であれば、これはからわたしの義妹。よろしく頼むぞ」


 そう言って抱きしめられ、オルパは目を白黒させていた。どうやら想像していたお姫様とは随分印象が違ったらしい。とはいえ二人はすぐに打ち解けることができ、楽しげな会話に花を咲かせた。


「それにしてもお義姉様の花嫁衣裳、とてもお美しかったです」


 うっとりとした表情でオルパはそう話す。ちなみに彼女がジュリアのことを「お義姉様」と呼ぶのは本人たっての希望である。彼女が「お義姉様」と呼ばれて一瞬恍惚とした表情をしていたことを、カルノーだけが知っている。


 オルパの言うとおり、ジュリアの花嫁衣裳は見事なものだった。薄い最上級の正絹とレースを何枚も重ねて作られた純白のドレスであり、全体に金糸と銀糸をふんだんに使った刺繍が施されている。清楚ながらも女性らしさを引き立てるデザインで、神秘的なその雰囲気にカルノーでさえ息を呑んでいた。


(どうじゃ、美しいであろう?)


 尤も、得意げな笑みを浮かべながらジュリアが小声でそういうのを聞いて、すぐさま彼は苦笑を浮かべることになった。おかげで肩の力を抜くことができ、醜態を曝さずにすんだのである。


「もっと着ていてくださればよかったのに……。あ、もちろん今着ておられるドレスも素敵ですよ!?」


 オルパはそう惜しんだ。彼女の言うとおりジュリアはすでに花嫁衣裳から別のドレスにお色直しをしていた。


「あのドレスでは満足に食事もできないのでな……」


 苦笑しながらジュリアはそう言った。美しいドレスはもちろん好きだが、しかし彼女にとってそれが最優先というわけではない。とりあえずカルノーの驚いた顔が見られたから、彼女としては大満足だった。


「それはそうと、その耳飾りを付けてきてくれたのじゃな。嬉しいぞ」


 そう言ってジュリアが指差したのは、大粒のルビーが付いた耳飾りだった。かつて彼女がカルノーを介してオルパに贈ったものである。


「高価なものですのに……。ありがとうございました」


「なに。わたしが持っていても使わぬのでな。オルパが使ってくれた方が、父上も喜ぶ」


 ジュリアが口にしたその何気ない一言で、オルパの顔が凍りついた。聞き間違いでなければ、今彼女の口からとんでもない単語が飛び出してきた。


「え……、父、上?」


「うむ。その耳飾りは生前に父上からいただいたものなのだ」


 そういえば言っていなかったか、とジュリアは何でも無さそうに呟く。しかしオルパにとってはそうではない。ジュリアの父とは、つまり先皇レイスフォールである。その彼が娘のために買ったものを、今自分が身につけている。それはなんだかとてもまずい状況のように思えた。


 オルパは助けを求めるかのように、あるいは詰問するかのように、この耳飾りを持ってきたカルノーのほうを見る。しかし彼は無情にも視線を逸らした。仕方がない。彼だって知らなかったのである。


「使っていない装飾品はまだ他にもあるから、よければ幾つかオルパに……」


「い、いえ、これだけで十分でございます!」


 間違いなくジュリアは純粋な好意でそう勧めているのだが、オルパは必死に両手と首を横に振った。ちなみにこの耳飾りが後で問題になることはなかった。


 披露宴にはステラの姿もあった。彼女はジュリアとライシュの母親であるから、この場にいるのは当然である。


 しかしながら、ステラが皇都に来るのはこれが初めてだった。先皇レイスフォールの寵愛を受けていた頃でさえ、彼女は皇都に近づかなかったのである。それは無欲であったからと言うよりは、彼女なりの保身術であったのかもしれない。


 まあそれはそれでいいとして。そのためステラ・ルシェク・アルヴェスクという女性の存在は知っていても、彼女の顔を見たことのある者は少数だった。かくいうカルノーもその一人である。


「初めまして、カルノー殿。ジュリアの母で、ステラと申します。どうぞよろしくお願いしますね」


 ステラは「以前はお手紙ありがとうございました」と朗らかに笑いながら、ジュリアに紹介されたカルノーに挨拶した。そんな彼女に、カルノーも折り目正しく「こちらこそよろしくお願いします」と言って一礼した。


 ステラはジュリアによく似ていた。いや、この場合はジュリアがステラに似たというべきか。顔立ちや髪の毛の色はもちろん、背格好もよく似ている。カルノーが「並んで立つとまるで姉妹のようですよ」と言うと、ステラは「まあ、お上手」と言って喜んでいた。ジュリアは少々複雑そうな顔をしていたが。


 そのようによく似た親子であったが、ただし二人の目だけは少しも似ていなかった。垂れ目気味で優しげな雰囲気のステラに対し、ジュリアはつり目で彼女の利発で勝気な性格がよく現れている。きっとその部分は父親に似たのであろう、とカルノーは思った。


(しかし、父親、か……)


 自分はほとほと父親と言うものに縁がない、とカルノーは思った。実の父であるクロムウェルは彼が幼い頃に死んでしまったし、またジュリアと結婚したことで義理の父となったレイスフォールもすでに崩御している。結局彼は、父と呼べる人に育ててもらうことはほとんどなかった。


(師父……)


 カルノーの父親代わりと言えば、間違いなくアーモルジュだ。しかし今、彼はこの場にいない。無論、披露宴の招待状は彼にも送ったのだが、スピノザの私戦のこともあり、アーモルジュは出席を辞退していた。彼がここにいないこと、ただそれだけがカルノーの心残りだった。


 この披露宴でカルノーが初めて顔を合わせた人物はステラだけではない。他にも様々な人物と彼はこの場で誼を得た。その中にエルストの妻であるアルクリーフ公爵夫人のアンネローゼがいた。


「初めまして、カルノー様、ジュリア様。お噂は夫からも伺っております。なかなか機会がありませんでしたが、こうしてお会いできたこと、嬉しく思いますわ」


 華やかな笑みを浮かべながら、アンネローゼは二人にそう挨拶をした。ちなみに彼女が二人に“様”付けしているのは(へりくだ)っているわけではなく、個人的に親しい関係であることを示すものだ。


 これが初対面であることを考えると、「馴れなれしい」と思われて、ともすれば相手に不快感を与えかねない言い回しである。だが、カルノーもジュリアもそのような様子は少しも見せなかった。それがアンネローゼの人徳であろうし、また彼女がエルストの妻であることも関係していたに違いない。


「私たちもアンネローゼ様とお会いできて嬉しく思います」


 そう言ってカルノーとジュリアはアンネローゼに挨拶を返えす。ようやく妻を紹介することができた、と言ってエルストも喜んでいた。


 披露宴では様々な人たちがカルノーとジュリアのもとにやって来る。その中には無論、ライシュハルトとマリアンヌもいた。


「これでようやく、ジュリアさんも結婚できましたね……」


 しみじみとした様子でそう言ったのはマリアンヌである。ステラが普段皇都にいないので、彼女はある意味母親代わりとなって、義理の妹がなかなか結婚できないことに人一倍気をもんでいた。そのジュリアがこうしてようやく結婚したのだから、彼女の感慨もひとしおだった。


「これでわたしたちは家族です。よろしくお願いしますね?」


「こちらこそ、よろしくお願いします、マリアンヌ様」


「カルノー様?」


「……よろしくお願いします、義姉上」


 かつての約束を思い出してカルノーが苦笑しつつもそう言い直すと、マリアンヌは嬉しそうに笑みを浮かべて喜んだ。


「知っての通りのじゃじゃ馬だがな。よろしく頼むぞ、義弟殿?」


「子供を身ごもれば母親らしくなりますわ。ね、カルノー様?」


 子供のことを話題にされ、カルノーは苦笑を浮かべた。こればかりはどう答えていいのか分からない。代わりに口を挟んだのは、顔を赤くしたジュリアだった。


「こ、子供と言えばご懐妊おめでとうございます、義姉上」


 下手な話題の逸らし方だが、マリアンヌが第二子を妊娠しているのは事実だった。そのため彼女は今、身体に負担のかからないゆったりとしたドレスを着ている。


「ふふ、ありがとうございます。……ところで、ジュリアさん。この子に歳の近い従兄弟がいたら、一緒に遊んだり勉強したりするのにいいと思いませんか?」


 マリアンヌはお腹をいとおしげに撫でながら幸せそうに微笑んだ。しかしそれでもなお、追撃の手は緩めない。しかもステラまでそこに加わってしまったため、ジュリアは終始劣勢だった。結局「が、頑張ります……」と約束させられてしまったそうだ。とはいえ、ジュリアに子供が生まれるのはもう少し先のことになる。


 披露宴が終わると、オスカー子爵邸には客人が一人増えた。ステラである。周りの人々から請われたこともあり、彼女はしばらく皇都に滞在することになった。ちなみにカルノーの兄夫婦と妹夫婦は彼の屋敷に二泊ほどしてから帰路に着いた。


 ステラは皇族で、しかも摂政ライシュハルトの母親であるから、宮殿に豪奢な部屋を用意してそこで寝起きしていても問題はない。しかし自分が皇族として振舞えば皇太后イセリナとの間に角が立つと言って、ステラは宮殿に部屋を借りようとはしなかった。その代わりに、新たに義理の息子となったカルノーの屋敷にしばらくの間泊まることにしたのである。


「それに、ジュリアの花嫁修業がまだ終わっていませんから」


 だからカルノーの屋敷に泊まっていた方がなにかと都合がよい。ステラは朗らかに笑いがならそう言った。反面、母親の言葉を聞いたジュリアは厳しかった花嫁修業を思い出して青くなっていたが。


 ステラが皇都に滞在する上で最も苦慮していたのは皇太后イセリナとの関係であろう。彼女に対する対抗馬として見られることを、ステラは最も警戒していた。お互い会ったこともないと言うのに、その関係で苦慮するというのは、それだけ政の業が深いと言うことなのかもしれない。


 全く会わないわけにはいかないだろう、とステラは思っていた。そしてそれはどうやらイセリナの側も同じであったらしい。ある日、ステラはイセリナから茶会に招かれた。


 その茶会は本当に私的なものであったらしく、招かれたのはステラだけだった。詳しいことは分からないが、後日彼女は「母親同士、すぐに仲良くなれた」と話した。実際その後、度々お茶に招かれては子育てなどで相談に乗るようになったそうだ。


 皇国の国内に騒乱はなく、皇都での時間は穏やかに過ぎていく。しかし北の地では戦乱の暗雲が確実に立ち込めていた。


 大陸暦1061年の夏を間近に控えたある日のこと、皇都のライシュハルトのもとに急報がもたらされた。ギルヴェルスとの国境に、かの国の軍勢が姿を現したというのである。その軍勢を率いるのは王太子ユーリアス。彼はライシュとの会談を望んでいるという。


 それを聞いたとき、ライシュは笑った。獲物を狙う、獰猛な獣の笑みであった。騒乱の季節が訪れようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ