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彼女の仲間、女性のセカイ

 悼む視線はどこにもない。野次馬が好奇の眼差しを向けてくるばかりだ。

 死んだ直後、彼女の回りを多くの野次馬が囲んだ。


「死んじゃった、死んじゃった」


「仲間、仲間」


 野次馬のほとんどは幼い女の子。友達が増えたことを喜んでいるようであった。にこにこする小さな子供の群れに、彼女は不気味さや寒さをより不条理に死んだ自分への侮辱を感じとり、唇をギュッと噛みしめた。

 こいつらが仲間でも友人でもないのは一目瞭然である。他人の死を喜んで仲間に引き入れようとする悪鬼そのものではないか。近くに転がっていた石を投げつけてやろうとしたが、彼女はそれに触る事すらできない。悔しさと憎しみだけがつのる。


「もっと、もっと」


 女の子たちは口々に笑う。動きはバラバラなものの、誰かに操られた人形の様に同じ事をしゃべっている。幼稚園のお遊戯会の様だ。


「もうしゃべらないで、気持ち悪い」


 彼女が睨んでいると、女の子たちの後ろに若い女性が立っていることに気が付いた。小柄で幼い顔立ちだが大人の女性である。


「あんた、こいつらの親玉か何かなの?」


「いいえ、ちょっと遅れているものです」


 女性の素っ頓狂な答えに彼女は苛立ちを覚えた。女の子たちは笑っているのに、彼女は眉ひとつ動かさず蝋人形の様に無表情だった。


「遅れているとか意味わからないけど、そいつらの仲間なんだよね。目障りだからそいつらを消して。人が死んだのに笑っていて反吐が出る」


「消すことはできません。しかし、あなたもいずれこうなるのです」


「意味が分からないんだけど」


「人は死ぬと、その不条理や悲しさや悔しさで禍々しいモノになっていきます。しかし、気持ちの整理、諦めとも言いましょか、そうなると徐々に浄化され心は穏やかで綺麗にになっていきます。純粋な子供のように」


 女性はひとりの女の子の頭に手を乗せた。


「この娘は70歳の老婆でした。病死して辛さを呪っていましたが、今ではこんなに浄化されました」


「浄化されると子供に戻るってこと?」


「最終的には生を受ける前の姿になり転生していきますがね」


「純粋になっても他人の死を笑う奴にはなりたくない」


「それは誤解です。早くあなたも浄化してほしいだけです。今のあなたは黒いものに覆われた禍々しいモノ。人の姿をとどめていない」


 彼女は自分の手をみる。生前と同じ形。顔を触ってみる。生前と同じ形。しかし、女性が差し出した鏡にはわけのわからない黒い物体が映っている。


「嫌だ、こんなの私じゃない」


「浄化するために、もっと怒ってください。もっと自分の死の不条理を呪ってください。最後には疲れ果て全てを諦められます。転生しなければ、そのまま悪霊になるしかありません」


 嫌だ嫌だと泣きながら彼女はひたすらに恐れた。このままわけのわからない姿で彷徨うことなどなりたくない。運命は死んでなお彼女に不条理を強いているかのようであった。

 どのくらい泣いたかわからない。時がどれほど経過したかを知る由もないが、女性が彼女の頭に触れた事をかすかに記憶している。


「こちらの世界へおいで。仲間になって皆で笑いましょう」


 女の子の群れに彼女は混ざっていた。自分の手を見る。小さな手。顔を触ってみる。小さい子供くらいの大きさになっている。


 ああ、浄化したのかな。


 彼女は他の女の子たちと笑う。視線の先には今しがた新しく死んだ者が茫然と立ち尽くしている。あの人も自分と同じ仲間になるのだろうか。

 彼女は振り返り女性を見た。女の子たちを見下ろしながら女性は嗤っていた。それは家畜が自分の意志通りに動くさまを満足げに見ているようであった。


 ここは私の世界。私の世界に入りこんでしまったら、私の仲間になるしかない。


 女性がそう嗤っているようであった。


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