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射撃場から出た時には既に午前六時を回っていた。一階にある食堂で携帯食料を数個取ると、自室へ戻ってそれを一つ食べる。
射撃である程度気晴らしが出来たと思っていたが、やはりこの後の作戦会議のことで憂鬱になる。
作業用の机に向かうと、先ほど撃っていた自動拳銃を分解し、整備を始める。この拳銃は私が一年ほど前に自作した物だ。放棄された廃棄物処理場の奪還作戦を行った時に、近くに転がっていた部品などを集めてこっそりと基地へ持って帰り、自室で二ヶ月ほどかけて作り上げた。内部は軍の中でも普及している八八年式自動拳銃が元となっているため、弾倉や弾薬などがそのまま使える。
私は機械化手術を受ける前から、物作りが得意だった。生まれた頃から日本では銃器などが普及していたというのもあって、特に銃器の組み立てなどが得意だった。
小学校の頃、近所にあった軍の保有する工場で働いていた知り合いから貰った部品を使って、大口径小銃を作ったことがある。今では殆ど使われていない木製の銃床が特徴的なこの銃は、今も作業用の机に立て掛けられている。
整備し終えた拳銃を衣嚢に仕舞うと、立て掛けておいた小銃を机に置き、分解して整備を始める。旧式の部品が多いため、現代の兵器に比べると射程や使い勝手は大きく見劣りする。しかし、弾道予測演算や自動で行われる安全装置の解除などが無いため、一瞬で全てが決まるような戦闘の時は八七式よりこちらの方が役に立つ。
整備をしているうちに、私は今朝見た夢のことを思い出す。
あの媒介者は、弾道予測演算を開始してから安全装置を解除するまでの、僅かな隙を突いてきた。ならばこの銃であれば、ひょっとしたら斃せたのかもしれない。
五十口径。装弾数十発。内部機関が旧式とはいえ、現在普及している新型火薬を用いた銃弾であれば、有効射程距離は一粁を超える。それに、射撃訓練で何度か使用したが、命中精度は極めて高い。弾道予測演算が無くとも、一粁先にある死人の頭部を撃ち抜くことくらいは出来ると確信していた。
しかし、軍ではそれは認められていない。一部の例外を除いて、機械化兵が作戦時に持つ武器は、軍が正式採用した武器のみだからだ。私が任務の時に持っていく八七式も、軍が正式採用している銃だ。
私は数秒ほど考え、答えを導き出す。
整備を終えた小銃を分解したまま、作戦時に持っていく特殊合金製の戦闘背嚢へ詰め込むと、八七式の横に立て掛けた。弾は十発だけ入れたが、これで十分だろう。
不意に、机の上に置かれていた携帯端末が鳴る。手に取って電源を入れると、召集の二文字と、その詳細について書かれていた。
私は溜息を吐きながら、自室を出た。




