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アルヴェスク年代記  作者: 新月 乙夜
承の章 勝利を飾りに
17/86

勝利を飾りに2


「お忙しい中時間を作っていただき、ありがとうござまいす。イセリナ様」


「この程度のこと、何でもありませんよ。それに、わたくしなどより貴方の方がよほど忙しいでしょうに、ライシュハルト殿」


 戴冠式の数日後、ライシュは皇太后つまり皇王フロイトスの母親であるイセリナのもとを尋ねていた。先皇レイスフォールの“妻”といえるは、もう彼女一人だけである。


 年齢はマリアンヌと同じでライシュの一つ上。18の頃にレイスフォールの寵を受けた。身分が低くそのせいか側室となることはなかったが、それでもフロイトスを授かり現在は皇太后と呼ばれる立場になっている。


 髪は眩いばかりの金髪で、面長の顔は穏やかな容貌をしている。おしとやかで控えめな性格であり、これまで政治に口出しをしたことはない。その能力がないわけではなく、それが自分と子供の命を守る最善の方法であると考えているのだ。現在はマリアンヌやジュリアといった女性陣と親しい交友を持ちながら、息子の成長を穏やかに見守る生活を送っている。


「フロイトスの、弟の様子はいかがですか?」


 陛下という敬称をつけることなく、ライシュはフロイトスの名を呼んだ。しかし、イセリナがそれを咎めることはない。なにしろそう呼ぶように求めたのは彼女の方だった。ライシュとフロイトスは腹違いとはいえ兄と弟であり、せめて私的な場ではそのように接して欲しいと彼女は求めたのだ。それもまた、我が子を守るための方策であったのかもしれない。


「やんちゃな盛りです。雪だらけになって遊ぶので、お風呂に入れるのが大変です」


 優しげな笑みを浮かべながらイセリナはそう答えた。「大変です」と言いながらも、彼女の表情はどこまでも嬉しげだ。


「春になったら、ぜひ馬で遠乗りに連れて行ってあげてください。きっとあの子も喜びます」


「それはいい。ぜひ皆で行きましょう。今から仕事を空けておきますよ」


 ライシュもまた笑みを浮かべながらそう答えた。彼のその笑顔からは、弟を邪険にする気配は感じられない。本当に仲の良い、歳の離れた兄弟のようである。しかしこの二人の関係は、ただ単に「仲が良い」と形容するにはいささか複雑すぎた。


 フロイトスが死ねば、その場合皇王になるのはライシュハルトである。皇国とその周辺で政治と少しでも関わりのある者ならば、一度はそれを考えたことがあるだろう。ただしその場合、フロイトス“暗殺”の下手人として真っ先に疑われるのもライシュである。


(フロイトスを弟と呼べるようになったのは、あるいは幸運だったのかも知れんな……)


 この頃ライシュはそう思うことがある。フロイトスを弟と呼べたからこそ、その存在をすんなりと自分の中に収めることができたのだ。彼を弟と呼べなければ、あるいは狂っていたかもしれない。そう思うのだ。そしてその結末はきっと悲惨なものだっただろう。もしかするとイセリナはそのことさえ予感していたのかもしれない。


 とはいえ、ライシュハルト・リドルベル・アルヴェスクの野心の火が消えたわけではない。フロイトスを排除して皇王になろうという気は今のところ下火になっているが、しかしその椅子を諦めたわけでは決してないのだ。


(誰もが納得する功績を残す。そうすれば……)


 誰もがフロイトスよりもライシュハルトの方が皇王として相応しいと認める、彼でなければ皇国は治まらないと思うような、そんな功績を打ち立てる。そして堂々とその椅子に座る。それが、ライシュが今胸に持つ野心だった。


 閑話休題。挨拶とそれに続く少々の談笑を終えると、ライシュはおもむろに本題に入った。


「実は先日のパーティーでロキ、アルクリーフ公爵からある申し出を受けました」


「それは、一体どのような?」


「生まれたばかりの娘、アンジェリカ嬢をフロイトスの婚約者として差し上げたい、と」


「まあ、それは……」


 そう呟いたイセリナは、しかしそう驚いた様子ではなかった。エルストに娘が生まれたことは知っていただろうし、彼の名前が出た時点でおおよそ察しが付いていたのかもしれない。


「それで、どうお答えになったのですか?」


「私の一存では決められぬので、イセリナ様とも相談してから改めて返答する、と」


 ライシュがそう答えると、イセリナは穏やかな笑みを浮かべながら一つ頷いた。そして香りの良い紅茶を一口啜り、「公爵殿のお気持ちは嬉しく思います」と前置きしてから、さらにこう尋ねた。


「……それで、ライシュハルト殿としてはわたくしにどう答えて欲しいと思っているのですか?」


「できることでしたら、断っていただきたいと思っています」


 イセリナの目を真っ直ぐに見ながら、ライシュはそう答えた。


 フロイトスとアンジェリカの婚約は、言うまでもなく政略的なものである。この婚約により、エルストは皇王の未来の義父という立場を手に入れる。この婚約により、アルクリーフ公爵家の影響力はますます大きくなるだろう。


 またイセリナのもとの身分が低いせいで、これまでフロイトスには有力な貴族の後ろ盾がなかったが、この婚約がなればアルクリーフ公爵家という大きな後ろ盾を得ることができる。つまりこの婚約は両者に利のあるものなのだ。


 しかし、ライシュにとっては決してそうではない。摂政になったばかりの彼は、まだ権力基盤が磐石ではない。皇王の外戚となった貴族が権勢を振るうというのはよくある話で、しかも悪いことにエルストは極めて有能でありアルクリーフ公爵家は有力である。今この婚約がなれば、まず間違いなく皇国は政治的に二分される。それは摂政たるライシュにとって好ましくない状況だった。


「ですが、お断りするには相応の理由が必要ではありませんか?」


「では、返事を保留していただきたい」


 そうやって時間を稼ぎ、その間にライシュは自分の権力基盤を磐石なものにする。成果を挙げて実績を残し、支持を集めるのだ。それはまた彼自身の野心へと通じる道でもある。加えて、そうしているうちに状況が変化するかもしれない。まあ、こちらは多分に希望的観測だが。


「……アンジェリア嬢はもちろんですが、フロイトスもまだ幼く、二人とも婚約者を決めるには時期尚早に思います。婚約者についてはフロイトスが成人する頃を見計らって決めてはいかがでしょうか?」


 イセリナはライシュの意を汲んでそのように答えた。加えてこれは、エルストよりもライシュのほうを頼りにしているという意思表示でもある。あくまでも現時点では、だが。


「分かりました。そのように取り計らいましょう」


 イセリナの言葉を聞いて、ライシュは笑みを浮かべながらそう言った。フロイトスが成人するまでは約10年。それだけの時間が稼げれば十分であろう。


「色々と、ありがとうございました」


「いえ、この程度のこと、どれほどのこともありません。今後ともフロイトスのこと、よろしくお願い致します」


「ええ、分かっております」


 そう言葉を交わして、ライシュはイセリナのもとを辞した。そして自らの執務室に戻ると、秘書に命じてエルストを呼ばせる。30分ほどで現れた彼に、ライシュは“イセリナの意向”を伝えた。


「……なるほど。イセリナ様のお考え、尤もなものと存じます」


「うむ、イセリナ様も公爵の気持ちは嬉しいと仰せであった」


「ではフロイトス陛下が成人されるまでに、アンジェリカを立派な淑女に育てておくことにいたしましょう」


「婚約者の座を巡って決闘騒ぎが起きるかも知れんぞ?」


「それもまた一興、でしょう」


 そう言ってライシュとエルストは笑いあった。美しい姫や令嬢を巡って男たちが決闘を行う事例は決して皆無ではない。ただし、フロイトス相手に決闘を申し込む男がいるのかははなはだ疑問である。


「婚約者といえば俺の息子、ジュミエルのことも考えねばならんな。それこそ、アンジェリカ嬢はどうだ、ロキ?」


 公爵とは呼ばずあえてロキと呼ぶことで、ライシュはこの話を巧みに私的な冗談という位置づけにした。それに対し、エルストもまた友人の愛称を使って冗談を返す。


「決闘を勝ち抜いてこられるのであれば、考えても良いぞ。ライ」


 そして二人はもう一度笑いあった。それからもう二言三言言葉を交わしてから、エルストはライシュの執務室を辞した。


(おおよそ、予想通りの結論になったな……)


 宮廷の廊下を歩きながら、エルストは胸の中でそう呟いた。ライシュが摂政となったばかりのこの状況で、フロイトスとアンジェリカの婚約が成立するとは彼自身最初から思っていない。それでも彼がこの話を持ち出したのは、他の貴族たちへの牽制だった。これで、少なくとも皇国国内からフロイトスの婚約者が選ばれることは、彼が成人するまでなくなった。


 なにしろアルクリーフ公爵家の話を保留にしたのだ。その上でどこか他の貴族の令嬢を婚約者にすれば、それは公爵家の面子を潰して敵に回すとこに繋がる。有力な後ろ盾を持たない皇太后イセリナがそれを望むとは思えないし、またライシュも早い段階で皇王に外戚ができることは望まないだろう。


(婚約が成るとして、およそ10年後、か……)


 エルストは頭の中で大雑把なタイムスケジュールを組み立てる。10年後、フロイトスは15歳でありアンジェリカは10歳だ。このタイミングで二人を婚約させさらに5年後、アンジェリアが15歳になって成人した時に結婚させる。その時フロイトスは20歳であり、ライシュは摂政位から退くことになる。皇王の義父となるには、悪くないタイムスケジュールのように思えた。


(確かに悪くはない。悪くはない、が……)


 しかしエルストの心は躍らない。10年20年先を見越して計画を立て動いていくのは貴族として当たり前のことだが、しかしまだ若いエルストにとってそれは非常に迂遠なことに思えるのだ。


(しかしまあ、だからといって……)


 だからと言って、このタイムスケジュール以上に早くフロイトスとアンジェリカを婚約させることは出来ないだろう。そのことをもまた、エルストは理解していた。


「まったく、ままならん」


 苦笑しながらエルストはそう呟いた。そして彼は頭を切り替える。考えなければならないことは、まだ他にもあるのだ。



□■□■□■



 春の初め、葉を落としていた木々にようやく新芽が芽吹き始めた頃、隊舎の隊長室に戻ってきたカルノーは副官に「盗賊団討伐の命令が下された」と告げた。


「盗賊の討伐、ですか?」


「そうです」


 少しだけ不思議そうな顔をしてそう聞き返した副官にカルノーは一つ頷きながらそう答えた。ちなみに副官の名前はイングリッド・テーラーという。女性であり、歳はカルノーの二つ下。女騎士らしく凛々しい顔立ちだが、大きな目のおかげか、ありがちな鋭さはあまり感じない。


 身長は170センチ強だから、女性としてはかなりの長身である。実際、成人男性のカルノーと比べても背丈にあまり差がない。赤毛の髪の毛を、纏めることも結うこともせずにそのまま背中に流している。


 イングリッドは年始めに行われたフロイトスの戴冠式の直後にカルノーの副官となったのだが、この人事は彼自身が指名してのことではなかった。


 昨年の年末頃に上司であるラクタカス将軍から「副官は誰がいいか」と聞かれたのだが、カルノーの頭に思い浮かぶ顔はない。古巣であるカディエルティ領軍ならば何人か心当たりはあるのだが、赴任して数ヶ月の近衛軍では彼が把握している人材などほんの一握りである。


『それでは若くて有能な者をお願いします』


 結局カルノーはそう答えた。有能な者を求めるのは当然だが、わざわざ若いことを条件に付け加えたたのは、単純に自分より年上だと命令しにくいという彼の心理的な要因によるものだった。


『失礼いたします。本日よりオスカー隊長付きの副官となりました、イングリッド・テーラーです』


 そう言って一分の隙もない完璧な敬礼をするイングリッドを、カルノーは思わずまじまじと見つめてしまった。まさか女性が来るとは思っていなかったのだ。


『……いかがしました?』


『ああ、失礼。隊長のカルノー・ヨセク・ロト・オスカーです。どうぞよろしく』


 そう言ってカルノーはイングリッドに右手を差し出した。差し出してから女性に対して無作法だったかと思い直したのだが、彼が右手を引っ込めるより早くイングリッドはその手を躊躇いなく握った。日々の鍛錬を欠かしていないことがよく分かる、勤勉な者の手だった。


 有能な者を、と注文したとおりイングリッドは有能だった。聞けば士官学校を次席で卒業し、そのまま近衛軍に入ったという。文句なしのエリートであり、自分の部隊を率いていてもおかしくはない。率直に言って、なぜ彼女が副官なのかカルノーには不思議だった。


『わたしは女ですから』


 イングリッドは少し悲しげに笑いながらそう言った。軍隊は男社会である。その中で女である、しかも有能な女であるイングリッドは疎まれた。これまでずっと、裏方の勤務であったという。


 ただし、そのおかげで彼女は先の内戦の折に討伐軍に加わって西に赴かずに済んだ。そして何の因果か、カルノーの副官となった。人生何が幸いするか分からない。イングリッドはしみじみそう思っていた。


 閑話休題。話を冒頭に戻そう。盗賊討伐の件である。


「ラクタカス将軍より命令が下されました。我が隊は、ガーベラン子爵領ケニール州で略奪行為を繰り返している盗賊どもを討伐するために出撃します。後日、正式な勅命が下され、我々の行動を保証するための全権委任状も発行されます」


 盗賊団の規模はおよそ300人。かなり大規模だ。ここまでくるとちょっとした軍隊である。どうやら、テムタス川の会戦で敗れた討伐軍の兵士が、戦場から逃亡しそのまま盗賊になったようだった。


 余談だが、カルノーは部下と話すときでも意識して丁寧な話し方をするように心がけていた。それは、成り上がり者の自分がいきなり上官になることを快く思わない者も多いだろうと考えてのことである。「威厳が足りない」と言う者もいるが、今のところカルノーに対する部下からの評価は良い。


 カルノーの説明を聞いて、しかしイングリッドはますます訳が分からないという顔をした。そして彼女は内心の疑問を上司にぶつける。


「ガーベラン子爵領での事件は子爵ご自身が解決されるのが筋。我々近衛軍が出しゃばるのはむしろ問題だと思いますが……?」


 イングリッドの疑問は尤もだった。領地内で起きた事件はその領地を治める貴族か代官が責任を持って解決する。それが筋である。そして300人という人数は確かに多いが、しかしガーベラン子爵が領軍を出せば制圧は十分に可能である。なぜそれをせず、あまつさえ近衛軍に出動が命じられるのか。


 近衛軍が出てくるということは、つまり当事者がその事件を解決するのは無理だと中央が判断したということで、言ってみれば無能者の烙印を押されたに等しい。貴族であれば面子が丸潰れだし、代官であれば罷免の可能性さえある大きな不祥事だ。それをわざわざ自分から望むとは思えない。


 そうでなくとも貴族というのは国からの干渉を嫌う傾向がある。ラクタカス将軍からの命令と言うことは、つまり摂政ライシュハルトからの命令と言うことで法的な問題は何もない。しかし感情的な部分では必ずやしこりを残す。未だ治世が安定しきらないライシュがそれを望むはずもなく、なぜわざわざ近衛軍を動かすのか分からない。それがイングリッドの偽らざる本音だった。


「盗賊団が根城にしているのは、ケニール州ではなくその隣のアルミシス州だそうです」


 イングリッドの本音を察した上で、カルノーは彼女の疑問にそう答えた。それを聞いて彼女の疑問も氷解する。


「なるほど。それで……」


 アルミシス州は皇王の直轄領、つまり天領だ。そして貴族が軍勢を率いて許可なく天領に入ることは、すなわち皇王への謀反とされている。これは一族郎党皆殺しにされる大罪だった。


「ガーベラン子爵領で略奪を働いた後、天領のアルミシス州に逃げ込む。そうすれば、子爵は追ってこられない……」


 イングリッドの呟きにカルノーは重々しく頷いた。この盗賊団は皇国の法制度を巧みに利用している。それなりに頭の回るものが率いている証拠だ。


「しかし、そうであるなら天領を治める代官にその旨を説明し、協力してもらえば良いのではありませんか?」


「子爵はそうしました。でも、代官はのらりくらりとかわして動きませんでした」


 イングリッドの疑問にカルノーはそう答えた。ラクタカスから聞いた話によれば、ガーベラン子爵は盗賊団がアルミシス州に逃げたことを知ると、すぐにそこを治める代官に協力を要請した。しかし代官はなかなか動こうとせず、子爵領での被害は増えるばかり。ついに子爵は形振りかまっていられなくなり、無能と呼ばれるのを覚悟して中央に泣きついた、という次第らしい。


「それは……」


 カルノーの話を聞いて、イングリッドはさすがに眉をひそめた。呆れればいいのか、それとも怒ればいいのか。両方の感情を等しく覚えていた彼女は、ひとまずそれらを押し殺して当然の疑問を上司にぶつけた。


「なぜ、代官は動こうとしなかったのでしょうか?」


「さて、これは私の想像ですが、要するに役人だった、と言うことでしょう」


 盗賊団はアルミシス州では略奪を働いておらず、つまり代官は何も被害を被っていない。にもかかわらず盗賊団討伐のために金をかけることを嫌ったのではないか。カルノーはそう言った。


「それは十分に有り得ることだとは思いますが……。しかし、本当にそれだけでしょうか?」


「……中央に、ライシュハルト殿下に恩を売ろうとしたのかもしれませんね」


 ガーベラン子爵領内で盗賊団が暴れ続け、いつまで経ってもこれを制圧出来ないとなれば、中央政府は子爵には領地を治める能力がないと判断してその所領を召し上げることができる。つまり天領が増えるのだ。


 貴族の力を削ぎ天領を増やすことは、言うまでもなく摂政ライシュハルトにとって利となる。アルミシス州の代官はそのきっかけを作ることでライシュに恩を売ろうとしたのではないか。カルノーはそんなふうに推測した。


「あわよくば自分がもう1州任されるのではないか。そんなふうに考えていたのかもしれません」


 カルノーのその言葉を聞いて、イングリッドはますます眉をひそめた。彼の推測が当っているのであれば、代官は自らの出世欲のために盗賊団を放置していたことになる。それはとてつもなく醜悪な行動であるように彼女には思えた。


「とはいえ、こうして我々に出撃が命じられたということは、摂政殿下にガーベラン子爵領を召し上げるつもりはないということです」


 召し上げるつもりならば、近衛軍を動かす前にそうするだろう。逆に、迅速に動いて盗賊団を討伐することで、ガーベラン子爵に恩を売ってその忠誠を勝ち得る。それがライシュの考えなのではないか。カルノーはそう思っている。


(そうであるなら、その意図に沿って動くのが私の仕事、ですね……)


 それに、盗賊団の迅速な制圧はカルノーの個人的な好みにも合っている。心置きなく近衛軍の隊長として仕事を果たせばよい。


「2日で準備を整え出立します。支度を」


 カルノーが命令を下す。それに対し、イングリッドは綺麗に一礼した。


「了解しました」


 言葉通りにこれより2日後、カルノーは隷下の2000騎を引き連れてガーベラン子爵領へと向かった。彼が近衛軍の仕官となってから初の実戦である。


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