【四】-2 斬れば済むタイプのクズ
剣邪によってあらゆる都市が壊滅される日々において、
家というものはとっくに意味がなくなっていた。
そんな中でも、かつての栄光に縋って問題を起こす者は少なくなく、
ノーマンもそんな者達への対処に頭を悩ませていた。
しかし、パトリックは身分を全く気にしない人物だった。
出会った時に、少し衝突したくらいで、
それからは生まれに関係なくノーマンを参謀として支持してくれた。
曲がりなりにも身分の高い者がついたことで、
ノーマンもかなりやりやすくなった。
屋敷内を歩き、中庭に出る。
貧しい土地では庭にも満足な木々はない。
ただ、殺風景な空間があるだけだ。
──俺達で人々の盾になりましょう!
前の時間において、
パトリックは人々の非情な死に憤り、
誰にでも親愛の念を持って接していた。
ノーマンにとっては、その気高き姿だけが目に焼き付いていた。
中庭の中央に陣取る、異様な光景。
人と人とが泥に塗れて組み合っては組み合い、
そうしてできた、吐き気を催すほどに歪な人間の塔。
蠢く人間櫓の頂上に、その男はいた。
隣にいる小柄な女に肩を揉ませ、
下方では大柄な男に大団扇を振らせ、涼風を送らせている。
「種、マズイ、シブい」
そうして片っ端から果実を一口齧っては投げ捨てて、
貴重な食料を無惨に砂まみれにする。
殺しを除けば、都市の中にモヒカンがいるのと同じだ。
だが、その顔だけはノーマンの知っているものだった。
「やあ何だ、君達!
その可愛い子ちゃんを献上しに来たのかぁ!?」
「…………パトリック」
死に顔を覚えている人間と、また親しくなるなんて、ぞっとする。
だが、死に顔だけを脳裏に焼き付け、
その男がかつて送ってきた人生まで、
汚れのない善人のものだったかのように美化していた。
ノーマンは、己の盲目さに気づいていなかった。
「こいつ…………」
──過去に散々放蕩を尽くしてから更生したタイプだったのか。
前の時代の友の醜悪な過去を突きつけられ、
ノーマンは脳髄が痺れるようなめまいを感じた。
「領主とこいつを斬っちゃダメ?」
「おい、力が弱いぞ!
いっそ指の一本でも斬れば、残った指がまともになるか!?」
「ひいっ! お許しください、どうか、それだけは……!」
「……どうしましょうかね」
力なく、ノーマンは肩を竦めた。
わかったことが一つある。
前の時間で、肩を並べて無辜の人々のための盾となり、命を預けた友は、まだ友ではない。
今ここにいるのは、首と胴体を分かち、斬り捨てれば済む程度のクズだった。
──こんな街なら、領主親子ごとモヒカンの餌にしてやって、民という資源だけをマグリバに連れて行く方がマシか?
極めて合理的で、血も涙もない黒い結論が、
重い淀みとなって、執事の腹の底に蟠った。




