勝利を飾りに4
盗賊団の討伐自体は大きな問題も起こらず順調に進んだ。なにしろ、数が違う。盗賊団およそ300に対して、カルノーは全体でその十倍近い数を動かしている。実際に討伐の中核を担ったのはガーベラン領軍600だが、それでも二倍である。盗賊団の強みはもはや地の利しか残っていなかった、と言っていい。
しかも、盗賊団はその地の利さえ生かせたのかは怪しい。彼らの根城があったのはガーベラン子爵領ケニール州の南、天領のアルミシス州だが、それためなのか彼らは北から攻められることを想定していなかった。
さらに盗賊団が根城としていた小山の南には、近衛軍と代官が動かした天領の領軍合わせて1500ほどが布陣していた。盗賊団はこれこそが自分たちを討伐するための軍勢であると思ったらしく、彼らは南側に向かって罠を設置したり、丸太や岩を落す仕掛けを作ったりして迎撃の準備を整えていた。
しかし実際には討伐隊は北から、つまりガーベラン子爵領から攻め込んできた。いわば背後を突いた形である。そのため南から攻められることを想定して用意していた罠や仕掛けは全く役に立たなかった。
さらに、カルノーは北から攻めることで盗賊団の不意も突いた。数の差以上に、「来ない」と思っていたところから攻められたせいで、盗賊団はほとんど為す術なく討ち取られていき、あるいは戦うことすらせずに逃げ出した。
しかし、逃げたからと言って逃げ切れたわけではない。北から攻められた盗賊たちは、押し出されるようにして南に逃げた。その時、焦っていたのであろう、自分たちが用意したはずの罠や仕掛け引っ掛かる者が続出した。そのため少なくない数の盗賊たちが自滅のような形で死んだ。
さらに南にはすでに別の部隊が展開している。ジェイルが指揮するこの部隊が、根城の小山から逃げ出してきた盗賊たちを捕らえ、あるいは討ち取った。
盗賊団の拠点には、これまで強奪してきた物品が多く残されていた。持ち出そうとした賊もいたが、そのせいで逃げる時を逸しそのまま殺された。あるいは持ち出すことができた賊もいたのかもしれないが、それは少数だ。かなりの物品を回収することができ、ガーベラン子爵は喜んでいた。
攫われていた女性たちも保護された。ただし、予想されていた通り無事とは言い難い。何度も乱暴に犯されていたことが容易に分かる有様であり、彼女達の目は虚ろで表情には生気がない。酷く殴られたのか、体中に痣のある女性が多かった。
それでもまだましな部類だったのは、悲劇と言うべきなのだろう。中には殺されてしまっていた女もいた。殺された女の死体は葬られることもなくそのまま野山に投げ捨てられており、獣に喰われた無残な姿を何人もの兵士が目撃している。曰く「吐き気を覚える光景だった」とのことだ。
そのような報告が、次々に討伐隊の指揮官であるカルノーのもとに入ってくる。日は高くなり、お昼を少し過ぎたくらいの時間である。
「討伐作戦の第一段階は無事に成功、ですね……」
各隊の報告を聞いて、カルノーはそう呟いた。成功と言いつつも、彼の声音はそれほど嬉しそうではない。根城の強襲が成功するのはむしろ当たり前で、大変なのはこれからなのだ。全ての賊を捕らえるなり討ち取るなり出来たわけではない。むしろ数としては逃げた賊の方が多いだろう。こちらを放っておくわけにはいかない。
「すぐに逃走した賊の捜索と討伐を。可能な場合には捕縛してください」
カルノーから命令が下され、討伐作戦は第二段階に移った。ここからは根気強い捜索が必要になる。第一段階と比べるとはるかに地味で、そして時間がかかる。しかしそれと同じくらい、ともそればそれ以上に重要だ。「一つの大きな盗賊団を潰した結果、小さな盗賊団が幾つもできました」では話にならない。それに逃げた賊は言うまでもなく犯罪者だ。これを放って置くわけにはいかない。
「ジェイル副隊長と、代官殿がいらっしゃいました」
カルノーが遅めの昼食を食べていると、イングリッドが二人の来訪を告げる。作戦が第二段階に入ったことで、部隊を離れても大丈夫だと判断したのだろう。カルノーはすぐに二人を連れてくるように言った。
「お初にお目にかかります、隊長殿。私はアルミシス州の代官を任されている、バールハッシュ・セフラ・ロト・フリーデン男爵です」
カルノーの顔を見るなりそう挨拶をしたのは、ジェイルの隣に立つ男だった。軍人であるジェイルの隣に立っているせいか、やや小太りに見える。部隊を動かしているにもかかわらず鎧を身に纏っていないところを見ると、完全な文官なのだろう。カルノーとは初対面だが、その声がやや卑屈に聞こえてしまうのは自らの進退を気にしてのことか。
「ご丁寧に。近衛軍のカルノー・ヨセク・ロト・オスカー子爵です。今回の討伐作戦の指揮を執っています。代官殿におかれては此度の作戦へのご協力、改めて感謝いたします」
カルノーはにこやかな笑みを浮かべながらそう挨拶を返して握手を交わした。盗賊団に対して有効な手立てを打とうとしなかったバールハッシュに対しては、あまりいい印象を抱いていないのだが、そのあたりのことはおくびも出さない。
ジェイルとバールハッシュの二人が椅子に座ると、カルノーは二人から改めて報告を聞き始めた。ただ、喋るのは主にバールハッシュで、彼は自らの部隊がどれほど活躍したのかを殊更強調した。もちろん手柄は欲しいのであろうが、それ以上にこの件で摂政の不興を買うわけにはいかないという危機感の方が大きかったのだろう。見ていて少々哀れなほどだった。
余談になるが、代官がこのような危機感を抱くのは、彼らが領主ではなく役人だからだ。彼らは確かに天領の統治を任されており、基本的にその職は世襲制である。しかしだからと言ってその領地を所有しているわけでは決してない。失態を犯したり、もしくは皇王の意向に沿わなかったり、ともすればただ気に入らなかったりするだけで、比較的容易に更迭されてしまうのである。
そのような事情があるせいか、バールハッシュは保身に必死だった。少なくともカルノーにはそのように見えた。
「……代官殿のご活躍、確か承知いたしました。摂政殿下にも間違いなく報告いたしましょう」
ほどほどのところでカルノーはそのように口を挟んだ。彼のその言葉を聞くと、忙しく舌を回転させていたバールハッシュは安堵したように表情を緩め、そして一つ息を吐いた。そんな彼の隣ではジェイルが苦笑を浮かべている。恐らく色々とあったのだろう。
「ですが、作戦はまだ終わっていません」
盗賊団の根城は潰したが、それでも多くの賊がちり散りなって逃げている。これを追って探し出し、捕まえるなり討ち取るなりしなければ、また少なくない被害がでるだろう。
「ご協力願えますか?」
「も、もちろんですとも!」
バールハッシュが力強くそう請け負うのを聞いて、カルノーは満足げな笑みを浮かべながら一つ頷いた。尤も、逃げた賊の掃討はバールハッシュにとっても他人事ではない。これを放置すれば間違いなくアルミシス州にも被害が出るからだ。カルノーの要請がなくとも手を抜かずに行っていただろう。
最後に最終的な報告書を後で提出するように求めてから、カルノーはジェイルとバールハッシュをそれぞれの部隊に返した。彼のもとにイングリッドが驚くべき報告を持ってきたのはそれから数時間後、夕日が空を赤く染め上げる頃になったころのことだった。
「隊長。賊の首領、レイザック・ハーベルンを捕らえました」
「本当ですか!?」
その報告を聞いたとき、カルノーは思わず腰を浮かせた。根城を強襲した際に捕らえるなり討ち取るなりした者の中にレイザックの姿はなく、彼は逃げおおせたものと思われていた。盗賊団の首領である彼を野放しにしておくわけにはいかず、カルノーは徹底的な捜索を命じていたのだが、しかしその一方で捕まえるには時間がかかると覚悟してもいた。それがこうも早く見つかった。嬉しい誤算である。
イングリッドの報告によれば、根城を強襲された際にレイザックはどうやら北東方向に逃げたらしい。北からの強襲に対して北東方向に逃げるとは、なかなか大胆な選択である。しかしどうやら今回はカルノーの部下達の有能さの方が上回ったらしい。あばら家に潜んでいたところを捕縛したという。
「お会いになられますか?」
「そうですね……。会ってみましょうか」
連れて来てくださいとカルノーが言うと、イングリッドは少し固い表情で頷いた。そしてしばらくすると、一人の男が両脇を兵士に抱えられるようにして連れてこられた。
年の頃は30代の半ばから後半といったところか。背丈はカルノーと同じくらいで、よく鍛えられた身体つきをしている。鳶色の髪の毛は無造作に伸ばされ、顎には無精ひげが生えていた。
元近衛軍の100人隊長であったという話は本当らしく、近衛軍の士官用の鎧を身に纏っている。その鎧の下には、絹であろうか、随分と仕立ての良い服を着ていた。そして鎧の上には毛皮のマントを羽織っている。恐らくは二つとも略奪したものなのだろう。ただ必死に逃げたせいなのか、全体的に埃っぽくあちこちに泥がついていた。
レイザックは手に枷を嵌められ、さらに胸の高さで縄を打たれている。さらに両脇を兵士に抱えられ、自由はほとんどない。それにも関わらず、彼はにやにやとふてぶてしい表情を浮かべている。彼はカルノーの姿を見つけると、一瞬だけ驚いたかのように目を見開き、そしてその笑みをさらに深くした。
「若いな。コネか?」
これだけの部隊を率いるにはカルノーはまだ年若く、そのため彼がその地位に着いたのは実力ではなくコネのおかげではないのか。レイザックはそう言っているのだとカルノーは解釈した。
「コネで出世した方が近衛軍にも多くいましたか?」
「ああ、いたぞ。大半はあの負け戦で死んだがな」
コネによる出世は珍しいことではない。レイスフォールの方針もあって近衛軍は比較的実力主義が根付いているが、しかし実力が伯仲している二人ならば、コネを持っている方が有利なのは言うまでもない。
それを責めることはカルノーには出来なかった。なにせ、彼自身今こうして2000騎を率いる地位にいるのは完全な実力によるのではなく、摂政ライシュハルトの学友であり、また彼の妹姫であるジュリアの婚約者であることが大きく関係していると認めざるを得ないからだ。
「あなたも戦死していれば、こうして賊に身を落すこともなかったでしょうに」
カルノーがそう言うと、レイザックは面白そうに喉の奥を鳴らして笑った。
「まあ、そうなのだろうな。だが、生きるためにみっともなく足掻くのはもはや人の業よ。それを責めることは誰にもできんさ」
「生きるだけならば幾らでも手段はありましたよ。近衛軍に戻れば出世の道もあったでしょうに」
レイザックが言うところの「コネで出世した連中」が大勢戦死したため、現在近衛軍は仕官つまり部隊指揮官が不足している。そのため再編の中で生き残った隊長が出世したという例は珍しくない。レイザックは元々100人隊長だったから、戻ってくれば200人300人と部下を任されていた可能は十分にある。貴族の家に婿養子に入れば、1000人隊長とて夢ではなかっただろう。
「それを捨て、なぜ盗賊になどなったのです?」
カルノーがそう問い掛けると、レイザックは再び喉の奥を鳴らしながらふてぶてしく笑った。そしてカルノーに侮るような目を向けながらこう言った。
「若いなぁ、隊長さんよぉ。あんた、国外に遠征したことはないな?」
「ええ、ありませんね」
カルノーは正直にそう答えた。とはいえ、これは珍しいことではない。レイスフォールは内政に力を注いでいたから、外征を行ったことはほとんどない。彼の治世中、皇国軍が国の外に出るとしたら、それは攻め込んできた敵軍を追い払い、さらにその背中を追って逆襲するためという場合がほとんどだった。
「俺は、あるぜ」
にやり、と凄みのある笑みを浮かべながらレイザックはそう言った。そしてその際、彼の部隊は敵国の小さな集落を襲ったのだと言う。
「楽しかったぜぇ……。逃げまどう連中を殺すのも、家に押し入って奪うのも、泣き叫ぶ女を犯すのも」
あれこそまさにこの世の悦楽ってやつよ、とレイザックはどこか恍惚とした色さえ浮かべながらそう言った。彼のその言葉を聞いてもカルノーは顔色一つ変えないが、彼の後ろではイングリッドが露骨に顔をしかめていた。
「だからよぉ、つまんねぇのさ」
はぁ、と大げさにため息を吐き出しながらレイザックはそう言った。殺し奪い犯す。戦争というものに魅入られてしまった彼には、比較的平和なアルヴェスクの日常が退屈で仕方がなかった。
先の内戦ではそれなりに楽しめた。だが、皇国内での戦いであるため、近衛軍を率いるホーエングラムはやり過ぎを許さなかった。造反した貴族を成敗したのだから戦略的には十分大勝なのだが、レイザックにとっては中途半端だった。何もかもを焼き尽くし、誰も彼もを殺し尽くし、あらゆるものを奪い取る。そういう戦いがしたかった。
だから、西でライシュハルトが起こした大きな反乱を鎮圧しに行くと聞いたときには期待した。村も町も、皆ライシュの味方をするだろう。そこに住んでいる人間はすべて敵で、殺しつくさなければならない。きっと血と泥にまみれた戦いになる。そう直感して、レイザックの血は滾った。
だが西に向かった討伐軍はテムタス川の会戦で大敗する。レイザックもまた逃げた。逃げて、そしてこう思った。近衛軍にいても自分のこのあくなき渇望を満たすことは出来ない。ならば自由に生きてやろう、と。
そして、彼は盗賊になった。同じように敗走した敗残兵を口先で丸め込んで配下にし、まずは10人ほどの盗賊団を結成した。そして旅人を襲い、行商人を襲い、小さな村を襲った。そうやって仕事を重ねるうちに、やはりテムタス川の会戦で敗走した元討伐軍の兵士らが集まってきて、そのうちに彼の盗賊団は300名を数えるまでになった。
「奪い、殺し、犯す。くっくっく、楽しいぜぇ……、これはよう。こいつの味を覚えっちまったら、もう後には戻れない。この悦楽に身を任せるしかないのさ。人とは快楽を追求するもの。ならばこれも人としての一つの正道ってわけだ」
興奮しているのか、レイザックは饒舌に語った。それに伴い、彼の気配は段々と獣じみたものになり、そして言葉遣いも粗野になっていく。その様子を、カルノーは冷めた眼差しで見ていた。
「それはただの堕落ですよ。行き着いた結末がこれなのですから」
それ以上の興味をなくしたのか、カルノーはレイザックから視線を外すと、彼の腕を抱えて拘束する兵士の方に目を向けた。
「連れて行きなさい。州都に戻り次第、ガーベラン子爵に引き渡します」
カルノーの命令を受け、レイザックの両脇を抱えていた兵士たちは彼を引きずるようにしてその場から連れて行った。彼は最後まで怯えた顔をすることなく、ふてぶてしい笑みをその顔に貼り付けていた。それが、なぜかカルノーの印象に残った。
さて、カルノーはさらに3日かけて盗賊団の残党狩りを行った。その結果、討ち取ったり捕縛したりした賊の合計は、全部で246名となった。盗賊団の規模がおよそ300名だったから、ほぼ壊滅させたといっていいだろう。
とはいえ、この246名が盗賊団の全てだとはカルノーも思っていない。何名かは逃げ仰せているはずだ。もっとも、首領であったレイザックさえ正確な数は把握していないとのことだったので、一体何人が現在も逃走中なのかは不明である。
残党狩りを終えると、カルノーはガーベラン子爵と一緒にケニール州の州都に戻った。ジェイルとバールハッシュもまた、アルミシス州の州都に戻った。二人にはそこで今回の討伐作戦についての報告書をまとめてもらい、それをジェイルがカルノーのもとに持ってくる手筈になっている。
さて、ケニール州の州都に戻ってくると、カルノーはガーベラン子爵からある相談を受けた。それは、盗賊団に攫われていた女性たちに関することだった。
「……つまり、明らかに数が足りない、と?」
ガーベラン子爵から一通りの説明を聞くと、カルノーは眉間に皺を寄せながらそう言った。子爵によると、盗賊団の根城から保護された女性の数が、攫われたと思しき女性の数よりも明らかに少ないのだそうだ。
もちろん一体何名の女性が攫われたのか、それさえも定かではない。加えて死んでしまった女性もいる。だから正確に何名いないと言うことはできないのだが、しかしそれにしても数が少なすぎるとガーベラン子爵は言う。
「さらに女性達の話によると、何人かが生きたまま根城から連れて行かれ、そのまま帰ってこなかった、と」
それを聞いてカルノーは顔に嫌悪の色を浮かべた。話をするガーベラン子爵も表情を苦くする。女性たちを殺すために連れて行ったわけではないだろう。殺すのであれば、最初から攫いなどするまい。つまりもっと別の目的のためにどこかへ連れて行ったのだ。そして帰ってこなかったことを勘案すれば、答えはおのずと見えてくる。
「人身売買……」
カルノーが苦々しい声でそう呟くと、ガーベラン子爵もまた苦々しい顔で頷いた。つまりレイザックらは攫ってきた女性たちを裏社会に売ったのだ。恐らくは奴隷として。
アルヴェスク皇国において、奴隷制はおよそ150年前に廃止されている。もちろん名前と姿を変えて実質的な奴隷制は根深く残ってはいるが、しかし制度としての奴隷制と身分としての奴隷はなくなっているのだ。
例えば借金を返すために娼館で客を取る、というのは実質的な奴隷制と言えるだろう。あまり気持ちのいい話ではないが、これは合法である。そして合法であるゆえに規制がなされ、また娼婦のほうも法によってある程度守られている。
しかし今回のように誘拐した者を金銭で売るという行為は完全な違法である。「これを犯したものはすべからく死罪に処す」と皇国の法では定められている。それほど重大な犯罪とされているのだ。
「売った先も突き止めなければなりませんね……」
カルノーの言葉にガーベラン子爵も重々しく頷く。売り手がいれば、当然買い手もいる。そして人身売買は売るのも買うのも等しく重罪である。
「子爵の方に心当たりはありませんか?」
「今、情報を集めさせてはいます。ですが、我が領内だけの話ではないでしょう」
つまり、複数の買い手が複数の州にいる、ということだ。ケニール州の外のことになると、ガーベラン子爵は手が出せない。
「周辺の州にもこのことを知らせて、捜査を行ってもらう必要がありますね。場合によっては、中央から捜査官を派遣してもらうことになるかもしれません」
カルノーは顎に手を当てて思案しながらそう言った。ある犯罪が複数の州にまたがって行われた場合、中央から捜査官が派遣されることがある。だから今回カルノーはある意味で捜査官として盗賊団の討伐を行ったわけだが、まあそれはそれとして。
「あとは、レイザックですね……」
捕らえられた盗賊団の首領レイザック・ハーベルンは、州都に到着後にガーベラン子爵に引き渡され、今は地下牢に入れられている。彼が今回の人身売買に関わっているのは間違いない。なんとしても、彼から証言を引き出さなければならない。
「取調べはどうなっていますか?」
「それがのらりくらりとかわされて……。拷問して吐かせることも考えていますが……」
「……少し、私が話をしてみましょうか?」
「隊長殿が、ですか?」
「ええ、上手く行くかは分かりませんが」
上手く行かなかったところで何か損失があるわけでもない。そう思ってガーベラン子爵は頷いた。カルノーもまた一つ頷き、そして二人は立ち上がった。