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蛍の光!  作者: 真殿ゆき
1章
2/7

ゼロ号部隊の全……「なあ、誰かさんよ」

 多額の寄付をもちかけると、彼らはすんなり教祖の部屋へと案内された。こちらが言い出す前に、人払いをしてくれたのも、信者には聞かれたくないからだろう。

 今や部屋には教祖と三名の客人と、後はなぜか隅に、少女が居座っていた。


 そこは神聖な教祖の部屋というより、成金趣味の社長の部屋という方が釈然とした。だがその中での唯一の違和感、部屋の壁一面に、天央の紋章が飾られていた。

 教祖は天央の隠し子であり、高い霊力で信者をかつての央国へと導くという触れ込みには、似つかわしい小道具のつもりなのだろう。


 この教団はここ十数年で急激に増えた、新興宗教の一つだ。央族が滅んで五十年、今では霊力を知る者の数の方が、圧倒的に少なくなった。 

 そのため神秘さだけが一人歩きをして、名を語ることで、騙し騙される者が後を絶たない。


 だが信者を騙し、詐欺紛いの手法で金を巻き上げる程度では、被害者には悪いが、彼らにとってはそう大した問題ではない。


 問題は、そう問題は、別にある。


 客にソファを勧めると、教祖は無遠慮に腰を下ろす。体重の半分を占めそうな脂肪の塊は、六十近い年齢にはさぞかし堪えるのであろう。緊張感の欠片もない態度、それは油断しているのか、それとも……。


 客人は三人の男、二十代半ばと二十歳そこそこ、それに最後の一人はまだ十五と若い。

 教祖との会話を進めるのは、もっぱら二十代半ばの男だ。教祖の機嫌を伺いつつ、そつなく喋る口調は、スポークスマンを思わせる。

 だが彼は年齢上最も適しているから、教祖の興味を引く口火の役を任されたに過ぎない。


 やがて業を煮やした十五の彼が、二人に目配せを送る。すると二十歳の男が、速やかに少女の側へと移動した。

 これから始まる凄惨な現場を、無関係な少女には見せないようにとの、せめてもの配慮。

 巧みに言葉をかけ、少女を部屋の外へと誘導する。


 彼は教祖に、内密の話があると持ちかけ、教祖はすぐさま耳を貸す。

「実はあなたが、信者から多くの少女を囲っているとお聞きしまして、お願いにあがりました。私共の主人がぜひ、少女達をお譲りいただきたいと申しております。その人数によりまして、寄付金を更に上乗せする準備がございます。如何でしょう」


 問題は教団が信者から、実際に霊力が強い子供を集めているという点だ。そのやり方は、かつて央族が行っていた制度と同じだった。


 央族は過去、霊力が強い子供を捜していた。見つけると強制的に徴収し、独自の修行を行わせ、「もり」という名の特別な軍隊を作っていたのだ。

 単に教祖が卑猥な目的や人身売買などで、子供を集めていたのなら、これで得た証拠を、後は警察に引き渡すだけだ。法の裁きが、彼に相応しい末期を用意してくれるだろう。

 しかしもし、そうではないのだとしたら……。


 だが教祖は彼らが予想していたものとは、全く違う反応を見せてきた。

 即ち、ぽかんと呆気に取られた顔の後、急に怒り出したのだ。

「失敬な。そんな根も葉もない噂を鵜呑みにして、やってきたというのかね。余り失礼なことを口にすると、名誉毀損で訴えるよ」

 数多くの信者を丸め込んだだけに、口は達者な男のようだ。

 反論の余地も許さぬ勢いで、矢継ぎ早に文句を叩き込まれ、これには彼も戸惑ってしまう。


「いいよ、弓手ゆんで、俺が言う。いつまでも誤魔化せると思うなよ。証拠はあがっているんだ」

 弓手と呼ばれた彼を押しのけ、一番若い男が身を乗り出してきた。応接セットのテーブルに、取り出した写真をばらまく。その中の一枚には、さっき隅にいた少女の写真もあった。


「あんたの所の信者から、娘が帰ってこないと警察に届けが出ていることを、こっちは全部調べ上げているんだ。そこにいた少女も、その内の一人なんだろう」

 その写真の何枚かは、教祖にも見覚えがあったようで、目に見えて動揺し始める。写真を持った教祖の手が、確信を感じて震えだす。


「教祖は本当に知らないようです」

 霊視を行っていた弓手が、忠告を呼びかける。男も承知とばかりに、軽く頷く。

 今やすっかり青ざめた教祖の姿は、せいぜい教祖と崇められて、得意になって、信者から金を巻き上げる程度の小心者にしか見えなかった。

 だからこそ、傀儡に仕立て上げられた。


「本当に私は知らないんだ。信じてくれ」

「それなら黒幕がいるんだろう。この教団をここまで大きくするのに、助言をした人物が。そこまで知らないとは言わせねえぜ」

「……そ、それは……」


 それでも言葉に詰まる教祖に、男はにやりと笑うと、右掌を軽くテーブルに当てる。自らの霊力を高め、その掌に載せた途端。

「ひっ!!」

 めきっと音を立て、高価なテーブルが真っ二つに割れたのだ。それを目の前で見せられ、教祖は悲鳴を上げる。


 だが本当の悲劇が始まるのは、まだまだこれからだ。


「わざわざ、ゼロ号部隊のぜんが出てきてやったんだぜ。顔も見せずに、このまま帰れとは、随分つれねえじゃないか。なあ、誰かさんよ」

 自らをおとりにすべく、全が高らかに名乗りをあげたその時、バリッ、ドアを破って、部屋の中央に何かが投げ込まれた。

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