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 目が覚める。鉄格子の付いた窓の外は、何も見えない。まだ日が昇っていないようだ。

(嫌な夢を見たな)

 妙に生々しい、現実と見違えるほどの夢。それは全身を機械化した私の人工皮膚に鳥肌を立てるほど、恐ろしかった。

 視界の端に小さく表示されている時計は、午前三時を回っている所だった。

 手早く布団を片付け、洗濯したばかりの戦闘服に着替えると、様々な工具や部品が転がってる机の上に置かれた自動(オートマチック)拳銃を取る。近くに置いてあった弾倉を取り、装填する。

 上着の衣嚢ポケットにそれをねじ込むと、私は部屋の外に出た。

 静寂に満たされた廊下を静かに歩く。向かう先は、この建物の地下にある小さな射撃場だ。

 機械化兵は、戦うことを目的に機械化された。電子頭脳の記憶領域に、一通りの銃器の扱いや戦術が叩き込まれているため、今まで戦ったことがない人間でも、機械化すればすぐに戦力となり得る。

 故に、大半の機械化兵は訓練などしない。したとしても、大規模な作戦時に混乱しないようにするための演習ぐらいだ。

 地下へと続く階段を下りる途中で巡回中の機械兵とすれ違う。機械兵が手に持つ九一式自動小銃(アサルトライフル)には、無数の傷跡があった。それだけではなく、機械兵自体にも、銃弾を掠めた跡がいくつかあった。

 無言で敬礼をすると、機械兵はそれを認識したのか、しっかりと返してきてくれた。

「……何をしている?」

 不意に後ろから声をかけられ、一瞬警戒する。だが機械兵の反応からして、敵ではない。それに、声も聞き覚えのあるものだった。

「薙咲大尉、おはようございます」

 振り返り、改めて敬礼をする。すると、目の前にいる白髪の女性、薙咲雷樹なぎさきらいじゅ大尉も敬礼を返した。

「おはよう、紅咲少尉。……私だから良かったが、他の機械化兵の前でそれはやめておけ。一応軍紀違反だからな」

「申し訳ございません」

「いや、気にするな。私も一人の時は、たまにやるからな」

 大尉はにこりと笑うと、機械兵の方へ向き、再び敬礼をした。機械兵はそれを認識し、先ほどと同じように敬礼を返してくれた。

「ところで、お前はこんな時間にどうしてここに?嫌な夢でも見たのか?」

「はい。身の毛もよだつような恐ろしい夢を見たので、気晴らしに撃とうと思いまして」

 機械化兵が夢を見ることは滅多にない。おそらく冗談で言ったのだろう。私は本当のことを言ったが、予想通り、私の言葉も冗談と取られたようだ。

「なら、朝食の時間までは撃てるだけ撃っておけ。明日は第三級危険領域の奪還作戦がある。今日はその作戦会議、お前も呼ばれるはずだ」

「私が、ですか?」

「前の作戦時に、軍が警戒していた媒介者を仕留めたからな。それで次の作戦から、お前にも独自の機械兵部隊が割り当てられることになったんだ。昼くらいに携帯端末の方に情報が送られてくると思うが、別に先に言っても問題はあるまい」

「作戦会議と言うと、やはり基地内にいる上層部の方々も参加するのですか?」

「当然だ。しかも今回は運が悪いことに、第二基地の方から例の中佐が来るみたいだからな。今のうちに気持ちを静める意味でも、銃を撃っておいたほうがいい」

「……了解です。ありがとうございます」

 私は沈んでいく気持ちを表に出さないようにしながら、射撃場へ向かった。


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