第6話 やる気を出してさしあげますわ!
「たかがスライムごときに、そんな怯えていては、なにもできませんわよ?」
ユスは草むらにひっそりと構え、巨大スライムの観察をしているスレイに言った。
「子分をたくさん引き連れてるかもしれないんだぞ?」
そんなことは気にせず、スライムの元へ笑顔で走っていく者と離れていく者がいた。
「離れた高台に行ってまいります」
ビルは遠くの高台を求め歩いていった。
「うわーい! 大きなスライムだぁ! お友達になってくるねぇ!」
「おいよせ!」
スレイは引き留めようと声を上げたが、そんなのは無駄だった。
「やっほー!」
ラソラがぷよぷよのスライムに抱きつこうと飛び込んだ。
「うわーい! ⋯⋯ってあれ?」
ラソラはスライムの後ろに回っていた。
「今ラソラが貫通したぞ。何がどうなってんだ?」
「うえぇ。なんかねっとりしてるぅ!」
ラソラは気持ち悪いと言いたそうな顔をしている。
「貫通ですって? わたくしが試してさしあげますわ」
ユスは面白半分で弓を構えた。
「『電撃矢』」
その矢はスライムを貫通し、向こう側の地面に突き刺さった。
「攻撃が効かない!? そんなバカな!」
「スレイぃ! なんかねちょってして気持ち悪いぃ!」
ラソラの体にはベトベトの何かが張りついていた。
「これはちゃんと洗わないと、汚れは取れねぇな」
スレイは自分も試そうと剣を構える。
「『震』」――搖床地廣」
スレイが剣を地面に突き刺すと、あたりの地面が揺れた。ラソラとユスは思わずバランスを崩した。
肝心のスライムにはまったく効いていない。それどころか、マッサージ程度にしかなっていない。
「まだ気づかれてないってのが救いだな」
スライムはなぜか自分の体をたくさんのものが貫通したのに気づかない。
それどころか、てっぺんの太陽で日向ぼっこをしているようだ。
「物理攻撃が効かないな。どうしたものか」
「見てみてぇ! 『ユシュ・キペ・パルル』!」
ラソラはスライムを召喚した。
「ほらぁ! かわいいよぉ!」
ラソラは両手を広げながら飛び跳ねている。なぜか楽しそうだった。
ラソラに真似て、召喚されたスライムもジャンプし始めた。今回は、意思を持つことを許されたみたいだ。
そんな姿にやれやれと両手を上げるスレイだった。
そのとき、なにかがスレイの上空を通り抜けた。それが着弾した地面は、氷で覆われた。その地面も、巨大スライムの後ろにあった。
「ビルのか?」
スレイは弾が来た方を見るが、何もなかった。
「もっと後ろにいるのか? まぁいい」
スレイはまず目の前でるんるんで飛び跳ねているやつをどうにかしようと考えた。
******
「『凝射』」
それとともに、大きな発射音が響いた。弾丸がスライムを貫通することを確認した。
ビルは次の弾丸を詰め込むと、もう1度照準を合わせた。
「『錯射』」
またしても銃声が響いた。弾丸はスライムに当たった瞬間破裂した。だがダメージはないようだ。
その後スライムは、なぜか挙動不審になった。その後すぐに正気に戻っていそうだった。
「物理干渉が効かぬならば、精神干渉をいたすまで」
ビルはもう1度弾丸を詰め込んだ。そして、照準を合わせる。
******
「なんか、こいつの動き変じゃねぇか?」
スレイがそう呟いたのは、2発目の弾丸が発射された直後だった。
さっきまで静かに日向ぼっこをしていたのに、突然動いたと思ったらまた止まる。それの繰り返しだった。
「スライムの挙動が不審ですわよ?」
ユスも薄々感づいていた。
「あ! 次はそっちね! あ、やっぱそっちかぁ!」
振り回されているのに、なぜか楽しそうなラソラには、まったく気づいている様子は見られなかった。
「もう〜! 次はそっち〜?」
ラソラには疲弊が見え始める。――そしてついに力尽きたように立ち止まった。手を膝に置き、息を整えるためか、深呼吸もしていた。
そんなとき、スレイの真横に向かって何かが向かってきた。地面に到達すると、少し突き進むだけですぐに止まった。
「ビルの銃弾か?」
スレイはその銃弾を確認する。
そこには、紙がついていた。
「なんだこれ? なんか書いてあるぞ?」
スレイは自分の横へ落ちた銃弾についていた紙を取り外した。
「『そのスライムに物理的干渉は効かぬ。精神干渉で翻弄させるべし』」
きれいで丁寧な字で描かれている。おそらくビルのものだろう。
「精神攻撃か」
スレイはそう呟いた。
スレイには心当たりがある。精神干渉の技に。
「『靈』――呪々靈迎」
それと同時に、スレイは剣を上に掲げる。
スレイがそういったが、何も起こらない。起こっているように見えないのだ。
そのとき、誰も気が付かなかった。近くに『影』が潜んでいることを。
そのとき突然、スライムが雄叫びをあげる。ようやくスレイたちのことに気がついたみたいだ。
「相手に気づかれた!」
スレイはそう叫ぶと、もう1度技を出した。
「『禦』――相防却撃」
半透明の壁がスレイの目の前に出現する。向こう側の世界が、青みがかった色をしている。
それと同時に、スレイの方向にドロドロの触手が伸びてきた。それは、半透明の壁にぶつかった。
すると、半透明の壁は黄色く光りだす。触手が飛んできた倍以上の速度でスライムの元へ跳ね返った。
『バァァァン』
跳ね返るとき、あたりにそんな音が響いた。
それと同時に、半透明の壁はピキピキと音を立てて割れた。もう役目を果たしたということか。
「あれぇ? なんか手が戻っていったよぉ?」
いつのまにか、スレイの真横にはラソラがいた。
スレイはそのラソラの話を無視する。
「わたくしの聖なる攻撃を避けるなど、万死に値致しますわよ!」
そう言ってユスは弓を構えた。しっかりと狙いを定めている。
理由はどうあれ、やる気が出てきたようだ。
「『重荷矢』ですわ!」
そうして矢を放つ。その矢は曲線を描きながらスライムに直撃した。その瞬間、スライムは押しつぶされたようにぺしゃんこになった。
「あれぇ? ぺしゃんこになっちゃったよぉ?」
ラソラが首を傾けた。まだ平和な状態で。
その質問に答えたのは、スレイではなくユスだった。
「わたくしの重荷矢の効果ですわ。重圧で押しつぶす効果があるはずなのですわ!」
今も、実際に押しつぶされている。だが、それだけでは足りないと言っているようだった。
「本来の力は紙ぐらいにはぺしゃんこになるのですわ」
ユスは少し悲しそうに見たが、すぐに立ち直った。
「来るぞ!」
スレイがそう言った。それと同時に、スライムの粘液がこちらに向かって飛んできた。
「『禦』――絶壁黒石」
すると目の前に真っ黒い石板が出てきた。それの防御力は半端ない。
その黒い板は、スライムの粘液を浴びたとき、粘液もろとも消し去った。
「これはどんな攻撃でもびくともしない。その代わり、一度しか攻撃が受けられないんだ」
スレイは淡々と説明した。
「どうするのです? わたくしは何もできませんことよ?」
ユスはスレイを試すように見た。なぜだか知らないが。
すると、突如として雲が増えてきた。スレイの顔に、いくつか雨粒が垂れる。そして、数え切れないほどに増えた。
「雨か。タイミングわりぃな」
あたりには少し霧が発生し、前が見にくくなった。
スレイは仕方ないかとスライムに目をやった。
そのときスライムは、いつの間にか元の姿に戻っていた。
「見てくださぁい! 雨ですぅ!」
ラソラは両手を広げてくるくる回っている。どんだけ呑気でいられるのだろうか。
「とりあえず攻撃するのですわ!」
ユスは弓を構えると、てきとうかと怪しくなるぐらいの速度で発射していた。
「凍結矢」
その矢は、スライムを貫通すると、スレイは感づいた。だが、見えたものはそれではなかった。
スレイはスライムを切り刻もうと、剣を構えた。
「『戮』――絶綠涯脈」
するとスレイはとてつもない速度で突っ込んでいった。




