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いつまでも甘くないから。愛は幸せの一部よね。リメイク版  作者: 朝山 みどり


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05 八つ当たり

05 八つ当たり


 エリザベスはいつもの時間に出勤し、いつものように給湯室へ入った。


 毎日、繰り返してきた仕事だ。昨夜どれほど泣いていても、手は勝手に動いてくれる。


 だが、エリザベスはふと思いつき、茶葉をいつもより多めにポットへ入れた。


 そして、いつものようにカップへ注ぎ、お盆に並べた。


 そこへ、いつものようにエイミーがお盆を取りに来た。


 エリザベスは自分の分だけ、改めてちょうどよい濃さのお茶をいれた。


 しばらくすると、事務所のあちらこちらで声が上がった。


「ぶっ!」


 一人が、口に含んだお茶を盛大に吹き出した。


「何だ、これは。渋すぎるぞ!」


「エイミー、具合でも悪いのか?」


「えっ? 私は運んだだけです!」


「でも、いつも君が淹れているだろう?」


「違います。エリザベスさんが……」


「え? いつもエリザベスさんが淹れていたのか……!」


 困惑した声が、あちらこちらから聞こえてきた。


 エイミーがエリザベスを見た。


 エリザベスも、黙って彼女を見返す。


 やがて、エイミーは困ったように首をかしげた。


 エリザベスは何も言わず、自分のカップを口元へ運んだ。


 ちょうどよい香りと渋みが口の中に広がる。


 危うく笑いそうになり、彼女は慌てて書類へ目を落とした。


 ごめんなさい、みんな。


 これはただの八つ当たりだ。


 心の中で謝りながらも、少しだけ気分が晴れた。


 エリザベスはいつものように仕事を始めた。


 ただし、その日は誰かの間違いを見つけても、先回りして直してはやらなかった。


「エリザベス、ここの数字が合わないんだけど」


「計算し直せば合うと思うわ」


「この書類、提出先はどこだったかしら?」


「担当表に書いてあるわよ」


「エリザベス、この予定、何かおかしくないか?」


「そう思うなら、ご自分で確認してください」


 いつもなら、問題に気づいた時点でエリザベスがさりげなく修正していた。


 日程の重複を直し、書類の不足を補い、計算違いを見つけ、必要な相手に連絡する。


 けれど、その日は何もしなかった。


 自分に割り当てられた仕事だけを、就業時間内に終わるように調整して片づけた。


 たったそれだけのことなのに、事務所の仕事は少しずつ狂っていった。


 最初の小さな間違いが次の間違いを呼び、訂正のための書類が増え、確認を取るために人が走り回る。


「どうして今日は、こんなに仕事が進まないんだ?」


 誰かが不思議そうにつぶやいた。


 定時になり、エリザベスは机の上を片づけた。


 周囲では、まだ多くの者が書類の山と格闘している。


「エリザベス、帰るのか?」


「はい。私の仕事は終わりましたので」


「少し手伝ってくれないか?」


「今日は用事があります」


 用事などなかった。


 けれど、彼らの失敗を、エリザベスが残業してまで片づけてやる理由もなかった。


「それでは、お先に失礼いたします」


 エリザベスはカバンを持ち、事務所を出た。


 背後から、慌ただしく人を呼ぶ声が聞こえてくる。


「たまにはいいでしょう」


 小さくつぶやいて歩き出す。


 朝よりも足取りは軽かった。


 フレッドとナタリーへの仕返しは、まだ何も始まっていない。


 今日困らせたのは、あの二人ではなく、無関係な同僚たちだ。


 それでも、何もかも我慢していた昨日までのエリザベスとは、少しだけ変わったような気がした。



いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

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