第10話 僕なんかがやっていいわけ?
「テメェ、なんか思いついたなら言えよ?」
ラソラは、自分では何も思いつかないからか、高圧的な態度でスレイに迫る。
「うまくいくかわからないけど⋯⋯」
スレイは2人だけに聞こえる声で言った。
「僕は、なにをすればいいの?」
リデソは作戦を聞いた後、もちろん聞いた。
それに対しスレイは天井を指さしながらこう答える。
「あそこを壊してくれればいいよ。(修理代がかさむが、致し方ない)」
スレイは自分の葛藤を抑え込んで言った。
「わかった。でも僕じゃ届かないと⋯⋯」
「とりあえずやってみないとわかんねぇよ」
スレイはそう言うと、自分も剣を取り出した。
リデソは覚悟を決め、天井を睨みつける。
「行くぞ。『擲』投撃暴・爆還廻」
リデソは鎖でつながった2つの斧をぶん投げる。それは高めの天井にも余裕で届き、粉砕する。おまけに、爆発も起こる。終いには、爆発の勢いでか、リデソの元にしっかりと返ってくる。
「よし、次は俺か」
スレイは剣を取り出すと、下に剣先を向ける。
それを思いっきり下に下ろす。それは、ある時を境に進まなくなる。同時に、金属がこすれ合うような音も響いている。
「刺さらない!?」
スレイは一瞬驚きを見せた。木材の下側には、金属が張り巡らされていた。どうやらそれが原因らしい。
ならば、とスレイは技を繰り出した。
「『穿』千撃激貫・一点集中!」
スレイは力を溜め込む。千回の突き刺しを、たったの1回に凝縮させる。全ては、金属を貫くために。
あたりにギィーという金属がこすれる音を響かせた。
「よし、おそらく素材が変わった」
そのときには、剣の大半は地面に埋まっている。
「『震』天地開闢!」
スレイは剣の柄にかける力を大きくする。
すると、床ごと地面が動き出した。
「こうすれば、行けるだろ」
スレイは螺旋状に登れるように並べると、2人を手招きする。
そのときだった。前線部隊がこちらの方へ引いている。どうやら戦線はかなり押されていて、きつい戦いだとわかる。
「テメェら! 先行っとけ! 無能がこんなとこでただ倒すだけなんて、もう必要性がねぇんだよ!」
「ラソラ! だめだ! 俺たちも手伝う!」
スレイは珍しくラソラに反抗する。
「ふざけんなよ? テメェなんか、邪魔でしかねぇ!」
ラソラの声は低く、凍てつくように感じる。そう話している後ろでも、戦いが繰り広げられていると思うとゾクゾクする。
それでも、その場を離れないスレイとリデソ。そんなスレイたちに、ラソラはもう一言つけ加えた。
「テメェに見せ場をくれてやるっつってんだよ! わかったらはよ2人でいけ!」
その言葉に返事をしたのはスレイではなく、リデソだ。
「わかった! 見せ場はもらいました! でも、僕にそんなの務まらないよねえ。どうしよう」
なにかよくわからないことを考えているようだが、スレイは気にしない。
「わかった。その代わり、お前1人で食い止めろよ?」
スレイはラソラに警告をした。
スレイは戦うラソラを背に、自分で作った螺旋状の階段を上る。それにリデソも続く。
そして、リデソが壊した天井の穴から次の階へと入った。
******
「まるで直近まで使われていたような内装だな」
2階に上がった先には、生活感あふれる部屋が広がっていた。
だが、その生活感を壊す、真っ赤なシミがいくつもあった。
「この赤いシミ、血か?」
スレイは絨毯についている赤いシミを指差す。
「う〜ん、僕が言ってもどうせ信じてくれないだろうけど、多分血だよ」
リデソは、なぜか自分を下げて言う。
「もう死体は回収されたのか。――もしくは、埋められたか」
スレイは、なぜか意味深な発言をする。おそらく意味はない。
「ここにも、血、かわからないものがあるけど」
リデソは机の脚や、あたりの地図、よく読んでいたであろう本などにも、血のようなものがついていた。
「ところでこの部屋、誰の部屋なんだ?」
スレイがたずねると、リデソは部屋を見渡した。
「この旗、見たことあるかも」
リデソは部屋の隅に立てかけられている旗を見て言った。
旗に近づき、広げてみせる。
「やっぱり。これ、あの御方が作った防衛軍の旗だ」
リデソは呟いた。
「あの御方?」
スレイは聞いたが、リデソには届いていなかった。
「もしかしたら、他の部屋もあるかも。え、でも、僕なんかが、開けてもいいのかな?」
リデソは旗の近くにあった扉を開いた。
******
「やっぱり」
そこには、部屋がいくつかあった。
「リデソ、なにかわかるのか?」
スレイは期待をこめて聞いた。
「多分、防衛軍の団長の部屋がこれ。多分ね? 多分」
「団長か。で、他はわかるか?」
「入ってみないとなにも」
そのとき、スレイの耳に、かすかに人間の声が聞こえた。
「待てよ? 一旦静かに」
スレイは一本指を立て、口の前に持ってくる。
リデソはそれに従い、黙る。
スレイが壁に耳を近づけた。団長の隣の部屋から、死にかけの人間のような声が聞こえる。
「隣の部屋! 誰かいるかも!」
スレイは急いで壁から耳を離し、ドタドタと音を立てながら隣の部屋に移動した。
******
「大丈夫ですか!?」
そこには、瀕死の人間がいた。出血がひどく、何回か刺された跡も残っている。激しい攻防があったようだ。その体には、紫色のあざが数カ所に及んでいる。机の上の液体はこぼれ、数種類の色が散乱している。
「錬金術師の部屋かも」
その錬金術師らしき人は、奇跡的に生き残っている。おそらく自分で薬を調合したのだろう。
すると、かすれた声がスレイの耳を響かせる。
「私を、無視するんだ。諸悪の、根源は、上だ。私はもう、長くは持たない」
錬金術師は、とぎれとぎれの言葉で、でも正確にスレイに事実を伝えようとしている。
「全ての部屋の、『あれがつなぎあっているならば、道は、開かれる」
それを言い終わると同時に、錬金術師は意識を失った。
「『あれ』って、なんだ? 検討もつかないぞ」
「とりあえず他の二部屋も見てみよう」
リデソは自分で提案しておいて、否定する。
「え、でも、僕なんかが入っちゃだめかな」
なぜこんなにも自己肯定感が低くなるのだろうとスレイは思う。
「他の部屋は入れたじゃん?」
「それは、不慮の事故って言うか、仕方ないって言うか⋯⋯」
リデソは慌てて否定する。自分なんかがと思っているようだ。
「さ、行くか」
「⋯⋯はい」
「ありましたわ」
ユスは、松明の光がうっすら灯る、武器庫にいた。
「ここの武器庫、いつまでも無防備ですわね」
そう言いながらユスは奥の方へ向かった。
「このあたりのレバーを引けば確かあったはずですわ⋯⋯」
その声は、少し自信なさげだった。
暗すぎてレバーの位置が見当たらない。手探りで探すが、一切当たる気配がない。
だが、別の気配が迫ってきていた。
「なんか、音がしたような⋯⋯」
誰かが、そうつぶやきながら武器庫に足音を近づけてくる。
ユスは、相当バレたくないのか、口を抑えた。鼓動がうるさくなっていくのがわかる。足を折りたたみ、地べたに座り込んだ。いつもの態度とはまるで違った。
そして、その足音は完全に武器庫へ近づいてきている。
「もしかしたら、あの兵器が? いや、ごく一部の人間しか知らないはずだ」
ほぼ常に独り言をしゃべっている。口がよくまわるものですわとユスは思う。
「まあ、一応確認だけするか」
段々、足音が近づいてくる。それとともに、明るい光も迫ってきている。
ユスは棚の物陰に隠れながらその様子を眺めている。
「大丈夫か。下ろされていないな」
ユスは離れていく足音を聞いて、安堵したが、それが間違いだった。口から離した手が、散らかっている段ボールに突撃したのだ。
『ドサッ』
という音があたりを響かせた。狭い空間だからか、より大きく聞こえた。
ユスは、今度こそ終わりだと思った。
段々と足音が近づいてくる。さっきと同じ体勢をとる。
「誰かいるんだろ? 出てこいよ。そしてら探す手間省けるからな」
次々と段ボールという壁がなくなってしまう。
そしてついにそのときがやってくる。
そいつと、ユスの目が、ばっちり合ってしまう。
「お前、お前は――!」




