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業火に埋め尽くされたとある市街地。燃え盛る道路には、百を超える《死人》がいた。
「こちら第四斥候部隊。後方で待機中の全機械化兵、及び機械兵に告ぐ。死人を確認、数は百以上。殲滅作戦を開始する。後方支援に回れ。以上」
市街地の中央付近にある高台に立つ一人の少女は、冷たい声でそう言い放った。
透き通るような黒髪が、腐敗臭の混じった熱風に靡く。藍色の瞳は燃え盛る街並みを映し、その視線には感情というものが籠っていない。
手に持っていたのは、少女の身長すら超すほどの大型狙撃銃だった。
八七年式電磁投射狙撃銃。通称『八七式』。三十瓩はあるその銃を、少女は軽々と持ち、構えた。
《八七式:接続完了》《弾道予測演算装置の起動を確認》
《電力供給:安定》《徹甲針弾の装填を確認》
《弾道予測演算開始》《終了》
《安全装置解除》
《発射可能》
視界の隅に表示される文字を流しながら、光学照準器を覗く。その先に見えるのは、全身の皮膚が溶けかかり、血塗れの無残な姿で歩く《死人》の一人だ。
「展開、作戦開始。一人残らず殺せッ!」
目を見開き、叫ぶ。同時に引き金を引き、凄まじい轟音と反動が襲い掛かる。
照準していた死人の胴体が消し飛び、その直後に無数の銃声が辺りに響き渡った。
《電力供給:安定》《徹甲針弾の装填を確認》
《弾道予測演算開始》《終了》
《安全装置解除》
《発射可能》
狙い定め、再び引き金を引く。
轟音と共に射出された針弾は、一瞬で照準していた死人を跡形もなく消し飛ばす。
道路に展開した四体の機械兵が見える。作戦開始から三十秒ほどで、半数以上の死人を屠った。機械兵の持つ九〇年式十粍回転式機関砲による掃射は凄まじく、弾雨の中を彷徨う死人が次々と蜂の巣にされていく。
しかし、これで片付くとは思っていない。死人の群れには、それらを統率する《媒介者》というものが存在する。そいつを倒さなければ、意味がない。
不意に銃声が途絶えた。機械兵のいた場所が次の瞬間、爆発した。
《第四斥候部隊機械兵:全滅》
赤い文字が視界に現れ、少女は歯軋りする。
爆発地点には、いつの間にか誰かが立っていた。赤衣を纏い、一昔前の軍帽を被っている。両手には刀身が黒色の双剣を持っていて、背中には一挺の単発式小銃を背負っている。
間違いない。媒介者だ。
素早く弾倉を入れ替え、照準器を覗く。
《連射式に切り替え》
《電力供給:安定》《対媒介者特殊炸裂針弾の装填を確認》
《弾道予測演算開始》《終了》
《安全装置解除》
《発射可能》
媒介者は既にこちらの存在に気付いているのだろう。こちらを見て、笑みを浮かべた。
少女はありったけの憎悪と殺意を込めて引き金を引き続ける。弾倉内にある五発の針弾は、轟音と共に撃ち出され、媒介者を木端微塵にする――はずだった。
媒介者がいた場所に、五発の針弾が撃ち込まれる。着弾した針弾は内部に仕込まれた高性能炸薬により爆発、微細な破片を亜音速で辺りに撒き散らす。
外した、そう思った時には既に、意識が遠のいていた。
薄れていく意識の中、最後に見たのは、赤衣を纏う男の、不敵な笑みだった。




