輪の国の歴史
島国「輪の国」は千年の長い間、一部の央族により、支配されてきた。
彼らは「霊力」という特別な力を持っていたため、その力を持たない大多数の民を使役してきたのだ。
遠くの相手と瞬時に通信する手段「念話」、遠くの距離も見通す「霊視」を持ち、空を自由に舞い、手を触れずに敵を倒す、そんな相手に普通の人間が、到底敵う筈はなかった。
「白い霊力」という特別な力を持つ「天央」を中心に、霊力を持つ者「央族」と呼ばれた支配者層と、それ以外の持たざる者。
明確すぎるが故に、階級の時代は千年の間続いた。
その歴史が変貌を見せ始めたのは、大陸にある巨大な「忠」の国が、「陽」の国を滅ぼした頃だ。
国を失った陽の国の民の一部が、輪の国に移住してきたのだ。
輪の国独自の支配体制に、陽の国の民が不満を持つのは、極自然の流れだった。
大陸から渡ってきた陽の民は、もちろん、霊力などなかったからだ。彼らは「民主主義」という言葉で、輪の民の心を蹂躙し始めた。
央族による支配を当たり前だと思っていた輪の民が、その言葉に希望を持ち始めるのは、本当にあっという間だった。
それに陽の民が与えたのは、希望だけではなかった。
「霊力」に対抗できる手段として、「大砲」「銃」などの武器、「戦車」などの兵器を提供したのだ。「念話」の代わりに「電話」、「霊視」の代わりに「双眼鏡」、「気球」を使えば、地上高くからも偵察でき、「爆弾」を落とせば、眼下を一網打尽にできる。
千年という途方もない時こそ費やしたが、とうとう彼らは文明という新たな手段で、央族と同等の力を手にしたのだ。
それも一部の者しか使えない「霊力」と誰もが使える「武器」、支配階級の央族と、大多数の一般市民と陽の民混合軍、戦争を行えば、軍配がどちらにあがるかは、まさに自明の利であった。
起こるべくして起こった革命戦争により、央族が築き上げた千年の歴史は、三年という一瞬で崩れ去ってしまう。
央族の集団自決という、実に呆気ない幕引きで。
そうして支配階級がいなくなった輪の国で、輪の民と陽の民の代表が合議で政治を行い始めた。
民の誰もが平等な世界、その夢のような平穏は、いつまでもいつまでも、央族が築き上げた千年を越えて、続く筈であった。
そして話は、それから五十年後から始まる。