第9話 キリがねぇなら強行突破だ!
「こんなところ、二度と来たくはありませんでしたわ」
ユスは、砦からちょっと離れたところにいる。そこにも、スレイが降らせた豪雨の影響は及んでいる。
「確か、隠し通路がこのあたりにあったはずですわ」
ユスは砦を守る城壁の壁を押していた。こちらは正面よりも異界生物が少ないようだ。
ユスが石レンガで建てられた城壁を押す。
すると、1箇所だけ、不自然にへこむところを見つけた。
「ここですわ」
ユスはピンと来た。力強くその壁を押し込んだ。
「ありましたわ」
静かに地面が開き始めた。そこには階段があり、その奥には一直線の通路があった。
ユスは華麗に階段を下る。ユスが完全に下り終えると、地面は音もなく閉ざされた。
そして、直線上の天井には、埋め込みのランタンが吊るされていた。
「こんなとこ、二度と使いたくありませんでしたわ」
ユスは静かにそう呟いた。
そして、静かに直線の通路を歩き始めた。
そこには、ユスの足音が聞こえるだけの、静かな空間が残った。
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「よし、やるか」
スレイは覚悟を決めた。
震える手で剣の柄を掴んだ。
「ラソラ、離れてろ。じゃないとお前も傷つくかもしない」
「はぁ?」
ラソラはそう言いながらも、スレイのところから離れていった。
「『舞合戮』崩擲滅脈・壊體」
スレイは大地を蹴り上げた。
スレイは風の速度で斬りつける。次々やってくる異界生物を無慈悲に切り刻んだ。その様子は、実に残酷で、到底見せても良いものではなかった。
異界生物の肉片が飛び交っている。残酷なまでに切り刻む音が容赦なく空気を震わせる。
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「こんな、もんか」
スレイの体には激闘を制したと思えるような傷跡が一切なかった。
ただ、ものすごく疲弊している。
「流石に、もう、来ねぇ、だろ」
言葉のとぎれとぎれになっている。それほど疲れたのだろうか。
「テメェ! 勝手に休んでんじゃねぇよ!」
スレイが壁に寄りかかったとき、ラソラが大声をあげた。
「『アザーブ・ダル・イアーヴァ』」
ラソラは緑色で半透明の円を出す。
「サボってんじゃねぇよ?」
スレイは、ラソラに無理やり回復させられた。戦う人員を増やすために。
「はよ行くぞ!」
そう軽い足取りでラソラは入り口へ向かおうとする。
「まずは他の方面の部隊と合流して、そこから一気に攻めるんだよ」
スレイは簡単に作戦を説明した。ラソラには無意味だが。
「ごちゃごちゃうるせぇな! 行くぞ!」
ラソラは脳筋で入り口を強行突破しようとしている。
「生存確率の上昇のため、必須の行動だ。実力でねじ伏せるだけじゃだめだ!」
珍しく、スレイは力を振り絞っていう。スレイの話に興味のないラソラは気付いたときには突っ込んでいた。
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「テメェ、どけ。さもねぇとテメェの命はねぇ」
低く、冷たい声で言った。それは心に突き刺さるようだった。
「無理だ。今ここで殺してみろ。大量の仲間たちがお前らなんか瞬殺してくれる!」
門番が冷たく返す。
そのとき、ホイッスルが鳴った。おそらく行軍の合図だろう。大量の異界生物が流れ込んでくる。
「だから言ったじゃねぇかよ! 『禦』薄壁脆崩!」
スレイが剣を掲げると、目の前には、何重にも重なった、分厚い壁が出来ていた。
「とりあえず援軍を待て!」
スレイがそういうも、ラソラは聞いていない。
そのとき、初めて聞く声がする。
「『斬』非赦激・斬亂廻」
竜巻のようなものがスレイの横を通り抜けた。
「なんだこいつ!? ラソラ?」
「どけテメェ! 邪魔なんだよ! 突っ立ってるだけならテメェもぶっ殺すからな?」
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ラソラではないようだ。一体誰なのだろうか。
相変わらず、口が悪いラソラだった。
「みんな、僕のせいでやられちゃったんだ。僕が、足手まといだから、みんな、やられちゃったんだ」
スレイの耳には小さな声が聞こえていた。
「今、こんなとこでグズグズしてたらお前も死ぬかもしれねぇぞ」
スレイは誰かもわからないのに言葉を返した。
そう言っている間にも、援軍は止まることを知らない。
「『戮』絶綠涯脈!」
スレイは大量の援軍が構えるその地へ突っ込んだ。
援軍たちがどんどん無惨な姿になっていくのが遠くからも見える。世の中、残酷なものだ。
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「僕も、頑張ろ」
そこには、1人の小言が聞こえた。それも、スレイの耳には一切入っていなかった。覚悟を決めたような表情に変化する。そして、武器、つながった2つの斧を構える。
「『破』筋壊直・裂殺廻」
ものすごい勢いで回転しながら援軍の方へ突っ込んだ。後先考えずに行動しているようだ。
「『戮』殲滅壊――って、なんで誰かいるんだよ!」
スレイは、途中で技を放つのをやめ、人のいる方を見る。
「僕なんて、別に、何もしてないんですよ。だから、僕にいくら傷がついたって、気にしないでください」
スレイはその言葉を無視し、技を繰り出す。
「『僞』宮慄迷々!」
スレイはそこにいる敵たちへ技をぶつける。
その敵たちは突然挙動不審になった。なにかを、錯覚しているような動きだった。
「はい! 『殺』滅々慈・断別廻」
「呑気に会話してんじゃねぇ! 『インフィジャール・カリス』」
3人の技が次々と炸裂する。
「もうこのままじゃキリがねぇ! スレイ! 強行突破だ!」
ラソラがスレイに伝える。
「このままではずっとここで足止めされる。でも強行突破よりせめて中の様子を確認して⋯⋯」
スレイは不思議なことを発している。
「あの! 僕が足止めしておきます! 2人は、とても強いので、はやく、中へ行ってください!」
完全な死亡フラグが立った。こんなのよくみる典型的な死亡フラグすぎると思う。
「誰だおめぇ?」
ラソラは質問をぶつける。確かに、名前は聞いていない。
「僕はリデソです。あの、僕が足止めするので、みなさんは⋯⋯」
「何いってんだテメェ!」
提案をするリデソの話を完全に遮る。
「強いやつと戦いたくねぇのか? もうこの砦、どうせ占拠されてんだよなぁ!」
ラソラはそう言いながら砦を見上げる。
「ラソラは、君も強いから、一緒に行こって言ってる。さ、行くか」
スレイはラソラの言葉を翻訳して伝える。
「でも、僕、弱いから。だって、みんな死んじゃったし⋯⋯」
「グズグズ言ってんじゃねぇ!」
ラソラは大声が響く。その間にも、後ろでは激闘が繰り広げられていた。
リデソは決意を固めた。
「わかりました。行きます」
一行は、砦の中に入った。
「そういえば、僕はなんて呼べばいいの?」
リデソは、名前を聞いた。そういえば聞いてないなと思う。
「俺はスレイだ」
「私はラソラ。足引っ張ったらぶっ殺すからな?」
ラソラはなぜそこまで脅すのかよくわからなかった。
「スレイさん、ラソラさん、お願いします!」
一行は、門番を蹴散らし、砦の中へと踏み入った。
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「なんだこれ?」
スレイたちの前に広がっていたのは、とても広い空間だった。
「こんな、無防備でいいのか?」
スレイは裏があるのではと心配する反面、少し安堵した。敵がまったくいなかったのだ。
だが問題は別にある。上に行くための階段が、不思議な鎖で閉ざされているのだ。
「どうすれば、どうすれば上に上がれる?」
スレイはあたりを見渡した。
「これが、魔王軍の力か!?」
周りには、なにもない。
「こんなの、破壊すればいいんだよぉ! 『ニベーディム・プラヤ』」
ラソラは破壊魔法を放つ――が、鎖はびくともしない。それどころか、魔力を吸い取って強くなったような気がする。
「テメェら、これ切れ!」
スレイは、1度ラソラの命令を聞いてみようと思う。
「やるか、リデソ。『灼』灼火情辛!」
「はい! 『岩』岩破勢・鉄超廻!」
2人の技が同時に炸裂する。それでも鎖はびくともしなかった。
「無駄だな」
スレイは冷たく言った。
「じゃあどうすんだよ!」
ラソラはスレイに詰め寄る。
「それを今考えるんだよ!」
「2人とも、どうか、喧嘩はやめてください!」
リデソが間に入る。
熱くなっていたスレイは冷静になる。
「どうするべきなのか」
スレイは思考を巡らせる。どうすれば、鎖を破壊できるだろうか。
「あーもう! 壁を破壊すれば、2階ごと落ちてくるんじゃねぇか!」
ラソラは自分がいい発想をしたと思ったのか、自信満々に言った。
「それはだめだ。修理費がとんでもないことになる。だが、破壊するってのは使えるかもな」




