表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

1

 業火に埋め尽くされたとある市街地。燃え盛る道路には、百を超える《死人》がいた。

「こちら第四斥候部隊。後方で待機中の全機械化兵、及び機械兵に告ぐ。死人を確認、数は百以上。殲滅作戦を開始する。後方支援に回れ。以上」

 市街地の中央付近にある高台に立つ一人の少女は、冷たい声でそう言い放った。

 透き通るような黒髪が、腐敗臭の混じった熱風に靡く。藍色の瞳は燃え盛る街並みを映し、その視線には感情というものが籠っていない。

 手に持っていたのは、少女の身長すら超すほどの大型狙撃銃だった。

 八七年式電磁投射(EM)狙撃銃スナイパーライフル。通称『八七式』。三十(キログラム)はあるその銃を、少女は軽々と持ち、構えた。

《八七式:接続完了》《弾道予測演算装置の起動を確認》

《電力供給:安定》《徹甲針弾の装填を確認》

《弾道予測演算開始》《終了》

《安全装置解除》

《発射可能》

 視界の隅に表示される文字を流しながら、光学照準器(スコープ)を覗く。その先に見えるのは、全身の皮膚が溶けかかり、血塗れの無残な姿で歩く《死人》の一人だ。

「展開、作戦開始。一人残らず殺せッ!」

 目を見開き、叫ぶ。同時に引き金を引き、凄まじい轟音と反動が襲い掛かる。

 照準していた死人の胴体が消し飛び、その直後に無数の銃声が辺りに響き渡った。

《電力供給:安定》《徹甲針弾の装填を確認》

《弾道予測演算開始》《終了》

《安全装置解除》

《発射可能》

 狙い定め、再び引き金を引く。

 轟音と共に射出された針弾は、一瞬で照準していた死人を跡形もなく消し飛ばす。

 道路に展開した四体の機械兵が見える。作戦開始から三十秒ほどで、半数以上の死人を屠った。機械兵の持つ九〇年式十粍回転式機関砲(10mmガトリング砲)による掃射は凄まじく、弾雨の中を彷徨う死人が次々と蜂の巣にされていく。

 しかし、これで片付くとは思っていない。死人の群れには、それらを統率する《媒介者》というものが存在する。そいつを倒さなければ、意味がない。

 不意に銃声が途絶えた。機械兵のいた場所が次の瞬間、爆発した。

《第四斥候部隊機械兵:全滅》

 赤い文字が視界に現れ、少女は歯軋りする。

 爆発地点には、いつの間にか誰かが立っていた。赤衣を纏い、一昔前の軍帽を被っている。両手には刀身が黒色の双剣を持っていて、背中には一挺の単発式小銃セミオートライフルを背負っている。

 間違いない。媒介者だ。

 素早く弾倉を入れ替え、照準器を覗く。

《連射式に切り替え》

《電力供給:安定》《対媒介者特殊炸裂針弾の装填を確認》

《弾道予測演算開始》《終了》

《安全装置解除》

《発射可能》

 媒介者は既にこちらの存在に気付いているのだろう。こちらを見て、笑みを浮かべた。

 少女はありったけの憎悪と殺意を込めて引き金を引き続ける。弾倉内にある五発の針弾は、轟音と共に撃ち出され、媒介者を木端微塵にする――はずだった。

 媒介者がいた場所に、五発の針弾が撃ち込まれる。着弾した針弾は内部に仕込まれた高性能炸薬により爆発、微細な破片を亜音速で辺りに撒き散らす。

 外した、そう思った時には既に、意識が遠のいていた。

 薄れていく意識の中、最後に見たのは、赤衣を纏う男の、不敵な笑みだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ