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作戦会議が終わり、私は指令本部から出る。日は高く昇り、辺りを強烈に照らしていた。
作戦開始は明日の午前六時。午前五時には全ての準備を完了させて、この基地を出なければならない。私は斥候部隊に組み込まれ、今回から率いることが出来る三体の機械兵を連れて、今回奪取することになる領域の偵察を行う。
時間はあるが、特に何もすることは無く、何の訓練をしようか考えようとした時、不意に後ろから肩を叩かれた。
「紅咲少尉、これから暇か?」
後ろから声を掛けてきたのは、薙咲大尉だった。
「はい。特に予定はありません」
「よし、ならば工廠の地下に行くぞ。先に明日から率いる機械兵の顔くらいは見ておきたいだろ?」
にこりと笑った大尉は、私の返答を聞く前に手を引っ張った。
私は無言で引っ張られ続け、少し離れた場所にあった工廠へ来た。
石壁に囲まれた殺風景な建物だが、内部では機械化兵や機械兵が忙しなく動いていた。
その中の一人が、私たちに気がついたのか、持ち上げていた木箱を下ろしてこちらに向かってきた。
「あ、大尉。お久しぶりです。今日はどのような用件でしょうか?」
「忙しいところすまない。明日こいつと共に出撃する機械兵を見ていこうと思ってな」
「紅咲少尉ですね。お話は伺っております。どうぞこちらへ」
狭い通路を進み、階段を下り、さらに通路を進んでいく。しばらく歩くと、ようやく私が率いる機械兵の姿が見えてきた。
「これ、ですか?」
私は思わず驚いた。普段出撃している機械兵と比べると一回り小さく、武装も九〇年式十粍回転式機関砲に換装されている。しかし、驚くのは背部だった。一米ほどの長さを持つ、金属製の太い筒を背負っていたのだ。
「第一七世代隠密特化型機械兵です。昨日第一基地の方から送られてきたものですが、少尉の任務内容に合わせて少し改造しておきました」
「改造?」
「はい。内部機関を調整し、背部に装備した単発砲を使用することが出来るようになりました」
私は物珍しそうに、それを見つめる。
「九三年式地対地光線砲。二ヶ月前に開発された、使い捨ての光線砲だ。実戦配備はまだだが、私が取り寄せておいたんだ。上手く使ってくれ」
大尉は胸を張ってそう言った。どうやらまた貸しを作ってしまったみたいだ。
「いやー、大尉に言われたときは驚きましたよ。朝方にいきなり通信が入って、これを今すぐ装着できるかって怒鳴られましたから」
「すまないな。こいつが悪い夢を見たって言うから、急いでたんだ」
大尉と案内してくれた機械化兵は笑っている。
「そうですか。それなら納得です。……私はそろそろ作業へ戻ります。少し早いですが、ご武運を」
敬礼をした機械化兵は、駆け足で去っていった。
私は数秒の間を置いて、大尉に頭を下げた。
「ありがとうございます」
大尉は少し驚いていたが、やがて微笑むと、右手を私の頭の上に置いた。
「私もたまに夢を見るんだ。しかも大抵は正夢だ。だから悪夢を見たときは私も不安になる。……何、安心しろ。例えお前が死ぬような夢だったとしても、それは私が覆そう」
その言葉は、私を安心させるのには十分すぎるほどだった。
そして気付けば日付も変わり、私は戦闘服姿で、真っ暗な道路にぽつりと停まっている輸送用の装甲車に乗り込んだ。




