第8話 金貨5枚の緊急依頼に連行される
「探せ。今すぐに探すのだ」
ギルドから遠く離れた東の大地。そこに、大きくそびえ立つ砦があった。
「しかし、自分の意思で出ていかれたのでしょう? ならば連れ戻すのはかなり難しいかと⋯⋯」
豪華そうな椅子に、偉そうな態度で座っている者がいる。その前には、膝をつき命令を聞いている部下がいた。
「それとこれと、なにか関係があるとでも言いたいのか? あいつは私の娘だ。自由にさせてはたまったものじゃない」
「いえ、そのようなことでは」
部下がそう言うと、大きな音が響いた。
机が壊れそうな勢いで叩いたのだ。
「じゃあどういうことだ? 説明しろ」
凍てつくような声だった。引き離すような、たが、そこには焦りも感じられた。
「なら探せ。地の果てまで探すのだ」
「ははっ!」
そう言って、部下が部屋を出ようとしたときだった。砦が揺れた。
「なっなんだ!?」
さっきまでの威厳はどこへ行ったのか、間抜けな声がした。
「様子を見て参ります!」
部下はすぐさま部屋を出て行った。
「このままでは、このままでは、娘にわけを聞けずにこの世を去ってしまう」
誰にも聞こえないような声で呟いた。
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あっという間に部下が帰ってきた。
「魔王軍が攻めてきたようです! 護衛も全力で応戦しているようですが、まったく歯がたっていないようです!」
その部下の声には、焦りが含まれていた。
「義勇軍の応援要請をいたしますか!」
部下は聞くが、答えが返ってこない。どうやら悩んでいるようだ。
「報酬が必要なため、莫大な資金が必要になるでしょう。ですが、このままでは、娘さんに会えず仕舞いですよ! 本当にそれでいいのですか?」
部下が1番悔しがっているように見えのは気のせいだろうか。
「わかった。応援要請をしよう。報酬もあちら側の言い値でよかろう」
「ははっ! すぐに要請いたします!」
部下は駆け出すようにして部屋を出ていった。
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スレイ一行は中央広場に戻ってきた。
「ねぇ見て! 緊急依頼だって!」
ラソラはクエストの看板を見て、言った。
そこの看板には、それ1枚しか貼られていなかった。
「今、ギルドの人影がやけに少なかったのは、このせいか」
スレイは1つの影も見えないギルド内を見渡した。
「どうせみんなはこの報酬欲しさにこの依頼を受けたんだな。命知らずなやつらだ」
スレイはそこではっとする。命知らずでは表せないぐらい命知らずなやつが1番近くにいると気づいたのだ。
「報酬は1人あたり金貨5枚だって! もちろん行こ!」
ラソラは全員に有無を言わさず、ニコニコでギルドを出ていった。
もちろん転送魔法で全員が連れて行かれるのであった。
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「無理やりはやめろ! せめて許可を取れ!」
「だって〜、みんな何も言わないから、いいかな〜って、ね?」
ラソラは首をかしげた。まるで自分は悪くない。返事しないやつらが悪いんだと言っているようだ。
「ここ、は⋯⋯本当に、ここですわよね?」
スレイとのやり取りなんか気にせずラソラへと質問した。
「うん! 東の森に囲まれた砦って書いてあるから、合ってるはずだよ!」
するとユスは、なにか決意を込めたような目に変わった。
「それでは私は、狙えるところへ」
「あ、待って!」
スレイが行こうとするビルを引き止めた。
「あの銀貨で買ったやつ。遠くの人とやり取りができる優れ物だ」
スレイはビルにそれを渡すと、行くように促した。
「行って。なんか気づいたらここから連絡して」
スレイはビルを送り出すと、砦の頂上を見た。
「魔王軍からの本格的な侵略が開始されたか。まずいぞ」
少し遠くでは、戦いの火花が散っている。見たことのないような最新兵器が山のようにあった。
空を飛ぶ物体、大型の攻撃車など、ここからでも見えるものが複数あった。
「うわぁぁ! この野郎! くっついてくるんじゃねぇ!」
突然叫んだのはラソラだった。ラソラの頭には緑色の生き物が乗っていた。居心地良さそうにくつろぎだした。
「テメェ! この野郎! どっかいけ! 死ね!」
さらっと飛び出す問題発言に、耳を貸している暇はなかった。
「クソが! クズ! ゴミクソ! 死ね!」
もう語彙力すらもなくなりつつあるラソラだった。
「ラソラ、カエル苦手なんだな」
面白い光景が見られたとスレイは少し煽るように笑った。
「テメェ! こいつどうにかしやがれ!」
スレイは仕方ないなぁとカエルをつまんだ。そして元いた森へ帰した。
「あぁ! 苛つく! クズがぁ!」
ラソラはカエルごときに世界を滅ぼすぐらいの目つきをしている。
ラソラは1人で砦へ突っ走っていった。
「おいよせ! せめて一緒に行動するぞ!」
スレイはそれを追いかけた。ユスも珍しく後に続いた。
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近づいてみると、砦の周辺は火の海と化していた。見渡す限り真っ赤に染め上がっていた。
「何だよこれ。一瞬にしてこうなのか?」
スレイは上空を飛んでいる飛行物体に目をつけた。
「あいつらが爆弾みたいなものを落としてる! あいつらがいる限り一生戦況は変わらんぞ!」
砦の周りには、首から上がない異界生物や、人間の指と思われる物、ましてや生首なんかも転がっている。
「これは、これしかねぇ!」
そう言いながらスレイは剣を出し、掲げる。
「『舞』――濤纏擲踊!」
すると黒雲が立ち込め、晴天だったはずの天気は一瞬で豪雨地帯へと化した。
「これなら、火が消えるはず!」
慎重派のスレイですらも焦りを見せるぐらいだ。相当まずい状態になっている。
あたりの赤色は人の血だけに変わった。上空を飛んでいた物体も、豪雨には敵わないのか、そそくさと逃げてしまった。
「感謝いたしますわ」
ユスは小さくつぶやくと、色んな死体が山積みになっている上を通り抜け、入り口へ向かった。
「門番がいるぞ!」
スレイは顔をのぞかせた。入り口のところには門番が立っていた。
「おそらく援軍も直ちに来て一瞬で死ぬだろう」
スレイは別の道はないかと探し始めた。
「こいつら、クソが! 『ニベーディム・プラヤ』」
ラソラは死体の駆除を始めている。相当邪魔なのだろう。カエルの怒りはまだまだ収まっていないように見えた。
「人間は溶かすなよ?」
スレイは念の為言っておく。ラソラのことだから、なにがあるかわからない。
「正面からの突破は厳しい。ならばあの裏口なら行けるかもしれませんわ」
ユスは誰にも聞こえないような声でぼそっとつぶやくと、まったく別の方へ突っ走っていった。
「ユス! どこ行くんだ!」
「確認してきますわ!」
それだけ言うと、ユスは見えなくなった。そこには大雨が降りつけていた。
「ラソラ! 右から来る! 敵の援軍だ!」
スレイはラソラに伝える。
「俺は混じってくる! 時間稼ぎは頼んだ! 『僞』――久達装身!」
スレイは剣を掲げると、さっき蹴散らしたザコ敵の1人になった。
「じゃあ! 内側からやる!」
スレイは敵側に合流した。まったく敵に攻撃されていない。バレていないのだろう。
「これで私の攻撃が当たっても知らねぇからな! 『インフィジャール・カリス』」
ラソラは手加減無しに爆発魔法を連呼する。あたりには轟音が何回も響いた。
「数が多すぎるんだよ! 『シュヴェドゥメ・ムツクレリ』」
そこには半透明の壁が設置される。それを境に、世界が青色に染まった。その奥から、どんどん倒れていく様子の敵達だった。
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「『灼』――灼火情辛!」
スレイは敵側の1番後ろに陣取った。中央付近だと大量攻めに遭うと考えたためである。
あたりの敵はスレイの火を帯びた一撃で瞬殺されていた。業火の炎だった。
「『零』――琉河邏零!」
最初の攻撃に気づいた数体の敵が攻撃を仕掛けてくる。それを冷たい刃で対抗する。それは、一度受けるとかなり体温が低くなる技だ。
「『穿』――亂心亂穿!」
スレイは近づいてくる敵にも容赦なく突き刺しを始めた。刃は貫かず、途中で止まって次の手に進んでいる。
そのことから、貫通ができない代わりに、回数が多く、さらに攻撃速度もかなり早いのだ。
「こんなにたくさん技を連続で放ったことはないぞ」
スレイは息を整えた。久しぶりにこんなに体力を消費したからだ。それと同時に、スレイはラソラの元へ戻っていった。
「なんなんだこいつら! キリがねぇ!」
「クズどもがぁ!」
スレイとラソラは、共に次々とやってくる異界生物を倒し、疲弊していた。
「『禦』――薄壁脆崩!」
スレイは、時間稼ぎに薄くて脆い壁を何重にも設置した。
「仕方ない。ラソラ! 回復を準備しておいてくれ!」
スレイはラソラにそう言うと、敵のいる方へと走っていった。もちろん、スレイまんまの姿で。
「はぁ? 何いってんだテメェ?」
そう言いつつも、回復を準備するラソラであった。
「『アザーブ・ダル・イアーヴァ』!」
ラソラの目の前には半透明の緑色の円が出てきた。
「あれを、やるしか、それ以外に、方法はねぇ!」
スレイは覚悟を決めて、剣の柄を握っていた。ブルブルと、震える手で握っていた。




